~近代化され、西洋化された現代の日本で、アイデンティティという言葉が使われるようになって久しいけれど、幾重にも取り囲む多層な世界、多様な価値観、それぞれとの間断なき相互作用、その中心にある不安定で動的な『自己』に、明確なアイデンティティを自覚するのは生半可なことではないのだ、本当は。ましてやその『自己』が自身が取り囲む多層な世界を語り出す、などということは。その中に棲まう、地霊・言霊の力とおぼしきものを総動員して、一筋の明晰性を辿りゆくこと、それが『物語化』するということなのだろう。(梨木香歩)~<