あの日、人々は、自らが作り出した怪物の巨大な影を前に、慄き、ただそれを見つめ、膝をつくことしかできなかった。
終末の予感を前に、心の弱さをさらけ出す者。罵り合う人々。誰も、信じられない。
そんな中、世界の果てで、一人の男が敢然と立ち上がる。
『集え、目を開けろ、耳を塞ぐな、立ち向かえ。
私は、我々は、決して自ら死を選ぶことは無い。
誰も見捨ててはならない!俺達が、死なせはしない』
彼の声は希望に変わり、人々は再び勇気と協調の灯を心に取り戻してゆく。
平穏を取り戻す世界。
だがそこにもう、彼等の姿は無い。
暗い絶望の海で顔を上げ、天を覆う雲を真っ直ぐ見据えていた、あの男達。
その中心にいた…。
英雄の名は―――。
これが真の“改革”だ、と僕は考えます。
破壊にしか救いを見出せない思想、継続の中に発展を見ることの出来ない知性に、未来へ繋がる“今”を作ることなど出来はしない。
彼はもういません。
英雄を捨てた人々の手から、彼の残した希望は零れ落ちました。
世の理は因果応報。
罪は罰に、果は益に。
我等の謳うは亡国の調べか、それとも未来への賛歌か。
人類の歌は、生命の奏でる知性の響き。
調律を怠り、不協和音をかき鳴らせば、音は濁り、やがて人の世界は壊れてしまう。
抽象的な話ですが。
男は傷つき衰え、表舞台から姿を消しました。
しかし今もずっと、我々との因果を断たずに戦い続けています。
人の為、社会の為が、己が為と真っ直ぐ信じ。
例え誰も知らずとも。
信じた者に裏切られようとも。
仲間の死さえ乗り越えて。
彼は再び現れる。
我々が望みさえすれば何度でも…。
英雄として、現れる。
フランツ・シューベルト - 交響曲第7番ロ短調D759