長男の弱視学級開設とともに始まった小学一年。
これ以上ない、手厚い体制の一年間だった。
日常の些細な珍事は付きものだったが、
それでも、心がふんわり包まれているような
安心感の中に時間が過ぎていった。
45分の授業で5分と持たなかった長男の集中は
10分、、15分と増えていき…
途中で一回のブレイクがあれば
なんとか授業時間すわっていられるようになった
それもこれも、
まるで本当の母親のように
穏やかに長男の特徴すらも包み込んでしまう
T先生の優しさと教師としての技量だったと思う。
そして、二年生が始まった
母学級の担任は学年が上がって替わった
今度は、清潔そうな男の先生だった。
一年生のときにこの学校に赴任してきたのを覚えている
「フレッシュ」という名にふさわしく
刈り上げた首元が凛々しく、浅黒い肌、キリッとした目の先生だった。
ただ、その目の奥には硬いものが感じられた
何か?それが気になっていた。
学年が上がり担任が替わると
今まで積み重ねていたものが一度リセットされる。
わたしは弱視学級申請に提出した
医師の意見書や盲学校の先生の指導の注意点などを
改めて提出した。
フレッシュ=F先生は書類を見て
「はい、分かりました。」
「何かあったら言ってください」
いとも簡單に返事をした。
そうして、二年生が始まったのだが、
日に日に、友達とのトラブルが多くなった。
以前、良くなってきた多動がまた悪くなってきたような…
帰ってくると、筆箱の鉛筆がすべて折られている
どうしたの?と聞いても決して答えない。
何かが、起きているようだ。
時々、忘れ物があって学校に届けに行くと
弱視学級のT先生の顔が、だんだん茶色くなって
前より老けてみえた
T先生は一杯何かを溜め込んでいるような顔つきになってきた。
夏の夕暮れ空の向こう側から
黒い夕立雲が押し寄せてくるような、
そこはかとない
不穏なものが忍び寄ってくるような
わたしは、そんな気分で
なにかが来るであろう、予感をしていた。