その朝夫は確認するように

「じゃあ、Y先生(バナナの建築士)のところによって

断ってくるからね。」

といって仕事にでかけていった。

 

玄関のドアがパタンとしまった。

 

「また…か…」

もう、何があっても驚かなかった。

”物事はそう簡単には行かない”

私は今回は簡単に諦めることができた

 

義母の電話が入ってから

話は大きく方向を変え、忙しい展開になった。

早速、

全く興味のなかった住宅メーカー「M社」の展示場を訪問した。

大きな切妻の屋根に

広いシックなロビー風の玄関兼階段室

階段の造作はみなプラスチック製だった。

 

全く面白みはなかった。

 

ちなみに他の会社も訪問した。

 

在来工法っぽい仕上がりでも

なにか製品臭く変に一様で面白くなかった。

 

色々見る中で、やっぱり「M社」が妥当に思えた。

 

そして、「M社」に決め交渉をはじめていた。

 

さて、その日の夕方、食事の準備が忙しくなる前、

珍らしく玄関が勢いよく開いて、

ドサドサと大人二人が入ってきた。

 

ぶどうを抱えた夫と、

その後に入ってきたのは

バナナの建築士Y氏だった。

(もうその後はバナナのシャツはきてこなかった)

 

「???」

 

「なぜ?断りにいったはずでしょう!?」

つい言葉が出てしまった。

 

つまり、その事情は

 

ぶどうを持って断りにいったところ

「申し訳ないですが、諸処の事情により

住宅メーカーにいたしました」

と打ち明けると、

 

「じゃあ、その設計一緒にやらせてください

設計料はいりませんから!」

 

といった具合になったそうなのだ。

 

そして早速、自宅でプランを練り始めた。

 

改めて家の家具を見て回り、

「どれを残したいか決めてください」と

私に投げかけた。

 

そして、次回の「M社」の打ち合わせから同行する事になった。

 

もちろん、嬉しい申し出だった。

 

夫と一緒に方向違いにオールを漕ぐよりも

夫と私同時にをグイグイと引っ張ってくれる存在が

頼もしかった。

 

時間はあと4ヶ月しかない。

 

3人は同じ船に乗り、

大きな気筒のエンジンがかかった。

 

彼の宿題がでた

「今度来るまでに、家のプランを描いてください」

「そして、同時にジャン!と見せっこしましょう!」

 

私は何やら胸の奥から動き出すモノを感じた。