その家は自宅からさほど遠くない

北に公園を挟んだ

静かな住宅街にあった

 

北入りの玄関ポーチには

石ブロックが敷きつめられ

苔むした湿っぽいちょっとした空間があって

陶器でつくられた像があった

光が上から差しこみ

その像が静かに照らされていた

 

初めての設計士という人のお宅訪問に

夫も私も興味津々だった

 

「ピンポン」ドアチャイムを鳴らすと

ちょっと大柄な年配の奥さんが出てきた

奥に通されると

その設計士は車椅子に座って出迎えた。

 

軽くクセのある白髪交じりの髪に

細面の繊細なタイプな感じな人だった。

 

「あのう、土地は決まったのですが

息子が視力が弱いもので安全な家をつくりたいと思って…」

 

私が先に切り出した。

そして持ってきた「夢の家」の資料を手渡した。

 

「ほほう、ふんふん、

こんな家が良いんですね、」

 

設計士に他の人の作品をみせることが

良かったのか…自分でも少し不安になった。

 

お客さんの要望にマルチに対応できるのがプロだと思いこんでいたが…

 

「ところで、僕の作品ご覧になったことはありますか?」

設計士は質問した。

 

実に、知らなさすぎた。

 

「いいえ」正直に答えた。

 

「僕はね、ご覧の通り足が悪くて…

みてください、2階からそとに逃げられるように

滑り台をつくったんですよ。

そしてね、この板を使ってつくるのが好きなんです!」

といって室内工作に使われている板を指した

 

それはパーティクルボード。

あらっぽい大きさに砕いた木片を接着剤で固めた板である。

 

「…」

 

直感、それは好きではなかった。

なんで新しくつくるものに

そんな廃品回収したモノを使うのか

その趣味が理解できず…

 

その日は、他愛もない会話と

お互いを知る上で簡単な自己紹介みたいな感じで

その場を離れた。

 

車に戻ると

「いい人みたいだね」

と夫が言った。

確かに世間的には「いい人」かもしれないと思った

 

しかし、彼の「作品」とやらを見ないで突入したのは

気がかりだった

 

事が運ぶかもしれない浮足立った気持ちと

なんとなく粘っこく纏わりつく「違和感」があった