いきなり猫三匹と暮らす -426ページ目

いきなり猫三匹と暮らす

突如襲来した怪生物と犬好きのハートフルコメディ

いきなり猫三匹と暮らす

猫が来て以来、ずっとフードは
ドライだけにしていた。
管理が楽だし健康にもいい。
ウエットは防腐剤が良くないと獣医が言っていた。

防腐剤不使用のものは高いし、
不使用とあっても入っている場合があるらしい。
メーカーが使っていなくても
原料段階で使われている場合もあるそうだ。

本当に不使用でも、細菌が繁殖しやすいという
問題は避けられない。
エイズもちのトラニャにとっては、
細菌の方が防腐剤より有害かもしれない。

シャムが口内炎になって
柔らかい方が食べやすいという理由で
ウエットに手を出した。
いくら健康によくても食べられなくては仕方がない。
シャムが少しでも食べられるようにと
色々なものを試した。

シャムが死んで、トラニャはその遺産を受け継いだ
かっこうだ。

美味しいものが食べられるようになって
トラニャは幸せになれたかというと、
それはむしろ逆のように見える。

ドライしかないとき、食事はとても
シンプルだった。

お腹がすく時間になったら、いつものように
いつものフードがもらえる。

期待が裏切られることはなく、
トラニャはいつも美味しそうに食べた。

いまトラニャは不満で一杯だ。
プチカップ一個ぶんの肉をあっというまに
食べ終わると、ドライがあるのに
もっとくれとさわぐ。

あんまりうるさいとわたしに叱られる。
肉がなければ叱られることもないのに。

涼しくなったら猫缶肉をあげるつもりだが
そうなっても満足はできない。

いつでも肉がもらえるようになると
ありがたみがなくなって、
こんどはドライが食べたくなったりする。

ものが多くなってもいつまでも満足できない
トラ猫トラニャ。

でも、その姿を人間は笑えない気がする。

近代以降、欲望を満足させる知識と技術は
飛躍的に進歩したけれど、
何を欲すべきかを考える知恵は、
昔から変わっていない。
いや、むしろ後退したかもしれない。

貪欲を抑える宗教の力は減退し、
代わりうる哲学は民衆から遠い。

資本主義は欲望のシステムだ。
需要に応えて供給するのは昔の話。
欲しがられているものを作るより、
作った物をあの手この手で欲しがらせようとする。

物が増えが、欲望はそれ以上に増えた。
物は有限だが、欲望は無限だ。

欲望に振り回されているという点では、
猫より人間のほうがひどいかもしれないな、
と、トラニャを見ていて思う。

けど肉はあげない(笑)。