トラ猫トラニャは、わたしが長く家を空けると
毛をむしり取るようになった。
いちばんひどい時は、体の半身の大部分の毛がなくなり、
素肌をさらすことになった
むしって間もないときは、毛穴にポツポツと血玉がにじんで
あまりにも痛々しいありさまだった。
今度の引っ越しは、わたしが一緒だから大丈夫だろうと
甘く考えていたが、わたしは24時間いっしょにいられるわけではない。
名古屋の家にいるときは、わたしが帰ってくるのを
おとなしく待っていてくれた。
名古屋の家は、シャムやクロと一緒に長く過ごした、
トラニャの縄張りだった。
シャムとクロが死んだ後も、そのにおいは残っていただろう。
トラニャにとって安心できるお家だったのだ。
それをわたしが奪ってしまった。
特に、引っ越し直後は、新宅と名古屋をよく往復しなければならず、
トラニャには不安な思いをさせてしまった。
名古屋の家は、わたしが必ず帰ってくる場所だった。
新宅では、そう思えなかったのだろう。
自分は捨てられたのではないか、
トーロは名古屋に帰ってしまったのではないか、
そんな風に思っていたのかもしれない。
わたしがいなくても、母が面倒を見てくれる、
一人暮らしだった名古屋よりもましじゃないか、
そんな考えは、あまりに楽観的すぎたのだ。
トラニャは、懐いてからはいつもわたしの外出を嫌がった。
わたしの膝に前足をかけて、外出を止めようとしたこともあった。
おかげでわたしはますます出不精になったが、
それでも仕事に出ないわけにはいかないのだ。
トラニャは、外出を止めることはほどなく諦めたが、
ずっと一緒にいたいという気持ちは強く持ち続けていたのだ。
そんなにわたしを好きじゃなくていいんだよ……
名古屋にいるときでさえ、何度もそう思った。
毛をむしるようになって痛切な思いで、
トラニャに何度もそう語りかけた。
それでも、外出しないわけにはいかない。
外出したら、トラニャがまた毛をむしる……
それが分かっていても、わたしは出かけざるを得なかった。
きっと時間が解決してくれる、
いつか新しい家に慣れて、ふつうに帰りを待てるようになる、
それを信じるしかなかった。
それは間違いではなかった。だが長くかかった。
ひと月ほどで、少しましになり、
数ヶ月でほぼしなくなったものの、またするようになり、
トラニャが自傷行為をやめたのは、ほとんど1年たったころだった。