3月2日木曜
わたしはまだ希望を持っていた。
明日また半日かけて静脈点滴をしたら
病状が改善するんじゃないかと。
もしかしたら、また歩けるようになるかもしれないと。
トラニャはぐったりしていたが、
時折顔を上げてわたしを探した。
どこにも行かないよ、と頭をなでた。
スポンジに水を含ませて顔に近づけるとなめた。
しばらくなめつづけた。
3月2日木曜午後10時
トラニャは口を開けてあえぎ始めた。
浅く速い呼吸。
ときどき咳をするようになった。
夜間救急動物病院に行こうか?
でも、それではトラニャと引き離される。
トラニャは知らない人の間で死んでしまうことになるかもしれない。
一緒にいたい。
せめて最期は一緒にいたい。
なにもできないわたしは、ときどき語りかけた。
かわいいかわいいかわいいトラニャ
良い子だね
大好きだよ
一緒にいよう。
もう少し一緒にいよう。
午前3時、寝ることにした。
トラニャはわたしと一緒に寝るのが大好きだから。
トラニャの顔をどちらに向けるか悩んだ。
目はまだわたしを追っているみたいなので、
わたしのほうに向けようか。
でも、いつも寝るときは顔を反対に向けるんだ。
トラニャはいつも通りが好きだから、
結局いつものようにした。
いつもだとトラニャは胸をわたしの腕に乗り上げる。
胸部を圧迫するのは危険なので、
トラニャを腕で囲むようにした。
目が覚めると冷たくなってるかもしれない……
3月3日午前6時前。
目が覚めるとトラニャの息が聞こえた。
まだトラニャは口を開けてあえいでいる。
浅く速い呼吸。
ときどき咳をする。
同じようなことを語りかけながら、
背中をなでた。
病院まで運んで大丈夫だろうか。
まず電話で先生に聞いてみよう。
咳は15秒に1回くらい。
脈はやや不正で速い。
ダダッダダッと拍つ感じ。
……だめだ数えられない。
数えるのが難しいのではない。
心を落ち着けることができない。
そもそも数が数えられない。
がんばれトラニャと言ってしまった。
もうトラニャはこれ以上できないくらい頑張っているのに。
一緒にいてくれてありがとう。
もうちょっと一緒にいよう。
でも、もしもうお姉ちゃんやシャムのところに行きたいなら
行ってもいいよ。
よかったら誘ってくれ。
7時前
トラニャの様子がおかしい。
死を直感したわたしは声を上げて母を呼んだ。
母が来た。
横たわったトラニャは、伸び上がって咳をした。
トラニャの胸を触ると、心臓は一度だけ鼓動して停止した。
時計を見ると6時57分だった。
午前9時、動物病院に行けなくなった連絡をした。
獣医師から、最期は胸の中で亡くなりましたか、と聞かれて
不覚にも泣いてしまった。
電話とはいえ人がいて泣いたのは初めてだった。
不意を突かれた。
聞かれるとは思いもしなかった。
最期の様子を思いだして泣いてしまった。
今日一日何をしていたかはっきり思い出せない。
いつのまにか夜が来た。
眠るときにはいつも側にいた
トラ猫がいない世界に。