その日は一日家にいた。
朝、目覚めるとシャムは腕の中。
シャムはぐったりとして動かない。
手を置くと、心臓の鼓動はしっかりしていた。
そっと背中をなでながら
大好きだよ、と繰り返した。
トラニャが小さく不満の声をあげた。
そうだ、君にご飯を上げなくちゃね。
フードを出してから、シャムのそばに戻った。
姿勢を保てそうにないないから膝にも置けない。
シャムのために何ができるだろう?
動物病院に行って輸液してもらおうか?
鎮痛剤を射ってもらう意味はあるか?
シャムは苦しそうではない。
ただ、ぐったりとしていた。
けっきょく、病院には行かなかった。
シャムが大嫌いな場所だし、
あんまり意味がなさそうだ。
なんだか何も手につかず
ぼんやりとしていた。
シャムをゆっくりとなでながら、
ただ大好きだよ、と繰り返していた。
何とか気を紛らわせようとドラクエをしたら、
死のにおいのするオンリー地図を引いた。
ただの偶然だが、少し嫌な気がした。
この日、シャムは2度手足を動かしてもがいた。
苦しかったのだろうか。
生きようと戦っているようにも思えた。
シャムが徐々に弱っていくのを目の前にし、
もう死は避けられないものと覚悟したが、
それでも今日明日ではないと思った。
シャムの心臓はまだしっかりと鼓動していた。
獣医も感心させた丈夫さなのだ。
それを確かめたくて、ときどきシャムの胸に手を当てた。
シャム、君はいい子だね。
いや、いい子だなんて失礼だ。
君はとっても立派だ。
わたしより立派だ。
君は誰より強かったけれど、
その力で自分を押し通そうとはせずに、
他の猫に譲ったね。
前の飼い主さんからは、
新参の猫がいじめられているときは
必ず君がかばってやったと聞いたよ。
うちへ来て他の猫がなじめずにいたときも
君は真っ先にわたしになついてくれた。
それでクロやトラニャが安心できた。
クロやトラニャの面倒を見てくれてありがとう。
クロの必死な思いを年老いた身で受け止めてくれた。
トラニャをよく尻尾であやしてくれた。
わたしが楽をできたのは、君がしっかり猫どもを
まとめていてくれたからだ。
君は強いね。
認知症から、一度回復しただけで奇跡だった。
再び悪くなったときは、もうだめかと思ったけれど、
最後の最後でまた自分を取り戻したね。
わたしは、とりとめもなくシャムに話しかけた。
シャムの耳に届いていたかはわからない。
もう何度目だったか、シャムの胸に手を当てたとき、
心臓がもう打っていないのに気づいて、
わたしはあわてて何度も手をすべらせた。
体は温かい。
まだ早い。
そんなはずは、そんなはずは---
シャムは死んだ。
いや、これも言い直そう。
シャムは立派に生きた。
そして最期が来た。