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久し振りに腕時計を紹介。
「HYT」が手掛ける「H1」という機械式時計である。

時計でH1と言えば、イギリスの時計師である「ジョン・ハリソン」が手掛けた海洋時計「マリンクロノメーター」(画像1)を思い浮かべる方が殆どであろう。(時計好きならば、だが。)
こちらは航海中の船舶上に設置された置時計である。
当時、波等の影響で揺れる船舶上では時計は正確な時間を刻む事が出来なかった。H1はその船舶上でも高精度を実現した初の時計と言われている。(機構的な完成は4作目である「H4」、世間に認められたのは5作目の「H5」らしい。)

相変わらず話が逸れたが、今回はHYTのH1である。
HYTは「ヴィンセント・ペリアード」氏がCEOを務めるブランド(プロジェクト)である。

H1は時計としては時、分、秒が独立しているレギュレーターだ。65時間のパワーリザーブインジケーターを備えいる。ケース径は48.8mm、厚さは17.9mmとかなり大型である。
振動数は28800bphとスタンダードなハイビート。
データ上では非常に高スペックで使い易い時計だと解る。(画像2~4。画像2は全体、画像3は文字盤の拡大、画像4はケースバックの拡大。)

だが当然これだけでは態々ブログに取り上げる事も無い。H1には他には無い面白い特徴を備えているのだ。
それが時針の表示方法である。H1では液体を時針の替りとしているのだ。例えるならアナログの温度計の様な感じである。温度計は気温が上がれば内部の液体が上昇して温度を示すが、H1は時間の経過に合わせて蛍光色の液体(以降、流体。)が上昇(進行)していく。
更にレトログラードになっており、流体が満ちた6時(及び18時)になると一旦帰零し、蛍光の流体が無い状態に戻る。

6時位置に有る2つのフレキシブルな蛇腹状のタンクを毛管の各先端に固定して使用しており、一方には蛍光着色された粘性の低い液体を、もう一方には透明な粘性の高い液体が注入されている。(この2つの液体の境界が時を示している。)
このタンクは一方を圧縮するとともう一方は減圧する仕組みとなっており、時間の経過をピストンに伝える事に因って鞴が動き流体を時計として作用させているのだ。

HYTではこの流体を用いた時計をHydro Mechanical Watch「ハイブリッド機械式流体制御時計」と呼んでいる。
機械式時計で流体まで制御して時間を表そうとするとは何とも夢の有る話である。詳しい動きは、http://www.hytwatches.com/Company/HYTLibrary.sls の動画を参照頂きたい。

さて、流体を用いた機械式腕時計となると先に思い浮かぶのは「CONCORD」の「C1 QuantumGravity」である。(画像5)この時計は、パワーリザーブインジケーターを蛍光色の流体で表現していたのだが、実はこのC1 QuantumGravityを手掛けたCONCORDのCEOこそ、ヴィンセント・ペリアード氏その人であった。
このノウハウがそのままH1に活かされていると言う事であろう。

価格はチタンモデルで$45,000との事。日本円にすると\3,500,000~\4,000,000と言ったところだろうか。思ったよりリーズナブルと言える。
個人的には流体の場合は衝撃に対して少々不安な面も有るが、このメカニズムは本当に面白いと思う。実物を手に取ってみたい。

貴方もH1で、全く新しい時間表現を体験してみては如何だろう。
技術の粋を集めた作りと近未来的なデザインの虜になるばかりでなく、古の水時計(エジプトの時計や「漏刻」等。尚漏刻については、「某宝飾時計店2」の投稿で簡単に説明しているので参照頂きたい。)をオマージュしたかの様に、太古の時計文化をも感じさせてくれるのではなかろうか。