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「SEIKO」のみが実用化に成功した唯一のハイブリッド機構である「SPRING DRIVE」(以降「SD」)。
私のブログでも何度も取り上げた傑作ムーブメントである。(「CREDOR SPRING DRIVE SONNERIE」・「CREDOR NODE 叡智」・「SBLA061 ”Beauty and the Beast”」の投稿参照)
それなのに海外で好評という事をそれ程聞かないのは何故だろう?私なりに考えてみた。

ひとつは、SDが機械式時計では無くクォーツ時計と変わらないという印象が有るからであろう。これは日本国内でもそうだがSDがどの様なモノかを理解していないという事が大きい。SEIKOはもっと大々的に宣伝する必要が有ると思う。

SDについて、再度簡単に説明しよう。
現在の主な時計は大まか分類すると、ゼンマイを動力として電子制御を一切使わずに時間を示す機械式時計と、電池を動力として電子制御によって時間を示すクォーツ時計が有る。
SDは、その2つの性質を併せ持つ「第3のメカニズム」を実現。機械式時計と同じくゼンマイを動力とし、機械式時計と同様に歯車等のみで動力の伝達し時刻を表示するのだが、時計のリズムを刻む脱進機に相当する部分のみを電子制御で調速する時計だ。
勿論電子制御するという事は電気が必要だが、その電力もゼンマイを動力として発電している。
即ち、機械式時計のメカニズムにクォーツ時計の精度を搭載した時計がSDなのだ。(画像参照。尚、画像は「webChronos」より転載。)

私の感覚では実用よりも工芸的・趣味的な面を優先する機械式時計、精度や耐久性等実用面を優先したクォーツ時計という印象である。
時計分野において、クォーツ時計で世界を牽引してきたSEIKOがSD開発を行ったのも必然だったのかもしれない。
唯、このハイブリッドなメカニズムが中途半端と見えるし、一番調整に手間が掛かる職人の腕の見せ所である脱進機が電子制御となっている点に納得出来ないという者も少なくないのだろう‥これが2つ目の理由。

もうひとつ問題が有るかもしれないと思った点がアフターサービスである。SDは先程述べた通り非常に特殊な時計である。汎用性が高いモノはパーツも豊富で修理やメンテナンスも容易だが、ユニークなモノは当然困難となる。(但し、私は個性的なモノの方がブランドの特徴がしっかり現れており好みだ。それ故SDも好みである。)
尤も、SEIKO程大きな企業であれば問題は無いとは思う。SEIKOは日本中に取扱い店が有り、特にプレミアムブランドの「Grand Seiko」、「CREDOR」、「GALANTE」はパーツの保有年数もかなりの長期間(明確に謳っていないが)となっている。
最低でもディスコンティニュードから30年はOH可能だろう。(SDもこれらのプレミアムブランドで使用されているムーブメントの為、同様に30年は大丈夫だ。)

しかし、日本国内では問題は感じられないが海外ではどうか?
機械式時計であれば、一応時計に精通しておれば、どんな時計でも修理が可能だと思う。勿論、正規の修理を行う方が安心には違いないが。(尚、クォーツ時計は回路が故障すると修理は出来ず、基本的にムーブメントの交換となる。ムーブメントの在庫が無くなれば修理不能となってしまう様だ。)
だが、SDはSEIKOのみが成し得た調速システムである。これをSEIKO以外で修理出来るとは思えないのだ。海外では購入してもメンテナンスを行う事が出来る者が殆どいないのでは無いだろうか?
つまりは「PATEK PHILIPPE」や「A.LANGE & SÖHNE」等の複雑な機構を搭載した時計と同様、全て本国送り(この場合は日本送り)になるのではないかと危惧しているのだ。
数百万円以上する複雑な機構のコンプリケーションとは違い、SDは量産されたモノなら数十万円から購入出来るが、本国送りになるならメンテナンス費用には送料等も加わる為、同価格帯の時計のOH費用と比べるとかなり高額になるのではないだろうか。また当然手元に戻ってくるまでの期間も長くなるだろう。
数十万で購入可能な時計が、毎回数百万のコンプリケーション並みに費用と時間が掛かるのであれば割に合わないのではないだろうか。(因みに、海外のメンテナンス体制については私の勝手な想像であり、実際は不明である。正確な情報が有れば教えて頂きたい。)

SDが海外での評価が思ったより上がらない理由を素人ながら考えてみた結論は以上である。
SDとは、クォーツ時計ではなく機械式時計を進化させたモノでありSEIKO独自の無二の存在だと広報し、海外でも迅速且つリーズナブル(同価格帯の時計と略同額)なメンテナンス体制が可能になればもっと世界中で話題となる筈だ。(後はアイコンとなるSDならではのデザインが有ればもっと良い。)