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今年も某宝飾時計店にて「Breguet Fair」が開催されたので行ってみた。
「某宝飾時計店23」の投稿でも述べたが、「Breguet Museum」というイベントであれば結構大規模なイベントで、珍品も多く展示されたりするのだが、Breguet Fairとなるとそれ程力が入っていない様に感じる。
とは言え、ここ数年「Breguet」は、新製品の開発に余念が無く、時計好きを唸らせる様な品の発表を続けている。個人的にはケースサイズやケース素材を変更したり、文字盤のバリエーションを増やす事は、余り興味が無い。それより専用設計のムーブメントや新技術を取り入れた機構等の方が余程魅力的である。Breguetはその点が私の中で評価出来る。(逆に「FRANCK MULLER WATCHLAND」関係の時計は、最近全く以て面白味が無い。一昔前であれば私の所有する「PIERRE KUNZ」等を筆頭に毎年面白い機構の時計を発表し続けていたのだが‥)

兎も角Breguetの新製品や複雑機構を組み込んだ時計、ジュエリーが見られるかもしれないとFairながら結構な期待は有った。
だが、結果は殆ど新しいモノを見る事が出来なかった。寂しい限りだ。
しかしそんな中、今回ショーケースから態々出して頂いた時計が有る。「3880 Type XXII」(画像1)である。今回の展示品の中で唯一触ってみたかった時計だ。

この時計は、今までの常識を覆した時計の一つである。
これまで時計の振動数は、時計の心臓部である脱進機の動きからロービートと呼ばれる低振動とハイビートと呼ばれる高振動に分類されていた。1分間に6回動く(3往復する)21600bph(1時間に21600回のリズムを刻むモノ)以下をロービート、それを超えるモノはハイビートと呼ばれる。
現在は8振動の28800bphが最も多く、ハイビートが機械式時計の主流となってきており、Breguetもロービートからハイビートへと移行が進んでいる。
世界的に有名な「ZENITH」のクロノグラフムーブメント「El Primero」は10振動の36000bphとして永らく量産機最速の振動数ムーブメントとされてきた。しかし、ここ数年で「SEIKO」も36000bphのモデルを量産、また限定で43200bphを発表した。「AUDEMARS PIGUET」も新型脱進機にて43200bphを実現している。

さて、振動数が上がるとどうなるのか?
結論から言うと、精度が良くなる。1秒に1回しか振動しない時計で1分を計測したなら、その内の1回がエラーだったとしたら1分間に1秒狂う事になる。(また誤差の累積が大きくなるとも言える。)
これが1秒間に5回振動した場合であれば、1回エラーが出た場合0.2秒狂う事になり、1秒間に10回振動する時計なら1回のエラーでも0.1秒しか狂わない事になる。結果、精度を出し易くなり、また外乱に強くなるのだ。(大雑把な説明だが‥)

しかしハイビートにも欠点が有る。ロービートに較べるとパワーリザーブ(ゼンマイを巻いて時計が動く時間)が短くなる事と、耐久性が劣る事である。
当たり前だが、同じゼンマイを使えばハイビートの方が早くゼンマイが解ける。(トルクにも影響する。)1時間に21600回振動する部分と1時間にその倍の43200回振動する部分では、どちらが機械に掛かる負担が少ないかは一目瞭然と言えよう。
それをカバーする為に新しい素材(耐久性の高いモノ等)やシステム(脱進機の開発等)を組み込んでいるのだ。(但し、その技術をロービートに応用すれば、更に耐久性が高まる為、結局はロービートの方が耐久性が高い事になる。)

Breguetの新作3880 Type XXIIは、この振動数を大幅に超えた驚くべき時計である。何と、20振動で72000bph!
El Primeroの倍である。10振動でも12振動でも14振動でも無く、いきなり20振動‥初めは記載間違いかと思った位だ。それも3針等ではなくクロノグラフで‥桁違いである。

しかも値段が思った以上に現実的なのだ。SEIKOの43200bphの時計は840万円、AUDEMARS PIGUETでは2793万円と非常に高額になっている。それに比べ3880 Type XXIIは\1,995,000と200万を切っている。この価格設定も驚きだった。
この振動数と価格を可能にしたのが、ずっと開発を続けていたシリシオン(シリコン)製の脱進機に依る恩恵だ。(尤も、本当に耐久性に問題無いのかは正直疑問が残る。数年後の評価が楽しみだ。)

細かく仕様を見てみる。3880 Type XXIIは、30秒で一周するクロノグラフ秒針と60分の積算計を時分針と同軸に備えたクロノグラフだ。一応、クロノグラフとしては1時間計測が限界である。(時積算が無い。)他のインダイヤルは、左が永久秒針となっており、この秒針も30秒で一周する。右はGMTで24時間計、下もGMTに連動したホームタイムである。竜頭操作にてメインダイヤルの時針を1時間ずつ進めたり戻したりする事が可能となっている。つまりGMTクロノグラフだ。(6時位置にデイト表示も有り。)
クロノグラフ秒針が30秒で一周するので、正確に何秒かを把握する為に、プロトタイプ(画像2)は12時位置に1周目(0~30秒)か2周目(30~60秒)か判別するインジケーターが付いていたのだが、販売されたモデルにはインジケーターが無くなっていた。
分積算計を赤白の2色に分け、1周目か2周目かを判別出来る様にした様だが、非常に見難い。
唯、この紅白は3880 Type XXIIのアイコン的な存在となっており、インデックスやストラップのステッチも紅白の色使いになっている。
裏はスチールバックだが、テンプ周りのみシースルーになっており、異常なスピードで振動するシリシオン製の脱進機を拝む事が出来る。(画像3)

そしてこの3880 Type XXIIの脱進機を更に進化させた時計が今年発表された「CLASSIQUE CHRONOMÉTRIE 7727」である。(画像4)詳細は割愛するが、マグネティック・ピボットと呼ばれる、磁石を用いて天真を固定する方法を初めて採用している。3880 Type XXIIで止まらないのがBreguetの素晴らしさと言えよう。

とは言え、技術的には面白いが私はロービートの方が好きである。ハイビートよりロービートで職人が一生懸命精度を追い込んだ方が機械式時計らしいと思うのだ。ハイビートに成れば成る程、人の手から離れていく様な気がするというか‥
更に言えば、クォーツ時計の精度が良いのも振動数の影響である。クォーツは1秒間に65536振動している。235929600bphなのだ。(秒針は一秒に1回しか動いていないが心臓部はこのリズムを刻んでいる。)
Breguetが1秒間に20回振動する時計の量産に成功しても、そこいらの安いクォーツ時計に遠く及ばないのが現状だ。行き着く所がクォーツに見えてしまうのかもしれない。

機械式時計は浪漫である。現状最速のテンプに惹かれるのも良いし新しい技術に惹かれるのも良いと思う。だが、遠く無い未来に別の最速が登場するだろう。なので個人的にはスペック上の最高を求めても意味が無いと感じている。まあ古典的なモノが好きなだけかもしれないが‥

何だか今回は某宝飾時計店の話では無く脱進機と振動数の話になってしまったので、次回、もう少しFairの話をしようと思う。