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とある有名な人物の時計が盗難に有ったという事で話題になった。
それが、テニスプレイヤー「ラファエル・ナダル」氏(以降ナダル氏)が使用している「RICHARD MILLE」の「RM027」である。(画像1、2。画像1は試合中のナダル氏、画像2はRM027。画像1のナダル氏の右腕にRM027が見える。)
ニュースでは価格(\49,350,000)だけがピックアップされていたが、個人的にはRM027がどんな時計なのかをもっと伝える必要が有ると思った。

RICHARD MILLEは私のブログでも何度か取り上げた、高級時計ブランドである。リシャール・ミル氏がコンセプターとして究極の実用機械式時計を手掛ける。
時計は、非常に繊細で壊れ易い。機械式時計となると更に華奢と言える。本来はスポーツ等に使用するには適していない。そんな機械式時計の中でも最も頑丈とされるのが「ROLEX」である。
しかし、ROLEXは基本的に実用に特化したモデルが殆どで、シンプルな構造の時計が中心で複雑な機構を有しているモデルは少ない。また頑丈故に重い。
対してRICHARD MILLEは、壊れ易い複雑機構を盛り込む事を前提とした実用時計を開発しているのだ。
衝撃を軽減する為に徹底的な軽量化を図ったり、通常時計には用いない様な素材を使用したりと妥協の無い時計作りを行っている。但し、価格度外視の作りの為、時計界のF1とも言われている。

そのスペックを存分に発揮出来る事を証明する為、トップクラスのスポーツ選手がRICHARD MILLEの時計を装着したまま、競技に挑んでいる。
F1の「フェリペ・マッサ」氏、ゴルフの「バッバ・ワトソン」氏、ポロの「パブロ・マクドナウ」氏、そしてテニスではナダル氏がアンバサダーとして、それぞれが専用に作られたRICHARD MILLEの時計を身に付けている。
どれもが時計にとって非常に苛酷な状況下に有る。F1のレース中は常に振動と強力なG(重力加速度)が掛かる。テニスやゴルフではインパクトの瞬間に大きな衝撃が発生するし、ポロも馬に乗る激しいスポーツだ。この様な状況下においてトゥールビヨンはナンセンスな機構であった。他のブランドのトゥールビヨンでははっきり言って壊れるだろう。それ位複雑且つデリケートな機構なのだ。

RICHARD MILLEはそれを様々な方法で解決した。ナダル氏の持つRM027はその中でも究極と言える時計である。
本体の重量は何と約13g。1円硬貨13枚の重さと言えばどれほど軽いか理解出来るだろう。(当然ながら現在のトゥールビヨン搭載の機械式腕時計で最も軽量である。尚、総重量は約20g。)
宇宙工学分野でも期待されているカーボンナノチューブを用いたケースや、チタニウム製地板にリタル合金製ブリッジと言った、F1や航空機、人工衛星等に使用されている素材で作られたムーブメントに因って驚異的な軽量化と強度を実現した。現在の技術の最先端のマテリアルと古典的な機械式時計の融合こそRICHARD MILLEの真骨頂と言えよう。こういったマテリアルを惜しげも無く「腕時計」に組み込もうとするアイデアが素晴らしい。だからこそ高価なのが理解頂けただろうか。

このRM027が、全仏オープンにてナダル氏がライバルのノバク・ジョコビッチ氏を下し優勝した後、滞在していたホテルで盗難されたのだから話題にならない訳が無い。
時計としての価値にプラスして、実際にナダル氏が身に付けて大会で優勝した時計ともなると凄いプレミアとなるのだろうが‥

結局、犯人はナダル氏が宿泊したホテルのバーテンダーだったらしいが、このバーテンダー、相当の時計好きなのか、ナダル氏のファンなのかは解らないが、愚かな事をしたものである。(尤も、このクラスの時計を見て欲しいと思わない方がおかしいのだが‥そこは我慢。)
もしホテルでの犯行がバレなかったとしても、時計を売った瞬間に犯人と断定されるし、特殊な時計の為RICHARD MILLE以外では真面なOHも出来ないので、メンテナンスも不可能になってしまう。例え私が手に入れたとしても、タンスの肥やしにしかならないという事だ‥
「Breguet」の「Marie-Antoinette 癸隠僑亜廖福峪?廝隠機廚療蟾道仮函砲陵佑幣?辰討くのが常の芸術品ならまだ理解出来るが、RM027は(非常に高価だが)トップクラスの耐衝撃性を持つ実用時計である。使用してこそ価値が有ると言えよう。

因みに、現在RM027からトゥールビヨンを省きシンプルな3針とした「RM035」というモデルも発売された。(画像3)素材はマグネシウムWE54とアルミニウム2000をケースに使用した。ムーブメントはチタニウム。RM027程の新素材を組み込んだ超軽量では無く約40gという事だが、それでも十分軽い。価格はRM027に較べるとかなり現実的で\8,295,000。(十分高額だが。)個人的にはRICHARD MILLEを買うなら価格も考えるとRM035がベストではないかと思う。

取敢えずRM027は無事ナダル氏の右腕に戻った。今後、ナダル氏のテニスを拝見する機会が有れば、是非その力強いプレイだけでなく、右腕の時計にも注目して頂きたい。