‥いや、有るには有るのだが、それらはとんでもない複雑機構であったり、独立時計師の作品であったりと言った、所謂一般人が所有する時計とは掛け離れた存在ばかりなのだ。
独立時計師の作品では、昨今の新型脱進機ブーム等の影響か、昔の脱進機構が見直され、弱点を克服した(かは定かではないが)と言われるリファインした脱進機の時計が多く発表されており、これらは私も十分魅力的だと思うのだが‥購入するとなるとそのとんでもない価格に手が出ない。
まあ、有る意味手作りの一点物の時計なのだから高いのは当たり前なのだが‥私にはかなり敷居が高い。
かと言って量産されたムーブメントやこれと言った特徴も少ない自社開発を謳うムーブメントにもそんなに魅力を感じないのが問題なのだ‥全然時計熱が冷めた訳では無いのだが、欲しいと思う時計(ムーブメント)が高価過ぎるのだ。
比較的リーズナブルで特徴的な機構を持っている時計等は、このブログでいくつか取り上げたが、未だにそれらを超えたと思える様なモノは少ない。(最近での画期的な時計は「RUE ROYALE」の投稿で述べた「PEQUIGNET」の「CALIBRE ROYAL」搭載機だろう。これが頭一つ抜けていると思う。)
そんな中エントリークラスで数少ない気に入ったモデルを紹介しようと思う。
それが「MAURICE LACROIX」の「PONTOS DÉCENTRIQUE PHASES DE LUNE」である。(画像1~3。画像1はメインカラーのブラックモデル「N°31」のカタログ画像、画像2はもうひとつのカラーのシルバーモデル「N°32」、画像3が「N°31」のダイヤルの拡大。)
MAURICE LACROIXは、1975年創業と歴史の浅いブランドだが、複雑機構(グランドコンプリケーションという程では無いが)やデッドストックのムーブメント、更にはマニュファクチュール化と言ったこの価格帯では、ムーブメントに最も力を注いだブランドのひとつだと思う。
PONTOS DÉCENTRIQUE PHASES DE LUNEはシースルーバックから覗くムーブメントについては特に面白いという事は無く、寧ろ径43mmという比較的大柄なケースサイズからすると小さくて味気無いという印象だ。
しかし「PONTOS DÉCENTRIQUE」シリーズの特徴は、オフセンターに配されたエキセントリックダイヤルである。文字盤面は、その大柄なケースを存分に活かしたダイヤル配置が非常に魅力的だ。
このPONTOS DÉCENTRIQUE PHASES DE LUNEは、エキセントリックダイヤルで生まれた4時位置のスペースにムーンフェイズ(月齢表示機構)を備える。
知っての通り、私はムーンフェイズが好きなので、「PONTOS DÉCENTRIQUE GMT」よりその点で魅力を感じたという訳だ。(勿論GMTもこの価格帯では傑作の部類だと思う。)
しかも、このムーンフェイズ、普通のムーンフェイズでは無いという点が、より私の中での評価を高めた。実はナイト&デイ(昼夜表示機能)も兼ねているのだ。
ナイト&デイは実は結構便利な機構だ。厳密には違うがGMT(24時間表示)に近く、1日で一周する太陽と月が描かれたディスクを持つ。大まかな表現だが6時から太陽が昇り始め、12時には太陽は頂点から沈み始める。そして、18時には太陽は沈み、代わりに月が現れ昇り始める。0時に月は頂点となり、それから沈み始め、6時には太陽と再び入れ替わるのだ。6~18時が昼、18~6時が夜という事である。(他に、2色で昼夜を表示するだけのモノも有る。)
この機構(GMTも同様だが)、旅行する方以外はそれ程必要性は感じないかもしれない。しかし私は、デイト表示の有る機械式時計には実は結構便利だと思うのだ。
何故なら、機械式時計は直ぐに止まる。止まったら、使う際に当然合わせる必要が有る。デイトが無ければ、1時を指していたとして、それが1時だろうが13時だろうが問題は無い。さっと合わせる事が出来る。
デイトが有る時計では、1時だと思っていたら13時だったという場合、昼の12時に日付が切り替わるという事が起こり得るのだ。(それ故、私は機械式時計では余りデイト表示が好きでは無い。)
私の所有する「PATEK PHILIPPE」の「Nautilus 5712/1A」の場合、一旦12時まで竜頭を回し、日付が切り替わるかどうかで昼夜を判断してから時刻や日付、ムーンフェイズを合わせる作業に入らなければならないのだ。
しかしナイト&デイ(GMT)が有ると、昼夜(24時間)を判断出来る為、その作業は必要無くなる。よりスムーズに時間を合わせる事が可能だ。そう言った意味で機械式時計では非常に便利な機構だと思う。
話が逸れたが、そのナイト&デイとムーンフェイズを同じダイヤル上で表示したという事がこのPONTOS DÉCENTRIQUE PHASES DE LUNEの最大の特徴だろう。そしてムーンフェイズやナイト&デイは、どちらかと言えばクラシカルな印象なのだが、このPONTOS DÉCENTRIQUE PHASES DE LUNEのナイト&デイ及びムーンフェイズは非常にクールでモダンなデザインだ。PONTOS DÉCENTRIQUEシリーズの立体的、建築的な造形に巧く溶け込んでいる。
オフセンターダイヤル、3針、デイト、ムーンフェイズ、ナイト&デイ、オートマチック(自動巻き)のシースルーバックで価格が\472,500とはやはり御値打ちだと感じる。
貴方もこのPONTOS DÉCENTRIQUE PHASES DE LUNEを片手に、空を見上げて見ては如何だろう。
太陽と月、最も身近な天体と共に過ごす日々という事を思い出させてくれる筈だ。