ジリジリと焼け付く太陽に、顔や腕が既に真っ黒に日焼けした。
その日も強い日差しの中、肉体労働に精を出す。
基本的に肉体労働が苦手な私は(かと言って、頭脳労働が得意な訳でも無いが‥)この暑さは堪える。
その茹だる暑さの中で少々ぼーっとしたまま私は仕事を続けていた。
重い荷物を持って移動中、木の枝が首に触れる‥「!?」
痛い!持っていた荷物を落としそうになる。直ぐに荷物を置いて首を確認。
まるで木の枝に付いていた葉で首を切ったかの様な鋭い痛みが走ったのだ。
柊の様な棘を持つ葉かと思い、見てみても到って普通の葉。勿論首が出血している事も無い。
‥段々とこの「痛み」を思い出してきた。幼い頃も何度か同じ経験をした、この痛みの正体は、「シナンタロウ」!
葉を捲ると裏に奴がいた。葉も奴に喰い荒らされ穴が開いていた。普段で有れば葉が触れる様な事はしないのだが、完全に暑さで参っていたからであろう、注意力が散漫になっており、よりにもよってシナンタロウのいる葉に触れてしまったのである。
さて、富山ではシナンタロウと言うと、皆直ぐに奴だと判る筈だ。(若い輩は別として‥)しかし、県外では、何の事か判らない方も多いらしい。全国で通用する名前で言うと「刺蛾(イラガ)」の幼虫、つまり毛虫である。
何種類かが存在する様だが、私が今回刺されたのは、躰が緑色で頭等所々に茶色い部分が有り、全身が毛で覆われているのではなく鋭い沢山の棘が生えた様な突起を要所に備えるという感じだ。宛ら兵器を装備した戦車のである。「毛虫」と想像する生物とは別の存在だ。
大きさは結構小さく小指の爪位であった。大抵は葉の裏に隠れている。
早速インターネットで刺された後の処置を検索。
まず流水で患部を洗う。洗うというより流すという感じだ。
棘が患部に残っている事も多いらしく、その場合はガムテープ等を貼り、剥がして棘を除去する。
幸い、私は軽い水脹れが出来ていたが、棘が残っているという事は無く流しただけでかなり楽になった。
その後、市販の虫刺されの治療薬を塗れば良いらしい。職場に「ムヒ」が有ったので塗る。私は蚊等に刺されても虫刺されの薬等塗った事等無かったのだが、とりあえず痛みに関しては驚く程効果が有った。
私が自分の処置を行っている間に、私を刺したシナンタロウは潰されて駆除されたのだが、その後も他の木で見かけたりとこの暑さの所為か結構繁殖している様だ。
因みに私が幼少の頃は柿の木で何度か遭遇して痛い思いをしている。流石にこの頃刺されると泣いていたと思う。
今回は薬の御蔭か処置が適切だったからか、2時間程で腫れも引き、痛みも痒みも殆ど無くなった。仕事のやる気は完全に削がれたが‥
この憎くき刺蛾(幼虫)は、全国でも沢山の呼び名を持っている「千の名前を持つ虫」だ。シナンタロウ以外には、シバムシ、デンキムシ、ハチクマ、チンコロ、アマノジャク、キントキ、ハチマンタロウ等‥
しかし、私もシナンタロウと読んでいるが名前の由来は全然判らない。「死なん太郎」なのか?指南?至難?刺なん?
また、インターネットで知った情報だが、富山では他に「オコジョ」とも言われているとか。少なくとも私は聞いた事が無い。オコジョは当然イタチの一種で非常に可愛い動物だが、オコゼ(オコジ)と呼ぶ所も有るそうなのでオコゼが訛ってオコジョになったのか?(毒魚の「オニオコゼ」が有名)
他にも全国津々浦々、様々な名称でこの刺蛾を呼んでいる。それだけ愛され‥ではなく恐れられているというか、嫌われているのだろう。
皆も暑さで気が緩んでしまうと、シナンタロウに刺されるどころか、大事故に繋がる可能性も有るので注意して頂きたい。こういう時こそ気を引き締める事が重要だという良い教訓になった。
‥そして、虫に食われている葉は要注意だ。