勿論私もこれが何かは全然判らなかった。
これは「時計」である。どんな時計かは後程述べるとしよう。
製作ブランドは「JAQUET DROZ」。私のブログでも度々登場する名前である。
「東京旅行5」の投稿でも多少このブランドについて説明したが、今回はもっと詳しく解説する必要が有る。
JAQUET DROZは、1738年に創業した時計工房の主である天才時計師ピエール・ジャケ・ドローに由来するブランドだ。
「Breguet」の祖であるアブラアン・ルイ・ブレゲと同様18世紀の時計史を語る上で外せない巨匠である。
時計の構造だけでなく、そのデザインにも大きな力を入れ、耽美な時計として王侯貴族に寵愛された。
そして、時計以上に彼の名を有名にしたモノがオートマタである。
オートマタは自動人形の事である。(現在の解釈では)機械式のロボットと考えて頂ければ良い。日本では、茶運び人形や弓曳き童子等のからくり人形の事である。
ジャケ・ドローの時代は、時計職人の持ち得る技術を遺憾無く発揮し形に出来るという「技」と誰もが驚く人間的な動きの人形を想像するという「美」の両側面からオートマタの名作が次々に生まれた。
時計師にとってオートマタはまさに「芸術」への挑戦であり、発明そのものだったのだろう。
その後、ピエール・ジャケ・ドローも息子もこの世を去り、JAQUET DROZの工房は後継者が無く休眠状態となるが、フランソワ・ボデによって復活し、現在はSWATCH GROUPの一ブランドとなっているのが現状だ。
ピエール・ジャケ・ドローでも特に有名なオートマタが、「書記」「音楽家」「画家」の3体であろう。
この3体は中のカム(ディスクオルゴールで言う交換可能なディスクの様な存在)を交換する事で、別のモノを書いたり(描いたり)演奏したりする事が可能なぜんまい仕掛けのコンピューターの様な存在でもある。
http://www.youtube.com/watch?v=vr0e_WsjkvY&NR=1 のURLで動いているオートマタを見る事が出来る。
これで、JAQUET DROZとオートマタについての説明は粗方終了だ。漸く今回紹介する「La Machine à Ecrire le Temps」に話を移す。
La Machine à Ecrire le Tempsは時計だと述べたが何処にも針等時間を表示するモノが見当たらない。
未来の機械の塊の様なデザインとその巨大さに目を奪われるが、その部品数も凄まじく歯車、カム、ベアリング、ベルト等で1200にも及ぶ。勿論電気を使用せず、総てぜんまいのみで稼動する。
La Machine à Ecrire le Tempsを日本語に約すと「刻を筆する機械」、即ち時間を筆記して表示する時計なのだ。
その大掛かりなシステムは、http://www.youtube.com/watch?v=20TsgxXcaH4&eurl=http%3A%2F%2Fwww%2Eohgizmo%2Ecom%2F2009%2F04%2F22%2Fla%2Dmachine%2Da%2Decrire%2Dle%2Dtemps%2Dis%2Da%2Dhorological%2Dmasterpiece%2F&feature=player_embedded のURLで見る事が出来る。
JAQUET DROZが復活し現在に至る。意匠は確かに昔を現在的に解釈した素晴らしいモノばかりであったが、どうもデザインにしかJAQUET DROZ的要素が少ない様に感じていた。それは、Breguetと違いメカニズムにその歴史が籠められていないからだろうか。Breguetトゥールビヨンを筆頭に、時計のムーブメントにもBreguetらしさが組み込まれていると感じる。(尤も、現代の機械式時計は総てアブラアン・ルイ・ブレゲの発明によって成り立つモノだが。)
JAQUET DROZにはデザインでしかJAQUET DROZらしさが見出せないのではないかという事を考えていたが、このLa Machine à Ecrire le Tempsの登場によって、新しいJAQUET DROZの解釈を見た。
これは先程長々と述べたオートマタそのものなのだ。現在のピエール・ジャケ・ドローが作り上げた、好事家(昔の王侯貴族)を満足させる機械仕掛け。JAQUET DROZらしさに他ならないと感じた。
因みに価格は3400万円前後と言われているが、まあこれを欲しがる好事家には関係が無い価格であろう。私は実際の動きを目に出来れば幸せだ。
貴方も金銭的に余裕があり、メカニズムに芸術を感じる事が出来るなら新生JAQUET DROZを体現するLa Machine à Ecrire le Tempsを手に入れてみては如何だろう?それは時計であり、ロボットであり、玩具であり、オブジェであり、アートであり、アイデアであり、技術の結晶であり、魂でもある。
La Machine à Ecrire le Tempsが鼓動し、貴方の為の時間を書き記す一時を、ゆっくりと楽しんで頂きたい。