全国でも有名な祭で、人口2万人程度の小さな町に、多い時には10万人を超える観光客が犇く。
私は生まれてずっと富山なので、昔からこのおわら風の盆を知っているのだが、特別興味も無く人混みも苦手なので敢えて行こうと思った事は無かったが、今回たまたま機会に恵まれ、初めて生で拝見する事になった。
祭は好きだが、興味が無かったのは、おわらが派手では無いからである。激しくも無く、威勢良く周りをも巻き込む熱さも無い、どちらかと言うと地味な印象だからだ。淡々と踊りを眺めるだけという感じなのだ。
しかし、実際に見てみて、これは一つの日本の伝統に相応しいのかもしれないと少々考えを改めた。
では、簡単に越中八尾おわら風の盆について説明しよう。
越中八尾おわら風の盆は、八尾に暮らす人々に伝わる伝統的な民謡行事で町民なら誰でも踊れる位、密接に結び付いた特別な祭である。
毎年9月1日から3日まで開催され、未婚の男女が編み笠と浴衣や法被を纏い、「越中おわら節」という独特な民謡に合わせて踊り歩く。
おわら節には唄い手、囃子方、太鼓、三味線、胡弓により構成され、民謡が一種独特な世界観を持つ。おわらの踊り手は基本的に一言も言葉を発しない。全ては、このおわら節の奏者と歌い手達の声のみが音となり、厳かな雰囲気が絶えず漂う。
メインは夜で、雪洞によって照らされた古い町並みにおわら節が響く。その音色に合わせて踊り手の男女が長い列を作りながら町を踊り歩く。これを「町流し」という。何とも幻想的であった。
「おわら」は、民謡が出来、芸人達が滑稽に謳った「御笑(おわらひ)」が語源とも、豊作を祈る「大藁(おおわら)」が語源とも言われているらしい。
「風の盆」は立春から数えて調度210日が台風の厄日とされ、豊作と風害が無い事を祈願する行事として「風の盆」と呼ばれる様になったそうだ。
踊りも時代によって随分と変化したらしいが、それについては初めて見たし良く解らない。伝統的な「豊年踊り」と新踊りと呼ばれる「男踊り」、「女踊り」がある。
豊年踊りは最も古くから伝わる基本的な踊り、男踊りは男集が踊る通称案山子踊りと呼ばれる勇壮な踊り、女踊りは女集が踊る通称四季踊りという春夏秋冬それぞれに異なる所作を持つ踊りとの事。
「町流し」はステージを用いた演舞場以外に、各町内毎に演奏と踊りを町中で朝まで行う、最も伝統に近い行事だろう。
中でも見て綺麗だと感じたのが諏訪町の町流しである。
「日本の道百選」に選出されている「八尾町道諏訪町本通り線」は電柱も無い(地価埋め込み)昔ながら街並みを保った景観が維持され、道を照らす雪洞が坂上に続き、神秘的な情景を浮かべている。耳に聞こえてくるのはおわら節。胡弓と三味線の音色がその神聖さに拍車を掛けている様だ。そして、何人もの若い男女の艶かしい踊りと力強い踊り。確かに魅了されるモノがそこに有った。
おわら風の盆はまさに、一つの無形文化財なのかもしれないと感じた。熱さは無いが静寂に包まれた幽玄の祭なのかもしれない。
9月1日に富山を訪れたなら是非見て貰いたいと思う。八尾の誇りで有り、富山を代表する芸術のひとつを体感して頂きたい。