しかしその上を行く、新技術の開発に最も力を入れているブランドが、「Jaeger-LeCoultre」と「Breguet」ではないだろうか?現在の技術開発の力の入れようは、世界3大時計ブランドと言われる「PATEK PHILIPPE」「VACHERON CONSTANTIN」「AUDEMARS PIGUET」よりも間違い無く上だ。
それ故Jaeger-LeCoultreとBreguetはどうしても注目せざれるを得ないブランドなのだ。
Jaeger-LeCoultreは「Master Compressor Extreme LAB」や「Duometre Chronograph」、「Master Compressor Diving Pro Geographic」と驚異的な開発力を示した。どれも特徴的で更に個性的なモデルになっている。
対するBreguetはアブラアン・ルイ・ブレゲという創始者へのオマージュの意を込めてトゥールビヨンに対して様々なアプローチを行ったモデルを開発。
トゥールビヨンのテンプの重力を均一化する効果は懐中時計でなく腕時計にはあまり意味を持たず、オイルの偏りを防ぐという効果も現在の進化したオイルで問題は殆どない。逆にトゥールビヨンという機構を動かす為に必要なマイナス要素が目立つようになった。トゥールビヨンは精度が良くないというのが定説になっている。
しかしBreguetは創始者最大の発明とも言われるトゥールビヨンの在り方を常に考え続けているのだろう。
そして最近4つのトゥールビヨンモデルが新たに開発された。その中にとても美しいモデルがあったので紹介しようと思う。
4つのトゥールビヨンは
まずはMARINEコレクションの「5837 Tourbillon Chronograph」。(画像1)
ムーブメントは「CLASSIQUE3577 Tourbillon Chronograph」を流用しているが、アンクル・ガンギ車・ひげゼンマイにシリシオン(シリコン素材)を、トゥールビヨンのキャリッジには一部チタンを採用するという今までのトゥールビヨンをより優れた素材で見つめ直すというアプローチ。デザインもBreguetのトゥールビヨンとは思えないがこれはこれで格好良い。(個人的にはRG・黒文字盤以外も作って欲しい。)
次はTRADITIONの新作「7047 Tourbillon à fusée」。(画像2)
今最も注目されているトゥールビヨン。「チェーンフュジー」という動力伝達の際にトルクの安定化を図る鎖引き機構。詳しくは私も理解していないが、時間と共に鎖が円錐の細い方から太い方へ巻かれる点が移行する事で力の掛かりが一定になるという。過去に潰えた機構で、腕時計では今まで「A.LANGE & SÖHNE」の限定モデル「TOURBOGRAPH Pour le Mérite」にしか採用されていない。(限定数は当然完売している。)現在唯一のチェーンフュジー採用モデルがこの7047 Tourbillon à fuséeなのだ。しかもTRADITIONらしい前後面が全て見える作りはこういった機構を観察するに相応しいと感じる。デザインもまさにTRADITION。過去の遺産に敬意を表するアプローチではなかろうか。(唯、厚さが16mmは腕時計のサイズではないと思う。)
3つ目がCLASSIQUEのグランドコンプリケーション「5347 Double Tourbillon」 。(画像3)
トゥールビヨンの中のトゥールビヨンという形がこれであろうか?文字盤ごと、トゥールビヨンを回転させ、更にトゥールビヨンの効果を高めて(?)いる。キャリッジが1回転で1分を刻み、その文字盤が12時間で1回転する。自転と公転を表現したトゥールビヨンという宇宙を表現したアプローチ。「blu」の「Majesty Tourbillon MT3」も同等だが、トゥールビヨンを2つ配したところでやはり5347 Double Tourbillonの方がより複雑だ。どちらも宇宙を連想させられる。(唯、個人的にデザインにBreguetらしい繊細さが足りないと思う。)
最後がCLASSIQUEのグランドコンプリケーション「5335 Tourbillon Messidor」。(画像4)
他のモデルと違い、特に真新しい機構は盛り込まれていない。しかしスケルトンモデルで完全トランスパレント化されており、芸術的なムーブメントを余すところ無く拝見出来る。そして、このモデルの最大の特徴はミステリー化されたトゥールビヨンという事だ。(ミステリーウォッチについては、「Transparent Chronograph」の投稿参照。)香箱から連なる輪列とトゥールビヨンが透明な歯車によって連結されているため、キャリッジが宙に浮いているように見える。
トゥールビヨンを精度の維持でなく芸術的な機構として捉えたアプローチではないだろうか?よりはっきりとキャリッジが回転する様を見る事が出来る。全ては精度云々ではなく、トゥールビヨンそのものの機構を楽しむ為であれば、この作りは現在一番正しいと思える。そしてやはり最も美しいと感じる。
因みにMESSIDORとは、「BREVET DU 7MESSIDOR AN9」から来ており、共和国歴第9年メシドール月7日
という意味だ。この日付はトゥールビヨンの特許所得日で1801年6月26日の事である。
トゥールビヨン。時計好きにとってはある意味永遠の憧れの一つだろう。そしてより美しく、より独創的な、より高精度な・・喩え現代社会において意味の無いモノでも。(機械式時計そのものが意味の無いモノだが。)
突き詰めていけば宿る魂を感じさせてくれるであろう。私のお勧めはやはり5335 Tourbillon Messidorだ。(勿論どれも素晴らしいが。)誰が見てもその美しさ、不思議さに目を奪われる。金銭的に余裕の有る方は是非手に取って、身に着けて、じっくりと眺めて頂きたい。極小の宇宙を感じさせてくれるだろう。
価格は、
5837 Tourbillon Chronograph \16,516,500
7047 Tourbillon à fusée \18,112,500
5347 Double Tourbillon \42,630,000
5335 Tourbillon Messidor \15,991,500
である。