さて、悲しいお知らせがある。

私の仕事場に燕の巣が出来、雛が生まれとても騒がしい日々を送っているとは前回の投稿で述べたばかりだ。
ところが最近妙に静かなのだ。巣立ったのだろうか?
もう一度燕の生態について確認してみた。(「燕」の投稿参照。)

巣立ちまでは凡そ3週間。どう考えても全てが巣立つには早すぎる。巣立ちが原因ではないだろう。
思い出してみよう。燕にはもうひとつ重要な生態がある。雛を育てている間に親鳥のうちどちらか一方が何らかの理由で欠けると番い外の燕がやってきて育てている雛を巣から落して殺してしまうという行動。まさか親鳥のどちらかが死んで、他の燕によって全て巣から落とされたのだろうか?

‥これも多分違う。私が確認した限り、雛は最低5匹は巣から頭を出していたのを目撃している。それが全て地面に落とされたとして、1匹も雛の死骸がないのはありえない。野生の他の動物が死骸を餌として処理したにせよ、何らかの痕跡は残るはずなのに血も跡も存在しなかった。

後日、仕事場の同僚により「雛失踪事件」の重大な手掛かりを耳にした。その情報で私も犯人は9割方間違いないだろうと確信した。

「それ」は親鳥がいない間に雛にちょっかいを出し1匹を銜え、すぐ近くで雛を美味しく頂いたそうだ。
そう、「鴉」である。多分烏が餌として親鳥のいない間に雛を食べてしまったのだろう。よほど美味しかったのか、巣は綺麗に全滅の模様だ。
自然界は弱肉強食であり別に鴉を恨む訳ではないが、折角のブログの投稿内容がこのような結末になってしまった事は残念だ。

そういえば、最近は鴉が増えているような気がする。折角なので鴉についても調べてみた。

雑食性でゴミや動物の死体を啄む。
鳥類の中でも最も知能が発達しているとされ、ヒト科に近い知能だとも言われているそうだ。その知能は鴉にとって生きる為のものであっても人間にとっては非常に迷惑なものでもある。餌を得る為ゴミ集積所を荒らしたりするが、仲間の鴉と協力したりという行動も見られる。鳴き声による意思の疎通を行っている事が知られ、遊戯行動をとるとも。
また、繁殖期は非常に警戒心が強く獰猛である。実際富山県でも、鴉が人間を背後から低空飛行で襲うという事故が何件か発生したそうだ。救急車まで出動するという事になりニュースでも取り上げられた。車に鴉の雛が撥ねられ、親鳥がその報復行動に出たのではないかとまで放送されていた。仲間が窮地に陥ると他のカラスが助けに入る事もしばしば目撃されているので、報復行動を行う事もありえるかもしれない。
他に有名な話として、胡桃を路上に置き、自動車に轢かせて殻を割って中身を食べるとか、神社の賽銭を盗み鳩の餌用自動販売機で鳩の餌を購入して食べたとか非常に知能が高い事は疑いようがない。
また色をある程度識別できる。

繁殖期は春~夏で、一夫一妻制で協力して子育てを行う。巣は樹上に小枝を組んで作るが、最近では電信柱や看板などに営巣することも多い。
抱卵期間は20日前後、巣立ちまでの期間は40日程度。産卵数は2~5程度。巣立ち後も二月程は家族で生活し、その後独り立ちをする。繁殖期以外は大規模な群れを作る。

鴉の黒い姿から「不吉」の象徴とさせられるが、これは鴉が死骸に集まってくる為で(餌としている)、「死」に集う点が忌み嫌われる理由のひとつだろう。

鴉は厳密には黒ではない。「烏(鴉)の濡羽色」というが、深みのある艶やかな濃紫色を指す。黒く青味がかった艶やかな女性の美しい黒髪の形容に使われる事が多い。

神話においても世界各地で登場する。
日本においては、有名な3本の足を持つ八咫烏。サッカー日本代表のシンボルでもある。吉兆を示す鳥で、神武天皇の東征の際に八咫烏が松明を掲げ導いたとされる。また鞍馬山では幼少の牛若丸、後の源義経に剣を教えたともいわれているのが鴉天狗である。鴉の嘴と黒い翼を持ち山伏装束を身に纏う。空を自在に飛び回り、神通力にも秀でる。天狗が霊山を守護しているとされる事も多く、まさに天(神)の狗(イヌ=遣い)という事か。

イギリスでは、アーサー王が魔法でRaven(大鴉)に姿を変えられたと伝えられる。この事から、Ravenを傷付ける事はアーサー王(更には英国王室)に対する反逆とも言われ、不吉な事を招くとされている。因みに通常の鴉はCrow、大鴉がRavenとされる。

北欧神話では、主神オーディンの斥候として、2羽のRaven「フギン(=思考)」と「ムニン(=記憶)」が登場する。この鴉は世界中を飛び回り、オーディンに様々な情報を伝えているとされる。

ギリシア神話では鴉は太陽神アポロンに仕えていた。色は白く言葉も話す事が出来る非常に賢い鳥だったが、アポロンに適当な事を吹き込んだ怒りに触れ炎に焼かれて黒くなった。声も潰れて、言葉を話すどころか、醜い鳴き声を発する事しか出来なくなった。 その後鴉は天界を追放されたが、全く反省はしていないらしい。

旧約聖書では、大洪水が発生し全ての生き物が番いでノアの箱舟に乗せられた。鴉は禁を破って箱舟の中で交尾を行った為全身を黒色にされてしまったとされる。また、洪水の後初めて外に放たれた動物でもある。

エジプトや中国では太陽の鳥とされた。

このように鴉にはその知能の高さから神格が宿り太陽と深い関りがあるとされるのだ。そして太陽は神と同格である。鴉は鳥類ながら昔から人間に畏怖されてきた事になる。

しかしまあ、爆発的に数が増え、人間を襲ったりゴミを荒らしたり最近では目に余るものが多い。ここらで少々痛い目に合わせた方が人間と鴉が共存する上で大事ではなかろうか?

とりあえず燕は今回で完結とさせて頂く。