イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

イメージ 5

「ETA2824-2」の組み立てもいよいよ佳境に入る。今回は脱進機からの組み立てとなる。

エスケープメント、即ち脱進機は前回説明したとおり、「ガンギ車」と「アンクル」によって構成される。では、脱進機とは何の為に時計に備えられているモノなのだろうか?

簡単に説明してみようと思う。(私の頭ではこれが限界。逆に解り辛い説明であったら申し訳ない。)
香箱は中にゼンマイが入っており、ゼンマイを巻き上げると当然解けようとする力が加わる。この力で香箱が回転、2番~4番車を回転させる。つまり竜頭を巻く事で秒針にいたるまでゼンマイの力が加わるという事だ。
さて、ここに問題がある。「チョロQ」を知っているだろうか?後ろに引いたら一気に走り出す自動車の玩具だ。チョロQ内にはゼンマイがあり、後ろに引く事で、ゼンマイを巻き上げ、解ける力で前に走るのだ。
時計のゼンマイもこれと同じように巻き上げると一気に解けてしまう。つまり2番車や4番車に分針や秒針が付いていても一瞬で何回転もして時計は止まってしまうのだ。これでは役に立たない。
それを防ぐ為のものが脱進機なのだ。脱進機と調速機であるテンプによって、時計のゼンマイは一気に解けず、また規則正しいリズムを刻む事ができるのだ。
テンプの一定のリズムによって左右に振れるアンクル。アンクルについている爪がガンギ車の動きを妨げる。左右に動く瞬間のみ4番車まで伝わったエネルギーが開放されるので歯車が動く。
規則正しいタイミングでガンギ車が動く止まるを繰り返す事で、一気に解放されるはずのゼンマイの力が徐々に消耗し、長い時間、時計が動き続ける事を可能にした。

時計のチチチチチ・・という音(チクタクで表現される音)は実はガンギ車とアンクルがぶつかる際に発生するのだ。アンクルがテンプによって左右に触れ、ガンギ車を止める。アンクルが右に振れた場合とと左に振れた場合では当然ガンギ車の止め方が違うので、チクタクという表現はあながち間違っていない。
これは腕時計に限らず機械式時計全てに当て嵌まる。

最近はこのアンクル脱進機以外の新型開発が時計業界で流行しているようだ。(もちろんトゥールビヨンの開発の影響もある。)最近の発明ではないが「OMEGA」のコーアクシャル脱進機が有名だ。

ではもうひとつ大事な、調速機と呼ばれるテンプについても説明しよう。
ガリレオ・ガリレイが発見したと言われる、振り子の振幅が大きくても小さくても1往復する周期がかわらないという「振り子の等時性」。
柱時計等では今でも振り子を使用して、規則正しいリズムによって脱進機の進みを調整し、正確な時間を刻んでいるが、現在の機械式腕時計ではそれをテンプが代わりに行っていると思って頂きたい。テンプに付いている等時性のあるひげゼンマイが伸縮を繰り返す事で、テン輪が規則正しく回転の往復運動を繰り返す。その動きをテン輪の上に付くテン真の「振り石」でアンクルに伝えるのだ。

全くよく考えられたモノである。

それでは、組み立てに移ろう。
写真1がアンクル及び固定用のパーツだ。今回も比較用に1円玉を写してある。
アンクルは見ての通り錨型で、左右の爪の先にルビーが使われている。このルビーがガンギ車と接触する点だ。アンクルの左右(裏表)を間違えないように正しく配置。(写真2)
アンクル受けとネジで固定。アンクルがガンギ車を押さえているので、竜頭を巻いても歯車が回る事はない。

テンプを取り付ける。写真3と写真4がテンプの表裏である。
テンプのルビーが付いていない方(先端がクワガタのように2叉になっている方)が竜頭側に来るようにアンクルを動かす。
このクワガタ状の隙間にテンプの振り石を入れる必要がある。テン輪の運動に合わせ左右に弧を描きながら振り石が動き、アンクルを左右に動かす。(クワガタが竜頭側になければ振り石が入らない。)

テンプ受けをピンセットで持ちテン真を地板の穴石に入れる。ORIENT同様、持ち上げるとテン真がひげゼンマイで震える。やはり難しい。
テン真が入ったらテンプ受けを正しい位置に配置。この時、振り石をアンクルのクワガタに差し込むつもりでテンプをゆっくり回すような感じで行う。
巧く配置出来たらテンプ受けをネジで軽く固定。テンプを軽く振って動くか確認。大丈夫であればしっかりと固定する。写真5でテンプが動いているのが判る。
これで時計としての基本的なパーツの配置が完了した事になる。
輪列の歯車もガンギ車も時計らしく動く。

補足だが、よく機械式時計に「振動数」が述べられているが、テンプの半往復する数を示す。因みにこのETA2824-2は毎秒8振動である。
振動数が多くなる程精度が安定しやすくなるが、当然動きも激しい為パーツに掛かる負荷も大きい。
現在は毎秒5振動=毎時18000振動(bph=beat per hourという単位を用いる。)・毎秒6振動=21600bph・毎秒8振動=28800bph・毎秒10振動=36000bphが広く使用されている。
そして昨年「Seiko Instruments Inc.」略称「SII」が毎秒12振動=43200bphのの腕時計を開発。現在「GSX」より「富嶽 fugaku」の名で、世界で初めて商品化された毎秒12振動のSII製ムーブメントを搭載した時計の販売が決定した。(値段は驚きの600万円也。)
脱進機と調速機は時計の心臓ともいえる存在だ。様々なメーカーが開発に心血を注いでいるのも頷ける。

次は自動巻き機構の製作からとなる。次回へ続く。