前回パーツを取り付けた面を裏にして地板を固定する。
今回は輪列の配置からである。
「ORIENT」の時の復習となるが、香箱から2番車、3番車、4番車へと動力が伝わり、更にガンギ車に噛み合い、脱進機に繋がっている。
写真1は2番車、3番車、4番車、ガンギ車を配置したものだ。
2番車は1時間に1回転する歯車の数を持っている。そして4番車は1時間に60回転するように計算されている。これは即ち、2番車が「分」を刻む歯車で、4番車が「秒」を刻む歯車という事に他ならない。ETA2824-2では現段階は4番車が先に中央にセットされる。斜めの位置にある2番車から分針の付くツツカナ車と時針の付く歯車(カサ車)を表側で4番車の軸の同心円に配置するようだ。
ORIENTの場合は2番車を最初に中央に配置している。配置順も組み立て順も違うのが面白い。
ガンギ車は4番車と連携している。この独特な形状は、錨の形を意味する「アンクル」と呼ばれる部品と連携する。これらを「脱進機」と呼ぶ。
写真2は上記の歯車を「2番受け」で固定したもの。歯車の軸の先端(ホゾ)が全て正しくルビーの穴(ホゾ穴)に入ったか確認する。
写真3で香箱を配置。横からスライドさせるように収める。
写真4。香箱を固定する「1番受け」以外の小さなパーツを撮った。
1、「ハックレバー」。竜頭を引くと秒針の動きを停止させる為のもの。時刻を合わせる際に役に立つ。
2、「1番受け用ネジ」。3本で1番受けを地板に取り付け香箱を固定する。
3、「コハゼバネ」。ETA2824-2のパーツで最も小さいものだ。存在に気付かなかった程。
4、「コハゼ」。コハゼバネと合わせて用い、香箱の逆回転を防止し正回転のみとするもの。
5、「丸穴車」。ゼンマイの巻き上げに関するパーツ。キチ車と噛みあっており竜頭からツヅミ車、キチ車と伝えられた動力を角穴車に伝える役割をする。コハゼの突起が掛かる。
6、「丸穴ネジ」。丸穴車用のネジでこのネジは逆ネジとなっている。
7、「角穴車」。これもゼンマイ巻き上げに関するパーツ。ゼンマイを巻き上げる時に発生する強い力にも耐えられるよう歯車の穴を角型にして歯車と軸が噛み合うようになっている。
8、「角穴ネジ」。角穴車と香箱を固定するもの。
まず、ハックレバーを配置。短い方の先端がツヅミ車の溝に収まる。その上に1番受けを乗せ3本のネジで固定。
次が今回の最重要点。最小のパーツであるコハゼバネを配置する。仮にも「バネ」なので弾性があり、下手をすると何処かに飛んでいく。髪の毛程の太さしかなく長さも短い。飛ばしたらもう絶対に見つからないだろう。
ではどうすれば良いか?
薄いセロファンをムーブメントに乗せ、その上からピンセットで優しく配置するのだ!万が一飛ばしてもセロファンに当たるので見失わないという。納得の素晴らしいアイデアだ。
更に慎重にコハゼを配置。コハゼバネの張力が掛かっているので気を付ける。
同様に丸穴車を配置、丸穴ネジで固定。このときもコハゼバネには細心の注意を払う。
角穴車を配置、角穴ネジで固定。
この状態が写真5である。ハックレバーは1番受けの下に、1番受け用ネジは、文字「4」の右上、文字「5&6」の5の下、文字「7&8」の&の上に、コハゼバネは丸穴車に配置されている。
間違いが無ければ竜頭を巻くと歯車が全て回転する。緊張の連続だったが綺麗に全てが噛み合い回転する様子を見る事ができて嬉しい。
これで竜頭の作動に関する機構、輪列、ゼンマイを巻く事に関する機構と組み立てる事に成功した。
ここまで組むとETAとORIENTの違いを実感できる。どちらが優秀か等は残念ながら私如きでは判断できない。私にとっては双方ともそれぞれ素晴らしいモノだ。
重要な事は、どのようなアプローチで基本のパーツを効率良く配置しているのかという点。ブランドの違いに留まらず、これは日本とスイスの思考の相違点でもあるのかもしれない。非常に興味深い。
次回へ続く。