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時計に拘りを持っておられる方は多いと思うが、どうも腕時計等携帯できる時計に魅力を感じてしまう方が殆どだろう。腕時計(Watch)は小さなケースに技術を詰め込んだ結晶のようなものだ。時計師が持つミクロの技が必要なのだが、時計が大きくなれば細かな作業を要しなくなり、職人的価値が無くなるのは当然だと思う。
したがって、置時計や柱時計等家に備え付けたままの時計(Clock)にはあまり価値を見出せないのかもしれない。

ただし、それはWatchをそのままClockにした場合だ。ClockにはClock独自の技術を要すればWatchとは違った価値の存在となる。
精度の良い時計、メンテナンスをあまり要しない時計、調整が簡単な時計、ロングパワーリザーブの時計・・総てがWatchより優秀なものを作ることができる。Watchと違い備え付ける為姿勢差を気にしなくてもよいので尚のことだ。

Clockの世界でもいくつも有名な作品が存在しているが、中でも最近の傑作として名高いものは「VACHERON CONSTANTIN」創立250周年記念オークションのために、唯ひとつのみ製作されたユニークピース「L'Esprit des Cabinotiers」だろう。
このオークションの目玉として出品されおよそ2億円という金額で落札されたそうだ。PGで作られた球体(写真1)が蓮の花のように開き、中からClockが出現する(写真2)。なんとも神々しい姿だ。このClockには14の複雑機構が盛り込まれているという。

では、私達でもなんとか手が届く金額でClockとして購入するべき価値のあるモノはあるだろうか?
時計好きならば一度は耳にした事があるであろう有名なClockがある。それこそが今回紹介する「Jaeger-LeCoultre」の「ATMOS」である。

この時計、実はとんでもなく凄い性能を有している。
とても綺麗なクリスタルガラスに収められた美しい時計。しかし、パッと見た感じでは特別の印象は受けない。
ATMOSの特徴は上で述べた「ロングパワーリザーブ」を有するところにある。Watchの世界では同メーカーJaeger-LeCoultreを筆頭に8日間のパワーリザーブを持つものが長い駆動時間の一般的な腕時計だ。(現在はたぶん「Jacob&Co.」の「The Quenttin(写真3)」が31日間のパワーリザーブを持っていて最も長い駆動時間だと思われる。値段も別格で6000万円とか。)
しかし柱時計などでは更に長い時間駆動するものもある。ではATMOSは何日間動くのだろうか?

答えは約2日。全くたいしたことはない。真に凄いのはここからである。
ATMOSにはゼンマイを巻く必要がない。当然電池で駆動する訳でもない。ATMOSの動力はタンクに収められた液化ガスが±1℃の温度変化で膨張・収縮運動を繰り返す事によって細いゼンマイを巻き上げる仕組みになっている。15℃から30℃間の1℃の温度変化で約2日間駆動する。2日間で1℃の温度変化が起こらないことはあるだろうか?つまりATMOSを設置した室温が1℃変化する限り動き続ける永久時計に最も近い存在なのだ。(理屈的には自動巻きの腕時計を常に振り続けているという事になる。)
1928年にジャン・レオン・ルター氏によって考案された「Atmosphere」=「大気」の変化を駆動力としたATMOS。名前の由来はここにある。

更に小さなエネルギーを変換しているだけあり、振り子の振動数は2回/分と非常にスローで時計自体の消費エネルギーも極僅かに設計。機械の負担も少なくOHも少なくて済む。マニュアルには、150年後にOHが必要なので、貴方の御子孫がOHを行えるよう購入年月日を記録して置くよう指示があるそうだ。そして不具合が無ければ600年は稼動するという、まさに世代を超え受け継がれる時計だ。

欠点は精度を出す点にある。精度が悪いのではなく、時計の性質上非常にデリケートなのだ。
それを補うには設置に注意する必要があるようだ。しっかりとした土台に配置し、水平を保つ必要がある。(ちゃんと本体に水準器が装備されている。)そして出来る限り時計に振動を伝えないような場所が理想だ。

現在販売されているモデルは、
ATMOS CLASSIQUE(写真4)\525,000~ ベーシックなモデルである。
ATMOS CLASSIQUE Phases de lune Transparente(写真5)\1,039,500 写真4の素材を限りなく透明にしたモデル(Transparente)、ムーンフェイズと月表示を追加したモデル(Phases de lune)、更に写真5のように透明でムーンフェイズを持つモデルを選ぶことが出来る。ムーンフェイズは非常に正確で3821年で1日の誤差しか生じないらしい。
ATMOS Régulateur Transparente(写真6)\5,995,500 写真5に24時間表示を加えレギュレーターにしたもの。
ATMOS Millénaire Transparente(写真7)\1,197,000 ムーンフェイズに加え西暦3000年までの年表示を可能にした。
ATMOS Mystérieuse(写真8)\23,352,000~ ダイヤモンド等の宝石を散りばめ「Baccarat」のクリスタルガラスケースに収められた芸術品である。時分をレギュレーター表示している。柱頭内に収められているメカニズムが、台座から齎される目に見えない力を、ムーブメントの後ろに配されている透明な歯車まで伝達しているらしい。実物を見たことがないのでわからないが名前のとおり「ミステリークロック」のひとつと思われる。たぶん動力の伝達がミステリー化されているのだろう。

ATMOSは年々デザインが変更になるようなので、値段も正確ではないかもしれないし、上記のモデルも既にディスコンティニュードになっている可能性もあるのでご容赦頂きたい。昔はもっとクラシカルな意匠が多かったが、最近は透明化が流行りのようだ。

貴方の家にもATMOSを飾ってみてはどうだろう。唯一無二のスイスの技術の結晶は世代を超えて600年を刻み続けるはずだ。