はい、皆さんメリー、クリスマスという訳でしてね、

 

今日はクリスマスっぽいようで、全然クリスマスっぽくない、

 

そんなお話をメレンゲ気分で、してみたいと思いまーす。

 

(※メレンゲ気分の時は、尿検査をお断りさせて頂いております)

 

 

 

私は若い頃に、

 

正確かつ具体的に言うと性欲が今よりもっともっと旺盛だったころ、

 

西武池袋線の沿線に隠れ住んでおりました。

 

都内在住の方でなければサッパリわからないお話ですので簡単にご説明いたしますと、

 

池袋東口にある西武デパートと直結している『西武池袋駅』と、

 

埼玉県の秩父市にある『西武秩父駅』を結ぶ私鉄、

 

それが西武池袋線でございます。

 

 

で、ヤング砂肝はその当時、

 

西武池袋線の車窓から外を眺めているとヒョッコリと視界に飛び込んでくる、

 

『パチンコ かめ』という文字だけが浮かんだパチ屋のネオン看板が大好きでした。

 

 

決して立派とは呼べない雑居ビル風の建物のてっぺんにさりげなく、

 

しかしながらその文字を読む者にそれなりのショックを与える、

 

『かめ』というひらがな2文字。

 

それは決して裕福とは呼べない家庭が迎えたクリスマスの日に、

 

近所のスーパーで買った小さなケーキの上に乗っかった砂糖菓子のプレートのように、

 

大人にとっては取るに足らない代物だったのかもしれませんが、

 

まだ大人になりきれていない、私のような若者にとっては確実に主役と呼ぶに値する、

 

素敵なオブジェ(オブジェか?)でした。

 

「パチンコかめには、どんな台が置いてあるのかな?」

 

「亀みたいな顔をした店長さんが、怖い顔をしてホール巡回しているのだろうか?」

 

「オーナーは亀田さんなのか、それとも亀山さんなのか、はたまた鬼頭さんかしら?」

 

「もしも『パ』の文字が消えてしまったら、SなのかMなのか良くわからない男の呟きになってしまうなあ……」

 

ぼんやりと夜空に浮かんだ『パチンコかめ』の小さなネオン。

 

ささやかな街灯りは、黄色い電車に押し込まれて家路を急ぐ私の想像を、

 

ほんの少しだけ膨らませてくれるエレクトリカル・パレードでした。

 

……すまん、パレードは言い過ぎた。

 

 

 

ところが、それから数年後。

 

諸事情によって都内から離れて暮らしていた私が久しぶりに西武池袋線に乗り、

 

あの看板を見るのをワクワクしながら待ち構えていたところに飛び込んできた風景に、

 

私は言葉を失いました。

 

そして、失望しました。

 

そこに、「ぱちんこ かめ」の文字はありませんでした。

 

代わりに夜空に浮かび上がっていたのは、

 

 

「パーラー タートル」

 

 

……英語になっちゃったよ。

 

何でも横文字にすればいい、という訳ではないでしょうが!

 

太陽が西の空に燃え尽きて落ちて行く黄昏時に灯るネオン。

 

ひなびた街並みを包み込んだ夕闇に浮かぶ「かめ」の不器用な明滅。

 

その古き良きレトロ感が、だいなしです。

 

何がタートルだっ、バカバカしいっ!!

 

私は、この世界を呪いました。

 

パーラータートルのオーナーのことも、呪いました。

 

ついでに、この街に戻って来るきっかけになってしまった、

 

元・職場の上司も、ちょっとだけ恨みました(典型的な逆恨み)。

 

そして、

 

西武池袋線に乗る楽しみがひとつ減ってしまったようで、

 

何だかさびしくなってしまいました。

 

 

そして、さらに数年後。

 

すっかり大人になってしまった私がふとしたきっかけで西武池袋線に乗ったところ、

 

「パーラー タートル」の看板すら目にすることができませんでした。

 

おかしいな、と思い検索サイトで調べてみたところ、

 

その店の名前を探し当てることはできませんでした。

 

どうやら、とうの昔に無くなってしまっていたようです。

 

「かめのように、長く生きられた店ではなかったのか……」

 

私は、遠い昔の夜空に思いを馳せながら、

 

いつの間にか黄色からメタリック・シルバーへと変わっていた電車に揺られ、

 

母の待つ家へと帰っていきました。

 

 

それから、どれぐらいの時間が流れたのでしょうか。

 

遠い夜空に浮かんでいたネオンのことなど、もうすっかり忘れてしまっていたつい先日、

 

西武池袋線の練馬駅にフラリと立ち寄ったその瞬間、私は再び言葉を失いました。

 

お世辞にも立派とは言えない、駅前のパチンコ店。

 

そこに書かれていた文字は……

 

 

「パーラー  ニューかめ」

 

 

……果たして少年時代の私が見ていたのは、

 

この店のネオン看板だったのでしょうか?

 

それとも移転して、この場所に店を構えて現在に至っているのでしょうか?

 

知りたいような、どうでもいいような不思議な記憶ではありますが、

 

「かめ」と言う名の、このパチンコ店。

 

いつまでも沿線の皆さんに愛されるホールであり続けて欲しいですね。

 

 

……ま、

 

言うても私、この店ではパチンコ打ちませんでしたけどね。