※一昨日の続きの記事になります。


エロ・ギャグ抜きの内容になりますがご容赦下さいw



~つづき~


めぐちゃんと鈴木くんが別れてしまった後も、


僕の二人に対する接し方は変わりませんでした。


鈴木くんとは好きなバンド話を、


めぐちゃんとは、


昨日観たテレビの話のようなどうでもいい話をする日々が続きました。



変わったのは、めぐちゃんの僕に対する接し方です。


僕と会話している時の彼女は、


以前よりも明らかに笑顔が増えて、


表情が活き活きとしていました。


また、それまでは僕が話題を振って彼女が答える、


という事がほとんどだったのですが、


自分から積極的に語りかけてくる事も増えてきました。


失恋をきっかけにしたのか定かではありませんが、


長かった黒い髪にゆるめのパーマをかけて、


少しキツ目に見えた目の周りの化粧法を変えて、


前回「中の下」と評した彼女の顔は、


「中の上」ぐらいにランクアップしましたw



・・・・・そう。


ここまでしっかり見ている事でお気づきかとは思いますが、


この時点で少なからず彼女に惹かれていたのかも知れません。



ただ気になっていたのは、


彼女は「友達の元カノ」だということです。


それが僕の心のどこかに小さくも鋭いトゲのように刺さっていて、


それ以上前に進む事を許してはくれませんでした。



だからこそ、自然に見えるように。


それでいて、他人と同じように思われないように。


僕は「友人以上の友人」になるため、


けれども「恋人未満の存在」であるために、


仲良くはしていても、仲良くなり過ぎないように、


自分で自分に言い聞かせていたのです。



僕らは、クラスが別々でフロアの別々だったので、


教室で会話をすることはできませんでした。


二人が話をするのは、


休み時間の廊下か放課後の校舎内や帰り道でした。


彼女もあくまでも偶然を装って、


校舎の階段の前で僕を待っていてくれました。


次の授業が始まるまでの僅かな時間に、


他愛の無い、それでも尽きることのない話をしていました。


僕も彼女が帰る時間にやはり偶然を装って一緒に帰るために、


彼女の長い髪を捜して正門の前をうろうろしたりしていました。


そしてわざとらしく驚いたフリをする彼女と一緒に、


燃え尽きてゆく夕焼けを背にして駅までの道を、


一歩、また一歩と惜しむかのようにゆっくりと歩いたりしました。




いつしか僕らはお互いの事を名前で呼びあうようになっていました。


飾らない性格の彼女との会話は自然に弾み、


今まで苗字で呼び合っているのが不思議だったぐらいに、


そうする事はごくごく当たり前のようになっていました。



修学旅行で訪れた京都でも、別々のクラスでの班行動の時間に、


僕らは限られた、ほんの僅かな時の流れを惜しむかのように、


名前なんてどうだっていい、古い建物には目もくれずに、


お互いの顔を見合って、精一杯笑っていました。



そんな平行線はやがて最後の冬が終わりに近づき、


卒業の時を意識し始めたころ、


少しずつ別々の方向へと距離ができるようになってきました。


それはまるで、互いの感情を隠すように。


もうとっくに気付いている気持ちをごまかすかのように。


僕らは、どちらともなく偶然を装うことをしなくなり、


本当の偶然でしか、彼女の姿を見る事ができなくなってしまいました。



そこからはまるで何事も無かったかのように残りの日々は過ぎていきました。


砂時計の砂のように、音も無く尽きていくだけの残された時間。


けれど確実に流れていく時の残酷さに苛立ちながらも、


僕は大事な言葉を伝えるタイミングを考えていました。




「卒業しても、会えるかな?」


恋人のような甘い言葉でもなく。


安っぽい友情のように嘘にまみれていない言葉。


強くも、弱くもない言葉を、


僕は卒業式の日に、彼女に伝えたかったのです。




そしてその日がやってきました。


僕は胸のポケットにしまいこんだこの言葉を、


卒業証書よりも大事なこの言葉を、


めぐちゃんに伝えるためにその日を迎えたのです。


最後の日の教室の空気はやけによそよそしく、僕を柄にもなく緊張させ、


式の催される体育館の冷たく固い床は、それをさらに増長させました。


誰の卒業式だったんだろう、という漠然とした疑問が消えないまま、


何の感慨も無く校舎を後にした僕は、


いよいよその言葉を伝える相手を探す時を迎えたのですが・・・。



その日。


僕は、めぐちゃんの顔を一度も見る事がなく、


正門から文字通り逃げるように帰ってしまいました。


卒業と呼べる程、立派な事をしなかった3年間を恥じるかのように、


本当に、逃げるように、


たった一人で、友人にロクな挨拶もしないで、


そして何より、めぐちゃんにどんな顔をしていいのかわからなくて、


その場から姿を消してしまったのです。



あの日、あの時、あの場所で彼女はどんな顔をしていたのだろう?


もしかして僕を待っててくれた、というのは自惚れ過ぎるだろうか?



思い出すのは、あの僅かな時間の中でもらった、


僕の胸に今も貼り付いて消えない、はにかんだ笑顔。


最後に観た彼女の顔は、どんな表情をしていたのか、


それを思い出そうとしても、どうしても思い出せなくて、


結局思い浮かぶのは、


僕が初めて苗字ではなく、彼女の名前を呼んだ時の、


戸惑いの混じったような、その照れ笑いなのです。




あれから随分と長い時間が流れてしまいましたが、


時折、ぼんやりと考えるのは

「めぐちゃんはもうとっくに、幸せになっているのだろうか?」


という、考えても答えなんて出てこないような事なのです。

そのたびに、心から相手の幸せを願えるほどの立派な人に、


やっぱり僕はなれていないなぁ、と思ってしまうのでした。