~おとといの続きです~


1995年12月24日、正午前。


シンちゃんの教えてくれた勝ち馬、マヤノトップガン。


その単勝馬券を購入すべく、自宅を出ようとしました。


「どうせなら2着の馬も教えてくれよなー」などと思いながら。




ところが。


ブーツを履いた瞬間、ふと冷静になってしまいました。


僕はその数日前、会社の上司と大ゲンカをしてしまい、


年の瀬に失業するハメになっていました。


そのため、月末に振り込まれる予定の給料は無くなってしまい、


年明けに会社の経理に頭を下げて最後の給料を受け取りに行く、


という状況でした。


財布の中身は、クビになった当日、ヤケになって打っていた、


CRスーパーダンク(平和)で勝った3万円のみ。


これで、正月を乗り切らなければならない。


もし、馬券が外れたら??


つーか、競馬やってる場合なのか??



・・・・僕の出した答えは、


「馬券は買わず、年末年始は極力お金を使わず乗り切る」


でした。




その日はクリスマス・イブ。


現実逃避を選択した僕は、


馬券を買いに行く予定をキャンセルして、


昼間っから「マリオカート」をずーっとやっていました。


数時間が経過し、ふと時計を見た僕は、


「あ、有馬(記念)どうなったんかな?もう終わったかな??」


と思い、TVのチャンネルをゲームから切り替えました。



レースは正に、馬軍が中山の第4コーナーを回るところでした。


ゴールを目指して疾走する各馬。


妙な胸騒ぎがしたのを覚えています。


笑っているような、怒っているような不思議な表情をした、


シンちゃんの顔が頭に浮かびました。


そして、先頭の馬がゴールする、その刹那。


ブラウン管の向こうで、シンちゃんの怒鳴り声が聞こえた気がしました。





一着でゴールを駆け抜けたのは、6番人気、田原成貴鞍上のゼッケン10番、


マヤノトップガンでした。


シンちゃんの夢は、正夢となったのです。



大きな後悔。


そしてもっと大きな驚き。


僕は、シンちゃんにすぐに電話をしたかったのですが、


今日は競馬場にいるんだろうな、という気がしたので、


その日は電話をかけませんでした。



その翌日。


仕事の無くなった僕はまっ昼間からシンちゃんの家に電話をかけました。


ところが、


受話器の向こうから聞こえてきたのはシンちゃんの間延びした声ではなく、


「この電話番号は、現在使われておりません」


と繰り返される、無感情なアナウンスだけでした。




今どこで、何をしているの?


ゴールの瞬間に、何て叫んだの?


どうして僕に、あんな夢をみせてくれたの?


有馬記念の前になると毎年、シンちゃんにそう聞きたくなります。



それ以来僕は馬券を買っていません。


たまに、買わずに予想だけしてみると、ピタリと的中する事が結構あります。


それでも、いざ馬券を買ったら絶対にハズれてしまう気がしてなりません。


僕は大事な友達の見せてくれた夢を信じられなかったのだから。



今でもときどき、ふとした瞬間に、彼を思い出す事があります。


二人でニューパルサー(山佐)を打っていた頃の、彼の口癖とともに。


「砂肝ちゃぁーん、このリーチ目、ビッ確(ビッグ確定)なんだよぉ~。」



                                おしまい。