彼は今日もキャンプに来ていた

何故不自由な環境に自分を置くのかわからないままに

ただ、家に居て日常のままで時間を過ごすことには耐えられないと感じていた


受付を離れた町内で済ませた

およそ30分は予定時間より遅れていた

何故なら、ちょっと行った所でスコップと最近買ったお気に入りのブーツを忘れた事に気づき、家に帰ったからだ

スコップを忘れて戻ったのは2度目だ

彼は自分の学習能力の無さに少し失望した


キャンプ場に着くと何組かのキャンパーが既にいた

彼は珍しく自分と同じテントがある事に驚き、少し笑った

「最近見なかったけどまだいけんだな」

彼はテントを手に入れた時の嬉しさと、雪の中初張りに行った感動をまだ覚えていた

が、頭か足先がテントに擦れてしまい「あと20センチ幅が広かったら最高なのに」

と、最近の悩みを思い出し、密かに自立式のツールームテントをネットで探している事に少し罪悪感を感じた


彼のキャンプスタイルは2通りある

使うかどうか判らないテーブルまで全て出してセッティングを済ませてからキャンプイン(飲酒)する場合

キャンプイン(飲酒)してから必要に迫られて装備を追加する場合

今回は前者だった

ただ、一酸化炭素警報器の電池が一つ足りなくて普段は2つの警報器が、今日は一つになる事に若干の不安を覚えたが、隙間だらけのテントを見渡し、「これじゃあ中毒にならないな」と自分にいい聞かせた



今日は焚き火をして暖を取ろうと決めていた

会社の人から貰ったウッドデッキの残骸(凄く爆ぜる)

解体した自宅のベッドのスノコ(いい匂いする)

この二つを燃やしたい

何故これらが有るのに先週「あ〜薪もください(にやり)」としたのか自分でも判らないでいた

薪が無いよりは余った方がいいと思ったが、寝る前に薪割りの音を響かせるのは違うと思った


何故かライターやマッチで火を起こすのが嫌いな彼は、一度失敗したが自分でとってきた白樺の皮で着火できた事に凄く満足した

そして、目下進行中のプロジェクトの「自然チャンネル」というYouTubeに向けて映える写真を撮ろうといつものクリームチーズをカップに擦りつけて写真を撮ったりした

が、YouTubeは動画で写真だとイマイチな事に気づいて無かった

ただ、自然チャンネルという甥っ子が提示したYouTubeのチャンネル名に今だに違和感を覚える事があったが、仕方がない事だと自分にいい聞かせた

それより甥っ子が「YouTubeの分け前の事で相談がある」と10歳の割には生々しい事をいい出した事を少し気にかけていた


映えるをテーマに挑んだキャンプに、肉を焼く為の網を忘れたのは致命的だった

最近はマンネリ化していたメニューから調味料は少なく、コショウもない有様だった

ジューっと焼ける肉は映像的にも見映えがよく

期待していたが、塩とチューブのニンニクを刷り込み焼き台の串に刺して焼いた

食する分には美味だったが映える写真が撮れなかった事に彼は失望した

ちなみに、撤収時に焼き網がクーラーボックスから出てきた時に彼は膝から崩れ落ちた


彼には今回秘策があった

見慣れないInstagramでロウソクを自作する小太りな外人が非常に魅力的に見えて自分でもやってみた


もう一度見返したいと思いInstagramを開くも目指す動画は見つからず、彼は自分のSNSのスキルが少し足りないと感じた

が、とりあえずできた

面倒なので、来週もう少し過酷な気温になるキャンプにとっておこうと放置した

何がやりたかったのか判らなくなっていたのは後で考えるべきだといい聞かせた

彼の色々な都合とは関係なく薄暗くなってきた

マジックアワーと呼ばれる夕方の綺麗な稜線は姿を見せず暗闇だけが静かに訪れた


映えるキャンプを目指す彼は夜になってから一眼を取り出し自分のテントに向かってシャッターを切った

そこにはオレンジにボヤけた意味不明な映像が現れ彼は失望のあまり多めにウイスキーを煽ると不貞寝した


朝目が覚めるとかなり明るかった

曇っている空を見て望んでいた朝焼けは無かったと自分にいい聞かせて二度寝した


いつものおじやを食しながらニンニクを入れ忘れた事に気づいた

寒さの為にフタを開けたら白く油が固まっていたが、「これを取ったら脂っこいおじやにならないんじゃないか?」と思ったが、意に反して彼の手は既に鍋の中を掻き回しており、固まった油はコナゴナになっていた

彼の中のAと彼の中のBが罵り合って喧嘩したが、彼自身は「あ〜失敗したわ」で終わった

こんな事でクヨクヨしてたら俺は俺としてやってられないと自分にいい聞かせていた

レイトチェックアウトを選択したのは彼だけだった

10時の少し前から少し過ぎた時まで彼はテントの中のコットに座り、顔だけ出してシマエナガが来るのを待った

途中、コーヒーを飲んだり、いつも通りな脂っこいおじやを食したりしながらそこそこ充実した何もしない時間を過ごした

が、カラスが喧嘩してるのと、アカゲラが竣工前の忙しささながらに木をコンコンつつく音しか聞こえず、彼は前の日から続いていた週末の楽しみを終わらせる事にした

次に張る時を想像してテントを丁寧に畳み、薪を仕舞って帰路に着いた



Fin