【29】

今回の事件を振り返って、ふと思ったことがある。俺は、現場事務所の電話で話してるだけで、どこにも出向かなかった。

しかし、いろんな人たちが動いてくれて、ことがうまく進んだ。「動かした」ではないだろう「動いてくれた」だと思う。

電話だけという、ある意味横着な行為でうまくいったのは、自慢ではないが、俺の声と話し方にもよるだろう。やさしくわかりやすい話し方に勤めてきたことがよかったのだと思われる。思いを声に乗せるということもしてきたかもしれない。

ドロ目男の犯罪者的な声と話し方と対極にある誠実な甘い声が武器になったのかもしれない。

どちらにしても、自分の思いは声に出やすいものなのだ。

魂は声に現れる。

(完)