バレてもいい、モテれば | 砂場

砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

我ながらバランスのとれたラインナップだと思う。巷で評判の本ばかりなので、僕としては「ゆん」がお勧め。



戦後の精神史を「理想の時代」「虚構の時代」「不可能性の時代」と分類して社会学の視点から分析する。僕には難しくて全てを把握することは無理だったけど、理解できる断片的な部分だけでも面白く刺激的なものだった。「現実から逃避」するのではなく「現実へと逃避」するという指摘にものすごく納得した。小説を読む動機にも「虚構への逃避」ではなく「現実への逃避」があるに違いない。



読書の腕前 (光文社新書 294)
岡崎武志
光文社
発売日:2007-03


古本ライター岡崎氏の読書履歴書&読書論。関西人らしい軽妙な語り口で、名作に関する知識や読書論として本との接しかたなど勉強になることがたくさん書いてあるけれど、なによりも読んでいて自分がもっと本が読みたくなる。活字中毒者にとって火に油を注ぐ本と言える。



さよなら渓谷
吉田修一
新潮社
発売日:2008-06
 

前作『悪人』と近い物語構造(犯罪者=悪という図式を壊しつつ、純愛劇へと移行)を持っている。『悪人』が群像劇の長編だったのに比べると、こちらの方が物語が短くて焦点が明確になって切れ味が鋭い。幸福や不幸、愛や憎しみという分かりやすい感情を捨て去り、ただ人として生きるめだけの場所にかろうじてたどりつく。これが満たされた人生だとするならば、人が生きるとはなんと苦しいものだろうとか。胸の奥がザワザワと波打つ物語だ。



終わりは始まり
中村航&フジモトマサル
集英社
発売日:2008-05
 

雑誌連載の単行本化。投稿された回文のイメージでフジモトマサルがイラストを描き、そのイラストのイメージで中村航が短い物語を書く。イラストと物語のレベルの高さはもちろんのことながら、やはり特筆すべきは回文の持つ不思議な力だ。「さみしさの刺身さ」「島、けだるく子猫来るだけマシ」「幸実れ、わがまま気ままの我が道さ」「古典的な機転、テコ」どちらから読んでも同じというだけなのに、どうして回文というだけでこんなに面白いのだろう。「バレてもいい、モテれば」



グ、ア、ム
本谷有希子
新潮社
発売日:2008-06


高校卒業後、何も考えず東京にでて、ジャズバーでバイトなどするお洒落っぽい姉と、地元で堅実に勉強をして大阪の信用金庫に勤める真面目なでも、私服のセンスは田舎的ヤンキーの妹と、そういうわけで仲があまりよろしくない二人の間を取り持とうと空回りをする典型的なオカンキャラの母という3人によるグアム旅行珍道中。ほとんどコントのような展開でありつつも、それぞれの、いかにもありそうなキャラを徹底して描くことで見えてくる人間のパターンというのが興味深い。





世界の裏で暗躍する秘密結社。その最高機関は7人で構成されていて、それぞれ曜日の名前が割り振られる。その組織を壊滅させようとスパイとして潜入し「木曜日」となった男が主人公。奇抜な設定で、ベタな展開のな冒険活劇かと思いきや、かなりのアクロバティックな展開にて驚天動地の終盤。曜日ごとのそれぞれのキャラが立っていて、ラノベ的な面白さがありつつも、前衛的な古典(?)といった格調高い趣があって、独特の味わいが楽しめる。その昔、僕が好きだったゲーム「街」の元ネタがこれかと初めて知った。


ザ・ロード
コーマック・マッカーシー
早川書房
発売日:2008-06-17


無法地帯となったアメリカを南へと向かう父と子。核戦争なのか、世界に何が起こったのかわからない。ただ、人口は圧倒的に少なくなり、政府はもちろん、社会的なものは何一つ機能していない。わずかに生き残ったものが食料を奪い合う世界。父のモノローグと父と子のダイアローグが断片のように記される。ショッピングカーに荷物を載せて、飢えに苦しみ、人狩りに怯え、父は子に希望を語りながら進むが、自らは絶望に縛られて悪夢にうなされる。父は子に何をしてやれるのか、子は何を糧に生きていけばいいのか。ただ道を進むことしか出来ない世界で、その進むことの意味すら見失っていく物語を、静謐な筆致で描く。見事な傑作。


ゆん
山本精一
河出書房新社
発売日:2008-03


関西を中心に活動する音楽家・山本精一氏によるエッセイ集。ライブに行ったことあります。山本氏の参加する羅針盤というバンドが大好きでした。パンクスとはこうあるべきという生き様が書かれてあり、過剰と欠落に溢れた日々は、読みながら笑いと困惑と不可解が入り混じり、読み応え抜群です。多彩な方で活動も幅広いですが、エッセイにもぜひ力をいれて欲しいと思います。