『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田篤弘/暮らしの手帖社 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

吉田 篤弘
それからはスープのことばかり考えて暮らした

サンドイッチのようにフワフワとした手ざわりで、挟み込まれた具材のしっかりとした歯ごたえと味わいが気持ちよく、よく煮込んだスープの何とも言えない匂いと濃厚な味わいが楽しめる。そんな気分になる小説。

物語を簡単に説明すると、古い映画にでている端役の女性と、行きつけの店のサンドイッチを愛する青年が、その二つの情熱を注ぎこんだスープを作り上げるといった感じだ。少しぼんやりした雰囲気の主人公、気どらなくて豪快なアパートの女性の大家さん、律儀な性格だがちょっと抜けているサンドイッチ屋の主人と、メガネをかけた理屈っぽくて口の達者なその息子。登場人物の誰もが愛おしく感じられる。そんな彼らが暮らすのは、現代とは思えないゆるやかな時間が流れる町。もうなんだか、ずっと読んでいたい気分になる。

そして、読んでいるとサンドイッチが食べたくなる。あったかいスープが飲みたくなる。僕は食べるという事にあまり興味がなく、昔から千豆(食べると満腹になって、しばらく食事をしなくてもいいという空想上の豆)があれば食べたい派で、ドラゴンボールで千豆の話を読んでからは千豆のことばかり考えていたのだが、本書を読み終えた僕は空想上の豆とは決別しようと心に誓った。