『夜市』恒川光太郎/角川書店 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

恒川 光太郎
夜市

第12回日本ホラー小説大賞受賞作。2年ごとに大賞がでるジンクスが継続中なので、今年は大賞がでる年だったが、僕はすっかり忘れていた。「夜市」と「風の古道」の二編が収録。文章は読みやすく、独特の世界観と斬新な構成は見事。


今宵は夜市が開かれる。
夕闇の迫る空にそう告げたのは、学校蝙蝠だった。

(「夜市」より)


大学生のいずみは、高校の同級生である裕司に「夜市にいかないか」と誘われて、岬の森の奥深くへと歩いていく。そこでは異世界の住人たちが様々なものを売っている。石や買いを売る永久放浪者。刀を売る一つ目ゴリラ。様々な首を売る葉巻カウボーイ。


短篇小説としてこのまま物語が展開しても十分に面白いと思うが、「夜市」が大賞を受賞したのはこの後の展開が凄いからだ。高橋克彦曰く、「たとえ百人の物書きが居たとしても、後半のこんな展開は絶対に思い付かないだろう。」


以下、ねたばれします。


後半では、ある登場人物の半生が描かれる。登場人物のそれぞれの人生を描き、それがひとつの物語に集約するというのはよくある手法だが、この物語は見事に集約しない。イメージとしては、登場人物がそれぞれの道を歩き、ここで交差して、またそれぞれの道を歩くといった風だ。「風の古道」も同じ構造をしている。


「風の古道」は現実世界と重なって日本中に張り巡らされている「古道」に迷い込んだ少年の物語だ。こちらも後半は古道を旅する青年の半生が描かれる。物語のなかで「夜市」のこともでてくるので、同じ世界らしい。この少年と青年が一緒に行動している間の物語よりも、半生として足早に描かれる数々のエピソードのほうが強烈なインパクトがあるから、この出会いもひとつの通過点にすぎないと思うのかも知れない。


これは成長の物語ではない。
何も終わりもはしないし、変化も、克服もしない。
道は交差し、分岐し続ける。一つを選べば他の風景を見ることは叶わない。
私は永遠の迷子のごとく独り歩いている。
私だけはない。誰もが際限のない迷路のただなかにいる。
(「風の古道」より)


この短篇小説は終わっても、物語は閉じられることなく、彼らの人生は続く。不思議な世界を垣間見たような読後感。この「夜市」と「風の古道」がある世界の物語を書き続けて欲しい。


余談


遅番で仕事に行くと、僕の担当の文庫本とパソコン書がいつものようにブックトラックに載せられていた。そのなかに文芸書が混じっていたので、文芸書担当者の本が詰まれた山の上に載せる。そしてしばらく仕事をしていたのだが、誰も触っていないのに、さきほど本を積んだ山が崩れてしまった。首をひねりながら積み直していた本たちの中から現れたのが本書だ。学校蝙蝠のしわざだと思う。