お山の妄想のお話です。
翔
雅紀にノンとの事を話し、友人としてサミーの過
去の恋愛を知るのはおかしいかと訊いた。
『そのコはその人が傷付くから話題には触れるな
って言ったんでしょ?だったらそっとしておきな
よ〜』
「でも友人として力になれるかもしれないだろ」
『どんな風に?』
「慰めるとか……」
『態々辛い過去を思い出させるだけじゃん。今更
意味ないでしょ』
「だけど…」
『そーゆーのはそっとしておくのが一番。それ
に翔ちゃんはその人と仲良くなってそんなに経っ
てないんでしょ?お節介したら嫌われちゃうかも
しれないよ』
「でも、知りたいんだよ。あの人のこと…」
『えっ?!ちょっと待って?お友達の話しをして
るんだよね?』
「そうだけど」
『本当に?翔ちゃんの話し方ってまるで……』
「は?!なんだよ、変な事言ったか?」
『ううん……そっか、とっても良いお友達なんだ
ね。オレも友達になりたいなぁ、ねぇ翔ちゃん
その人のこともっと話してよ』
「サミーのことをお前に?」
『サミーちゃんって言うの?外国の人なんだぁ』
「違うぞ、バリバリの日本人」
『えっ?!じゃ渾名?』
「そうだよ」
雅紀は何故かサミーの事を訊いてくる、別に隠す
こともないので屋台で働いていると話した。
『ね、今度紹介してよ。オレも翔ちゃんをよろし
くお願いしますって言いたいし』
「お前が言う必要ないだろ。まぁ、おでんは美味
いから食わせてやるけど」
『うわ〜っ、楽しみ!なるべく早く行きたいな』
「金曜でお前の都合の良い日だな」
『わかった。仕事とか調整するね。楽しみだなぁ
サミーちゃんに会うの。翔ちゃんが好きになるん
だから美人で性格が良い人なんでしょ?』
「好きって…友達としてな」
『そっかそっか、友達ね。でもさぁ普通友達の過
去の恋愛を知りたいとか思わないんじゃない?
あえてそれを知りたいってことは…ねっ♡』
「いやいや、ちょっと待て。早とちりするなよ、
サミーはお…」
『翔ちゃんは恋愛音痴だもんね、わかってないん
だ〜』
「だからっ!恋愛以前の問題だ!だってサミーは
おとこ…」
『あ〜っ!!翔ちゃんゴメンっ!スマホのバッテ
リー切れそう!じゃっ、行けそうな日わかったら
しらせるねっ』
そう言って雅紀は通話を切った。
電話を掛けた内容の答えは『友人ならそっとして
おいてあげるべき』と言うものだった。
友人だからこそと反論したら『翔ちゃんは新しく
できた友達が昔の恋愛を知りたがったら何でも話
せるの?オレだったら辛い別れ方した話なんてし
たくない。友達でも触れられたく無いことだって あるでしょ』と言われた。
確かにそうだと思う。
俺は辛い別れなんてなかったけど、世の中には酷 く傷付いた人だっているんだ。
知りたい、ましてや慰めたいとかおこがましいこ
とだろう。
……でもサミーのことは知りたい。
どうしてだろう?
雅紀
久し振りに翔ちゃんから電話があった。
全然連絡がなくてちょっと心配してたから安心し
たし、話の内容を聞いたら好きな人が出来たみた
いで嬉しくなっちゃった。
翔ちゃんはただの友達だって言ってるけど、友達
の過去の恋愛を気にするなんてないでしょ。
友達の昔の恋人と付き合うとかだったら気不味い
だろうけど、そんな事でもないみたいだし。
それに『辛い過去を慰めたい』なんて知り合って
間も無い人には思わないよ。
本当は「それってもう恋してるんだよ」って言い
たかったけど、こういうのは自分で気付かなきゃ
駄目だと黙ってた。
翔ちゃんは恋愛に疎い。
今までだって向こうから告白されて付き合うのが
パターンで、別れもアッサリサッパリだった。
本人からしたら『べつに嫌いじゃない』『べつに
付き合ってもいい』くらいにしか思ってないから
辛くも悲しくも無かったんだろうね。
きっと『好き』って感情がわからないんだと思う
モテる人の弊害なのかもしれない。
でも電話での話は今までと違った、凄く相手に興
味を持ってるもの。過去の恋愛まで知りたいなん
て相当だよ。
翔ちゃんの恋、上手くいって欲しいな。
そのためならオレ、何だってしちゃう!
とりあえず『意中のサミーちゃん』に翔ちゃんを
うんとヨイショしとかなきゃ。
でもサミーって本当に渾名かな?
源氏名で屋台とキャバ嬢兼務とかだったら、ちょ
っと考えちゃうかも。
だって翔ちゃんには相応しくないもの……
翔
金曜日になった。
本来ならサミーの手伝いをしながらゆっくり飲ん
でいたはずなのに、突然ノンが休んでテーブル席
の接客が俺に回された。
ノン目当てだったり美味いおでん目当てとか沢山
来たけど何故か長居する客はいなかった。
客が引けると専用席に戻れてサミーから『はい、
ご褒美』と酒やおでんがもらえる。
それを受け取ると馴染み客から『あっちと態度が
全然違うな』とか『デレデレすんな』とか言われ
た。テーブル席の対応に関してはやりたくない事
だから愛想がなくて当然、でもサミーの近くに戻
れてデレデレはしてない。
………ニコニコはしてるかもだけど。
***
常連客達で盛り上がっている時はサミーもイスに
座りゆっくり出来る。
ふ~っと息を吐き首をコキコキしているのを見る
と可愛いと思ってしまうが同時にお疲れかなと心
配にもなる。
「疲れが溜まってる?」
「あら、心配してくれるの?大丈夫よぉ体力には
自身あんの」
「そっか、なら良いけど」
「アタシよりあんたの方が疲れてるんじゃない?
テーブル席任せちゃったし」
「俺も体力には自身あるから平気」
「でもショーンは昼間働いた後でしょ。こき使っ
てごめんね。何かお礼しようか?」
「酒とか貰ってるからいいよ。でも、なんなら質
問に答えてくれる?」
「な〜に?スリーサイズはナイショよ」
「はは、違うよ。サミーはどんな人が好き?
過去の恋愛話とか聞きたいな」
雅紀からはそっとしておけと言われたが、ずっと
胸につかえていた。だから訊いてしまったんだ。
でもサミーの顔を見てすぐ後悔した。
酷く悲しそうだったから。
「…アタシの話なんてつまんないものばかりだ
から黙っとくわ。でも好きなタイプは教えてあげ
る。外見じゃなく内面に惚れてくれる人……まあ
こんな顔を好きになる人はいないだろうけどね」
サミーは何かを振り払うように頭を振ると、茶化
すように言った。
「顔とか関係無いよ。好きになるってそういうの
じゃないだろ?」
「イケメンが言っても説得力ないわね」
「俺は顔で言い寄られるから、かえってわかるん
だよ。別れる理由も『何か思ってたのと違う』と
かだしね。勘違いも甚だしいよ」
「………ショーンもそんな経験あるんだ」
「何回もある。本当に腹立たしい」
「悲しくないの?」
「悲しくはいな、そこまで相手を好きじゃなかっ
たんだと思う」
「そう……」
「そう言うことが多いから外見より内面重視なの
わかる。俺は優しくて面倒見の良いサミーが好
きだよ、よく見ると顔も可愛いしね」
「えっ?!」
これじゃ愛の告白みたいだって言ってしまってか
ら気が付いた。
サミーは驚いて目を見開いている、それを見て早
く誤解を解かなければと焦った。
「と、友達として好きってことだから!」
「ああ、そうだよね。突然変なこと言うからおい
ら驚いちゃったよ」
「ははは、ごめん。驚かせて」
妙な雰囲気を二人で笑って流し、取り繕うように
俺は酒を飲みサミーはおでんをかき回した。
サミーを横目で見ながらなんであんな事言ってし
まったのか考えた…
無意識にポロっと言葉が出た、それは偽りのない
気持ちのはず。
でも咄嗟に言った『友達として』はしっくりしな
い感じもした。
自分でもよくわからない感情…
そんなのをぶつけられたサミーはさぞ仰天したた ろう。
そう言えば口調が普段と違ってて、一人称がアタ
シじゃなくておいらになってたな。
何時もとは違う一面を見れたみたい。
結局質問は答えてくれなかったけど、驚いた時の
大きな瞳やポカンと口を開いた無防備な姿が見れ
たからよしとするか。
智
季節が進んで段々夜が冷えてきた。
本来寒い所は得意じゃないんだけど、屋台にいれ
ばショーンに会えるから苦にならない。
イケメンで頭が良くて気遣いの出来る完璧な人な
のにおいらの前では拗ねたりむくれたり子供みた
いなところを見せてくる。
そのギャップが面白くて可愛いいんだ。
でも屋台でのおいらは『サミー』だから、そんな
素振りは見せられない。毒舌で突慳貪でなきゃい
けないんだ。
***
ノンちゃんがいないからショーンにテーブル席を
任せた。
最初は『えぇ〜っ、ヤダよ』とごねたけど、
『手伝わないならそこに座らせないわよ』って脅
したら渋々頷いた。
でも愛想が無くて仏頂面でいるからお客は居づら いみたい、ノンちゃん担当時よりテーブル席の回
転率が早い。
それを常連さん達が見て『ショーンの奴見たこと
ねぇほど無愛想だな。ニコッとしてやれば女の子
も喜んでもっと注文してくれるだろうによ』なん
て言う。
そりゃ、こっちは商売だから売り上げは多い方が
良いけど、おいらはショーンが女の子達に笑い掛
けるのなんて見たくないから仏頂面でいいと思っ
てた。
笑顔はおいらだけに見せればいい。
そんな独占欲みたいなものに気付き慌てて振り払 う、だって友達に対してこんな感情変だもん。
ショーンに知られたら絶対気持ち悪く思うだろう
しさ。
ふふ、こんな見た目なら誰だって嫌がるかぁ。
それでいい、それがいいんだよ。
これは屋台での自己防衛だもの。
なのにショーンに可愛いとか好きって言われてド
キッとしちゃった。
本気じゃないって重々承知だけどちょっと嬉しか
ったな……
***
おいらには辛い恋愛経験がある、それは何年か前
のことだ。
その頃劇団は公演をしていた。
おいらはダブル主人公の片方、身内を殺され復讐
に燃える弁護士役だった。
自分とは真逆な性格、しかも初めての大きな役だ
ったからとても気合を入れた。
そのせいか憑依型と言われるおいらはオフでも役
に引きづられてたんだ。
そんな時観客の女の子から告白された。
そのこは何回も公演を観に来てくれて出待ちや手
紙もくれたので面識はあった。
とても可愛い人でおいらなんかじゃ釣り合わない
から断ったけど、懲りずにその後も突撃され結局
付き合うことになったんだ。
初めは相手の熱量を受け止めていただけだったけ
ど、段々おいらも彼女が好きになっていった。
そしてかけがえのない人だと思うようになり、公
演が終わったタイミングで同棲を申し出た。
彼女も承諾してくれて二人での生活が始まった。
おいらはこれまでと変わり無く上手くいってると
思ってた、でも彼女は違ったみたい…
ある朝目覚めると彼女の姿も荷物も無かった。
驚いて電話を掛けると『別れよう』と一言。
意味がわからなくて理由を訊くと『一緒に住むよ
うになってわかったの、私が好きなのはあなたじ
ゃないって。私はあなたが演じた『領』が好きだ
ったの、『領』じゃなくなったあなたには何の魅
力も感じないのよ』と言われた。
公演が終わりおいらも役の呪縛が解け始めていた
んだ……
愛する人からの言葉はただただショックだった。 好きだったのはおいらじゃなく役だと言われて打
ちのめされた。
それから恋愛が怖くなった。
皆、おいらじゃなくおいらが演じる『役』が好き
なんだと勘ぐるようになって苦しかった。
誰かに好意を向けられる度にズキズキと胸が傷ん
で辛かったんだ。
だから劇団でのファンとの交流は避けて、アルバ
イトの屋台では敬遠されそうなキャラにした。
ガサツなオカマのサミー、なら誰も好きになった
りしないだろ?
サミーはおいらを守る鎧なんだ。
続く
もうちょい付き合ってたも