駐車場から神社の敷地に入る頃には、傘があまり必要ないかなと思うくらいに雨は落ち着いていました。
うっすら霧がかるくらいの雨です。
ただ、先ほどまでは降っていたせいか、境内にはほぼ誰もいませんでした。
みんなお祈りを済ませて、御守りのところにいるか、拝殿の中に入る方々か、とにかく入り口から御本殿までのまっすぐの空間にだれもいないのです。
こんなに大きな神社でこんな光景はあまり見られないので、雨が降ってくれていたお陰だなあと、降って下さったことへの感謝とももに桜さんと拝殿の正面まで進みました。
拝殿前に着くと、ちょうど中では、先ほど入って行くのをみかけたグループの方々のご祈祷を始めるところでした。
傘をたたんだりお賽銭を出したりして、いざ私たちも手を合わせようとすると、タイミングを計ったように中から太鼓が鳴ります。と、同時にまた遠雷が響き始めました。
まるで宮司さんの太鼓と示し合わせたような鳴り方に、白龍の手助けを感じながら、私も桜さんの石を御守りにしていただくようお祈りを始めたのです。
まず、桜さんの翡翠について経緯を心で話しました。
そして、どうかこの翡翠を御守りにしてください…と、寒川さまにお祈りしました。
と、その瞬間のことです。
いつのまにか、私の前に、人が立っていました。
目を閉じているのに、その姿がはっきりと見えたのです。
その方は恰幅のいい、70-80歳くらいのお爺さんで、宮司さんの装束を着ていました。
白髪頭に烏帽子?というのか、あの帽子をかぶっています。
着物には金で刺繍がされていました。
袴は、紫とえんじをあわせたような深い色です。
手には、祓麻を持っていました。
でも、なぜかお顔だけは横顔に見えます。以前も書いたのですか、高次の方ほど正面からのお顔はあまり見えないのです。
その方を見たとき、「ああ、かつてここで宮司さんをしていた方がいまもこの神社で働いてらっしゃるのかもしれない」と感じました。
その古の宮司さんは、横顔だけでもわかるほど笑顔でいらっしゃいます。
そして、にこにこしながら一歩近づき、私たちにむかって祓麻を振って下さったのです。
ザ、ザ、とその祓いの風を感じたその瞬間。
ああ、聞き届けられたと思いました。
きちんとこの翡翠が、御守りになった、と。
ありがたい思いでいっぱいになり、もう一度その方を見ますと、やはり満面の笑顔でいらっしゃいました。
「これでどうだい?」と告げているようでした。
本当に嬉しくて、ありがとうございますともう一度御礼を伝えたあと、「御守りにするにあたってもしアドバイスやなにかありましたら、この後桜さんにおみくじを引かせますので、教えて頂けませんか」と言って、社務所へと向かったのです。