剣道の上達と共に、私と母親との関係が、少しずつ変わっていった。


ある日かかってきた、母の愚痴の電話、母方の親戚の手伝いが忙しくて、父に手伝いを頼んだら、急に怒り出して、険悪になっている、何で手伝いぐらい機嫌よくしてくれないの云々、いつもの、何十年繰り返している内容だった。


私は、この電話がすごく嫌で、嫌なのに電話が切れなくて、いつも、相づちをうちながら、30分以上付き合わされてしまっていた。


でも、ある日、突然、位相がずれた。母の正面でタコ殴りにされるイメージから、すっと斜め上に移動した。思わず、大きな声で母に言った。


そんなのやきもちじゃん!親戚じゃなくて俺を大事にしろって言ってるんでしょ!親父はベタ惚れなんだよ。まだわからないの!?


母は、不意を突かれたらしく、そんなの信じられない、と言いながら、いつもよりも早く電話を切った。


それから、愚痴電話は急に減った。


喧嘩はしているらしいが、電話はかかって来なくなった。


両親はまだ元気だが、いつ体調を崩すかは神のみぞ知る、だ。


一緒に暮らす勇気は、無い。


しかし、マウンティングにはマウンティングかもしれない。その方が、両親には分かりやすいのかもしれない。


今はもう分かっている。


親を許さなければ、これ以上の剣道の、いや、人生の進展は無いのだ。


しかし、親を許すと書いただけで、胸が苦しくなる。嫌なのだ。


子供の頃に背負わされた荷物は、こんなにも重い。