血で染まる入り江、
   過去の映像で「残酷」断定か


読売新聞  5月25日(月)10時5分配信


イルカ漁 なぜ「残酷」なのか
和歌山県太地町の「町立くじらの博物館」で飼育されている
バンドウイルカ。追い込み漁で捕獲された(22日撮影)
(読売新聞社)




 イルカの追い込み漁を「残酷だ」とする世界動物園水族館協会(WAZA)の警告に従い、加盟水族館に漁で捕獲されたイルカの入手を禁じることを決めた日本動物園水族館協会(JAZA)。

 だが、漁がなぜ残酷なのかという疑問や不満が、漁の地元やJAZA内部にくすぶっている。JAZAからの離脱を検討する水族館も出てきた。

 紀伊半島南東部の和歌山県太地町。切り立った岩場に囲まれた、「影浦」と呼ばれる入り江が漁の現場だ。

 「残酷との批判はあたらない」。
JAZAの決定から2日後の今月22日、町を訪れると、「町立くじらの博物館」の桐畑哲雄副館長(55)が強い口調で訴えた。同館によると、この地でイルカやクジラの漁が始まったのは400年以上前。
追い込み漁は、昭和初期には導入されていた。音に敏感な習性を利用し、漁師が複数の漁船から金づちで「カンカン」と金属音を出しながら入り江に追い込み、網で捕獲する。

 この漁を、WAZAは「残酷」と指摘。
国内の多くの水族館がイルカの入手を漁に頼っていることから、JAZAに「改善しなければ除名する」と通告してきたが、桐畑副館長は「水族館で飼育するイルカを傷つけずに捕獲できる」と反論する。水産庁によると、2013年には1239頭を捕獲、172頭が国内外の水族館などに販売された。

 町役場には、「イルカがかわいそう」など、連日20件以上の抗議電話がある一方、「漁は文化なので続けるべきだ」など激励の電話もほぼ同数あるという。

 イルカは、町ではなじみ深い食材だ。
食料品店には冷凍のイルカ肉が積まれていた。買い物に来ていた主婦(71)は「クジラやイルカを食べて育った。漁がなくなったら困る」と話した。

欧米諸国では、家畜化した牛、豚、羊、ニワトリを大量に飼育し、育ったのち殺し、食糧としている。牛や羊に関しては大人へ成長する前の仔牛・子羊を食料としている。海では漁業により多くの魚が捕獲され食卓へ上る。
フランス料理ではガチョウやアヒルへ過剰な食べ物を与え、強制的に太らせたのちに、肥大した肝臓(フォアグラ)を取り出して珍味として食べている。世界三大珍味の一つ、キャビアも同様である。
アジアでは、サルや犬を食べる文化があり、北極圏では、アザラシを狩猟し食料としている文化もある。
なぜ、クジラ、イルカなどが責められなければならないのだろうか!?(にゃー


 「JAZAの決定は残念。ただ、WAZAを脱退すべきと意思表示した加盟施設も多数あったと聞き、うれしかった」。ベテラン漁師の男性はそう語り、「漁はやめない」と言い切った。


 ◆映画が影響か

 追い込み漁を「残酷」だとして、04年秋にWAZA総会で初めて日本側への非難決議が採択されて以降、JAZAはWAZAに対し、どこが残酷なのかと問い続けてきたが、現在まで明確な回答はない。

 なぜ、WAZAは「残酷」と断じたのか。
JAZAによると、WAZAの討議資料では、イルカがもりで突き刺され、入り江が血で染まった様子が再三紹介されてきた。09年には、この場面を強調し、漁を批判的に描いた米映画「ザ・コーヴ」も公開された。

実際には、数年前から大量出血を伴わない漁具が導入され、今ではこうした場面が見られることはない。JAZAでは、過去の映像が誤ったイメージを定着させたとみる。



  最終更新:5月25日(月)12時18分


   読売新聞



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