「ノーベル賞級の成果」の
    発表はギャンブル?
  「宇宙誕生の重力波発見」
            の真相



ナショナル ジオグラフィック日本版  4月1日(火)17時0分配信

「宇宙誕生の重力波発見」の真相
正確な測定には2つ以上の波長の「差分」が求められる。
             (NASA / WMAP Science Team)



 3月17日、「宇宙誕生の重力波を初観測」
        「宇宙膨張の決定的証拠を発見」
        「ノーベル賞級の成果」
といったニュースが世界中を駆け巡った。もし宇宙誕生の重力波が発見されたのであれば、確かにノーベル賞級の成果だろう。


 とはいえ、たとえ一流の研究機関の発表であっても、あるいは有名な科学雑誌の記事であっても、掲載された論文の内容が正しいと確定したものでないことを私たちはいま目の当たりにしている。詳しい解説がほとんど報道されなかったため、この発表についても「本当はどうなの?」と首をひねった人がいたに違いない。そのあたり、実のところはどうなのか。

「これが正しいかそうでないか、現時点では科学的に判断できない」と指摘するのは、マックス・プランク宇宙物理学研究所の小松英一郎所長だ。
小松さんは、2007年、2009年、2011年度の3度にわたり、すべての科学論文のなかでもっとも多く引用された論文の主要著者であり(トムソン・ロイター調べ)、この分野の第一人者のひとりである。

 小松氏によれば、研究チームは確かに目的とする「未知の起源によるBモード偏光」を発見している。だが、空間分布が宇宙誕生の重力波から予測される通りであることは示したものの、まだ1つの波長でしか観測しておらず、したがって、その起源を断定するには時期尚早。この分野における確からしさの基準からしても「とても発見とは言えないレベル」とのこと。チームはクリアすべき2つの課題のうちの1つしか満たしておらず、「大々的なプレスリリースはギャンブル」だという。

 もちろん、ギャンブルといっても、Bモード偏光が観測できただけでも実に素晴らしいことだ。同じ研究をする小松氏は「あまりの衝撃から私の体重は減り始め、体温は上がり始め、ついには体調を崩すに至った」そうだ。

 発見された偏光が本当に宇宙誕生の重力波に由来するかどうかは、今後行われるもうひとつの波長での観測にかかっている。判明するのは早くて1年以内。遅くとも2年以内には決着がつくと小松氏はみている。研究チームが観測した偏光がもし宇宙誕生の重力波だとしたら、宇宙の始まりと万物の根源の解明に大きく近づく成果であることは間違いない。今後の研究に期待しよう。


  (Web編集部)



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  最終更新:4月1日(火)17時23分


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