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2013年2月22日 9:52更新



 “超”優秀な人材が、
 NPOに押し寄せる理由
  企業とNPOが
  人材を奪い合う時代


クロスフィールズの仕事風景。まだシェアオフィスを使っていた昨年夏の写真だ(撮影:ヤマグチ イッキ)
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クロスフィールズの仕事風景。
まだシェアオフィスを使っていた昨年夏の写真だ(撮影:ヤマグチ イッキ)


日本の新しいロールモデルとなる「新世代リーダー」。その一人が、「新世代リーダー 50人 」  でも取り上げた、小沼大地さんです。

小沼さんは、マッキンゼーを経て、NPO法人クロスフィールズを創設。アジア新興国のNPOへ日本の大企業の社員を送り込む、「留職」プログラムを手掛けています。この連載コラムでは、新世代リーダーの小沼さんに、「留職」とニッポンについて熱く語ってもらいます。

いま日本のNPO業界に、ひとつの潮流が起こっている。民間企業でも引く手あまたになりそうな、“超”がつくほど優秀な人材が集まるようになってきたのだ。
ITベンチャーやコンサルティングファーム、外資系投資銀行、総合商社などといった、いわゆるビジネスセクターのど真ん中で活躍していたような人が、自らNPOを起業したり、NPOへと転職したりと、働く場としてNPOを選ぶということが急増している。

たとえばNPO業界を引っ張る「フローレンス 」の駒崎弘樹さんは元IT企業経営者だし、世界を相手に大規模な活動を展開する「Table For Two International 」の小暮真久さんは、僕の前職マッキンゼーの先輩だ。ほかにも、ビジネスセクターからNPO業界に飛び込んだ人は、僕が知るかぎりでも数えきれない。

ベストセラー作家であり人事の専門家でもある酒井穣さんは、著書『ご機嫌な職場』の中で「職場コミュニティーの最大の『競合』はNPO法人である」とまで書いている。企業は今や、優秀な人材の確保をNPOと競い合う時代に入ってきているということだろう。

「NPOはボランティア活動」という大いなる誤解

ただ、その一方で世間一般の「NPOで働くこと」に対する理解はそこまで進んでいないように思う。今でも、名刺を出して「NPO法人クロスフィールズの小沼です」と自己紹介すると、「ボランティア活動をされているのですね。すばらしい。で、本業は何を?」と言われて絶句することもあるくらいだ。

これは、NPOの活動をいまだに「自己奉仕のボランティア活動」と完全にイコールだと考える誤解からきている。
NPOは”Non-Profit Organization”の略称で、確かにこのまま読むと「利益を出してはいけない組織体」のような印象を受ける。


だが、NPOをより正確に理解するには、”Not-For-Profit Organization”、つまり「利益追求のために存在しているわけではない組織体」であり、「社会的使命のために存在する組織体」ととらえるべきだ。
NPO法人には、生じた利益を会員や寄付者に対して還元できないというルールがあるが、これは決して「利益を出すな」ということではない。

NPO法人も社会的使命を果たすには資金が必要だ。
当然ながら収入から経費を引いた額はプラスにすべきだし、利益を出して将来の事業へと投資すべきだ。持続的な活動のために利益を出す必要がある点において、NPO法人も株式会社も何ら変わらないのだ。



熱い仲間を集めるためのNPOという選択
クロスフィールズの事業モデルは、受益者である日本企業にサービスを提供することで対価を得るという、極めてシンプルなものだ。そのため、僕たちは創業時、NPO法人にするか株式会社にするかでとても悩んだ。ではなぜ、NPOを選んだのか。

ひとつは、事業の特性による理由だ。
クロスフィールズの運営する「留職」プログラムは、パートナーである途上国のNPOに対する貢献がベースになった活動だ。だからこそ、NPO法人として現地のパートナーと同じ立場に立ち、時にはおカネの出し手である日本企業に対しても迎合しない姿勢をとる、という意思表示をしたかったのだ。

しかし、それよりも大事な理由がある。
NPOという組織形態にすることで、より熱い仲間を集めたかったということだ。NPOを名乗ることは、名実ともに、「おカネのためではなく社会的使命のために活動している」という明確なスタンスを表明する意味を持つ。このことが、志に共鳴してくれる仲間と出会う確率を圧倒的に高めてくれると僕たちは感じている。

実際、おそれ多いほどの顔ぶれの方々が理事やアドバイザーに就いてくださっているのも、メディアからの関心が比較的高いのも、NPO法人としての志をベースにした活動をしていると明確に表明しているからこそだと思う。

そして何より、クロスフィールズの活動を共にしている職員たちも、やはり「ミッションのための活動」という点に共鳴してくれたからこそ、熱くて前向きな最高の仲間たちが集まってくれている。


ここからは、今、NPOにはどんな人材が集まっているかを説明するためにも、クロスフィールズで一緒に働く仲間たちを少し紹介させてもらいたい。

「NPOで働くことを誇れる世の中を創ろう」と誓い合った松島

クロスフィールズを共に創業し、今日まで二人三脚で走ってきたのが、共同創業者の松島由佳(27)だ。
松島は今、経営陣として団体運営を考えながらも、世界中を飛び回って「留職」事業を統括する壮大な役割を一手に担っている。日本の大企業と途上国のパートナー団体との間で連携をとりながらプログラムを創り上げていくという、高いビジネススキルと人間力とが要求される仕事に挑んでいる。


松島自身はあまり語りたがらないが、彼女は有名な女子高から東大を経てボストン・コンサルティング・グループに入社するという、世間で言うところのいわゆる「エリート街道」を突っ走っていた人間だ。そんな彼女が、僕と一緒にNPOを起業するに至ったのは、いったいなぜなのか。

松島は、ある原体験を持っている。
松島がまだ幼い頃、彼女の父親はサラリーマンとして働きながら、医療課題に取り組むNPOを友人とともに立ち上げてカンボジアに病院を設立した。その後、松島自身も現地を訪れて活動に触れ、「父親がイキイキと働く姿をとてもかっこよく感じた」という。
しかし当時NPOで働くことは非常に珍しく、「変わっていると思われるのが怖くて、父親のやっていることを堂々と友人に言えなかった」という葛藤があった。

大学に入ると、彼女自身も途上国を支援するNPOの活動にかかわるようになる。
学生ながら責任ある仕事を任され、自ら企画したスタディツアーで再びカンボジアを訪れたときは感無量だったという。しかし、「それでもまだ、大学の友人にはなかなかNPOの活動をしていることを打ち明けられない自分がいた」と彼女は言う。

僕がそんな松島と出会ったのは、今から6年前の就職活動中のことだった。
同じ会社のグループ面接で、奇遇にも途上国でのNPO活動について話した2人は意気投合し、松島は僕が運営していた勉強会に中心メンバーとして参加してくれるようになった。

「NPOで働く人はとにかくすてき。何かを成し遂げたいという信念にあふれていて、利益のためだけじゃなく、使命に基づいて生きている。そういう魅力的な人たちと一緒に、NPOで働くことを誇れるような世の中を創りたい」

そんな想いを真っすぐ語る松島に触発され、社会人3年目が終わる頃、僕たちはともに起業することを決意した。そこには、IPOを達成して億万長者になるなんていうゴールはない。ただただ志を体現するために、僕たちは行動を起こしたのだ。



続々と参画する熱くて優秀な仲間たち
松島とたった2人で創業したクロスフィールズ。うれしいことに、その後も熱くて優秀な仲間たちが少しずつ集まってくれている。

今、クロスフィールズで働いているメンバーは、志を共有する最高に気持ちのいい仲間であると同時に、総合商社、証券会社、コンサルティング会社といった企業でバリバリ活躍していたビジネスパーソンたちだ。手前みそだが、「こんな人材がなぜここに?」と自分たちでも驚いてしまうような面々がそろっていると思う。

豊田祐規子(28)は、松島と同じく僕が運営する勉強会に参加してくれていた友人で、創業半年後に3人目のメンバーとして加わってくれた仲間だ。クロスフィールズには数少ないほんわかとした癒やし系のキャラで、オフィスのマスコット的な存在でもある。

そんな彼女は、慶応大学経済学部を卒業し、野村証券の投資銀行部門で約4年のキャリアを積んだ金融ウーマンだ。クロスフィールズに参画するや否や、まったく手つかずだった経理・財務・広報などの仕組みをすべてゼロから立ち上げ、それを完璧に仕組み化するという奇跡のようなことを成し遂げてしまった。

豊田はクロスフィールズに加わった理由を、「昔から描いていた“国際協力の世界で活躍する”という目標に向けたひとつのステップだから」と言う。
彼女は学生時代から発展途上国の問題に関心を持ち、どうしたら貢献できるのかと考えていた。その中で、マイクロファイナンスの分野に興味を持ったのがきっかけで、金融にかかわるビジネス経験を積みたいと証券会社への入社を決めた。その後、一度は企業の中で当時の志を見失いかけたりもしたが、松島や僕と知り合って初心に返り、クロスフィールズの活動への参画を決めてくれたという。

「私の挑戦はまだまだこれからで、証券会社とNPOでの経験と、これから学ぶ専門知識を活かして、それを途上国のためにどう活かせるかだと思います」

そう力強く語る彼女は、国際関係分野での修士号を取得するために今年の夏からイギリスへと留学する予定だ。


もう1人紹介したいのが、豊田とは正反対のクールキャラ、三ツ井稔恵(34)だ。
彼女は上智大学外国語学部出身で、英語・スペイン語を操るパワフルなキャリアウーマンだ。大学卒業後、ホテルニューオータニでホテルマンとして2年勤務した後、リクルートで営業として8年のキャリアを積んだ。現在は、これまで培った圧倒的なお客様視点を活かし、複数のプロジェクトをマネジャーとして回しつつ、各企業からの相談窓口のような役割を一手に引き受けている。
また、彼女自身は未経験だった法務の分野でも、弁護士のサポートを受けながら大企業との大変な交渉を担っていて、まさに大車輪の活躍だ。

そんな彼女の転機は、リクルートに入社して4~5年目、今後のキャリアを迷っていたときだった。当時懇意にさせていただいていたクライアントの取締役に、「どこで何をやるかじゃなくて、まず人生のミッションを決めるといい」と言われたそうだ。
三ツ井は悩んだ末に「人の自立と成長を支援すること」を自身のミッションと定めた。そんな折、その取締役の勧めで、バングラデシュのスタディツアーに参加することになる。


「バングラデシュに行って、社会に対して、自分の力で貢献することに興味が出たんです。一方で、ビジネスの仕組みや組織のあり方を学べる企業も大切だと。それで、社会性と事業性を両輪で回すようなことをしたいのだと、方向性が見えてきました」


僕が三ツ井と出会ったのは、彼女の人生を変えるキッカケとなった取締役宅のホームパーティの席だった。彼女にクロスフィールズの事業を説明すると、その場で「ぜひ働かせて!」と言われて面食らったのを覚えている。


「社会に出て10年目のタイミングで、10年かけて見つけた“本当にやりたいこと”に大きく舵を切ってみようと思ったんです。事業性と社会性、この2つをドンピシャで結び付けるものをクロスフィールズが持っていたんですよね」


そう語る三ツ井は現在、国内の夜間MBAに通いながらクロスフィールズの業務をこなしている。いったいどれだけの根性と体力があるんだとつねに思っているが、彼女のような超優秀なビジネスパーソンと一緒に働くことができて、僕は心から幸せだ。



日本のNPOの可能性を限界まで追求したい
今回紹介したメンバーのほかにも、クロスフィールズには熱くて優秀な仲間たちが少しずつ集まってきている(エネルギッシュな女性が多くて、僕はいつも押されぎみだが……笑)。

それぞれすごく個性的なメンバーでもあるが、全員に共通しているのは、何かしらの「想い」を団体のミッションと重ね合わせているということだ。ただ単におカネを稼ぎたいという目的ではなく、「想い」をベースにしているからこそ、これだけのメンバーが集まっているのだと思う。

でも、だからといって、NPOは「想い」がベースだから給与は犠牲にするというのはおかしな話だと、僕たちは同時に思っている。
「NPOは利益を出すな」というのが誤解であるように、「NPO職員はカネを稼ぐな」というのも間違った発想だ。

社会課題が山積する日本社会において、政府がすべての社会サービスを担い続けることは不可能だが、かといって企業が参入できる領域も限られている。そんな中、社会がNPOに期待する役割はますます大きくなっている。

にもかかわらず、日本のNPOをめぐる状況はまだまだ厳しい。
ある調査によれば、日本のNPO職員の平均年収は200万円を下回っているという。これでは家族を養っていくこともできず、男性が結婚して子供が生まれると退職する「男の寿退社」があるというのが、NPO業界の悲しすぎる現実だ。

先ほど僕たちがNPO法人で起業した理由を2つ説明したが、実はもうひとつある。自分たち自身がNPO法人として先陣を切って走っていくことで、NPOで働くとことがカッコいいと思われるような世の中を創っていきたいと考えているのだ。

「想い」を体現しながらイキイキと働くことができ、ビジネススキルも磨けて、そしておカネだってちゃんと稼げる。そんな「カッコいいNPO」に自分たちが成長していくことで、世の中の常識を変えていきたい。

ちなみに、そんなクロスフィールズでは今、活動に加わってくれる仲間を募集中 です(笑)。
まだまだ高い壁を数多く乗り越えなければならない段階ですが、よかったら僕たちと一緒にカッコいいNPOを創っていきませんか?





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