JAL
 2011年度営業利益2000億円強!
 破綻からV字回復を
        実現させた戦略とは?




JAL - 1

2010年に経営破綻したJALの業績が急速に回復している。
2011年度の営業利益は過去最高額の2049億円。 投入された公的資金・3500億円を上回る6000億円強を2012年9月に国庫に納入し、民間会社として再スタートを切ったJALの成長戦略と人材育成術を探った。


   コスト意識から
   生まれた大胆な投資

▲ボーイング787は通称 「ゲームチェンジャー」 と呼ばれており、中型機でありながら長距離飛行が可能なので、従来のジャンボ機では赤字の路線でも黒字に転換できるという。
ビジネスクラスのシートはフルフラットにできたり、大きなモニターが利用できたりと 「1クラス上の最高品質」 の快適さを追求している。


JAL再建のかじ取りを行ったのは、京セラの創業者である稲盛和夫氏であることは知る人も多いだろう。 稲盛氏が行った改革の中でも、JALの企業体質を決定的に変えたものは、部門ごとに収支を細かくチェックする 「部門別採算制度」 の導入だ。
これにより、今までは月ごとの収支の把握に2カ月かかっていたものが、翌日にはおおよその収支を把握できるようになり、経営判断のスピードが飛躍的に向上した。

この改革は同時に社員の意識も大きく変えた。
2013年1月から、全クラスのシートが一新された国際線 「ボーイング777-300型機」 の導入が始まる。
そのきっかけは何か?

「他の航空会社と比べて座席が見劣りするというお客さまの声やその声を聞いた客室乗務員の意見でした」。

そう語ったのは、乗客向けのサービスを考える商品サービス部長の畠山隆久氏だ。
一新される座席には、そんな顧客目線を意識した 「1クラス上の最高品質」 をテーマに質の向上が実現されている。
ビジネスクラスは、ファーストクラスのようにシートをフルフラットにでき、プレミアムエコノミークラスでは、従来のビジネスクラス並みのシートが導入されるといった具合だ。 そのために、開発担当者は世界中のシートメーカーに足を運び、時には実際にシートで一夜を明かすなど、長時間のフライトでも快適に過ごせるシートの開発に奔走したそうだ。

破綻前から顧客や社員の声を聞きサービスを改善するシステムはあったが、それを実行に移す財力がなかった。 今回は現場の社員の意見を取り入れて大きな改善に取り組んだことにより 「管理部門に報告した意見が、スピーディーにきちんと実行に移される」 という認識が現場の社員にも広まり、部門ごとに課題を発見改善し、効率や採算を上げる意識が高まったという。



  業績回復を支える
  「ブレない三本柱」とは?

▲吉野家、モスバーガー、たいめいけんなどとコラボレーションを実施。
牛丼を食べた女性客からは、「これまで女性一人では牛丼店に入りにくく、食べたことがなかったけれど、これから行ってみたい」 という声も上がっているという。 サービスの向上と、協力企業のPRがうまくかみ合ったコラボレーションだ。


JALの新たな試みは座席のみにとどまらず、フライト中の楽しみの一つ、機内食にも見て取ることができる。
国際線では、フランスのミシュラン社が発行するミシュランガイドで三つ星を獲得した日本料理店 「龍吟」 や、明治元年から続く老舗 「京料理 わた亀」 のシェフとコラボレーションし、より上質な食事の提供を始めた。
大手牛丼チェーンの吉野家やモスバーガーともコラボし、身近な日本の味を空の上でも楽しめる試みも実施している。

機内食の充実を図った背景には
   「伝統・革新・日本のこころ」
の三つを軸にしたサービス方針を定めたことにある。 このブレない軸を持ったことが大きな強みになった。
「われわれは質を求めるお客さまに選んでいただける航空会社になろうと考えたのです」 と畠山氏が語るように 「フルサービスを提供するエアライン」 にこだわるJALは、質を高めることで格安航空会社など他社との差別化に成功しているのだ。

ただし、このことは形式だけの高級路線にシフトしたという意味ではない。 新たなサービスとして、データ化されたマンガを座席のモニターで読むことができる 「スカイマンガ」 なるものも始めた。
クールジャパンと呼ばれる 「日本の文化」 マンガと、デジタルという 「革新性」、フライト中も楽しい時間を提供したいという 「日本のこころ」。 JALが打ち出した三つの理念がそろったサービスを展開しているのだ。
経営破綻後、「部門別採算制度」 の導入や 「顧客目線」 を徹底して追求し、決してブレないサービス方針を策定したことが、急速なV字回復を遂げた一つの要因だといえるだろう。




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  全社員の意識を変えた
     「一冊の手帳」

▲写真上がJAL全社員に配られている
     「JALフィロソフィ手帳」。




社員が携帯するJALフィロソフィ手帳。
それぞれのフレーズに対して、短い説明文が添えられている。
出典:WORK SIGHT(「JALフィロソフィ」を全社員の腹に落とす教育とは)  



社員は事あるごとに手帳を開き、自分の判断や行動が指針から外れていないか確認しているという。
写真下は、「JALフィロソフィ教育」 の様子。 スーツ姿の社員と制服の社員が一緒にテーブルを囲んでいるのが大きな特徴だ。


JALは再生するに当たって、まず全社員の意識改革に取り組んだ。 「JALフィロソフィ」 と呼ばれる指針を作り、その指針が書かれた手帳を全社員に配布。 そこには 「一人ひとりがJAL」 「現場主義に徹する」 など、JALグループ社員全員が持つべき考え方が全9章40項目にわたって記載されている。

JALではその言葉の一つ一つを全社員に浸透させるための教育に力を注いでいる。
1回2時間、年間4回行われるこの教育は、年齢や職種、役職の別なく社員全員がフラットな立場で参加する。 整備士や客室乗務員、セールスマンなど、異なる職種の社員が同じテーブルに着き業務内容を共有しながら、他部署とうまく連携する方法はないかなどのディスカッションを重ねる。 航空会社では職種の幅が広いため、これまでは他の部署の仕事内容を詳しく知る機会が少なかったからだ。

「JALフィロソフィ」 には 「最高のバトンタッチ」 という言葉がある。 この教育をきっかけに他部署の仕事を知ることで 「一歩突っ込んだ気遣いができるようになった」 と意識改革・人づくり推進部の部長・野村直史氏は語る。


「人づくり」 に本気で取り組む
「うきうき」 「わくわく」 コース

▲意識改革・人づくり推進部部長の野村直史氏。
JALフィロソフィ教育は全て手作り。 さまざまな職種の社員が、プログラム・教材の作成から教育の進行まで、全てを担う。 社員が社員のために考えて行う教育だからこそ、最大限の効果が挙げられる。


社員にやる気を起こさせるユニークなネーミングの研修もある。
希望者を対象に入社3年目以内の社員には 「うきうきコース」、入社5~10年目には 「わくわくコース」 と階層別に分かれた研修だ。 主な目的は仕事のモチベーションを向上させること。

「うきうきコース」 ではグループワークを行い、飛行機の絵を描いた模造紙に自分がどこでどのような仕事に従事しているかを書き込む。 このグループワークを通じて若手社員は自分の役割を明確に意識するようになり、自分の存在意義ややりがいを再認識するようになったという。

「わくわくコース」 では、中堅社員が後輩と上司をつなぐ中継ぎ役として、どのような役割を果たすべきかなどについてディスカッションをする。 仕事にも慣れ、次のステージを目指す社員はさまざまな悩みを抱えているもの。 そんな社員に悩みを解決する糸口を与えながら、仕事へのモチベーションを上げるのが狙いだ。また、将来の幹部候補となる入社10年目以上の社員には「いきいきコース」(内容は未定) という研修も設置予定だという。


事業と人材教育の両面を徹底的に見直し生まれ変わったJAL。
ロゴマークに 「鶴丸」 を採用したのには、新生JALが創業以来のパイオニアスピリットを忘れずに原点に立ち戻り、初心から挑戦を始めるという思いが込められている。
フルサービスエアラインとして再び日本を代表する航空会社と呼ばれる日は決して遠くはないだろう。




<会社概要>
会社名      日本航空株式会社

設立       1951年8月1日

代表取締役社長  植木義晴

資本金      3558億4500万円

URL      http://www.jal.co.jp/

概要:戦後初の国内民間航空会社として1951年に設立された日本航空。
国賓を招く際に利用されるなど、日本を代表するフラッグキャリア企業として活躍するも、半国営・親方日の丸体質、倒産しないという驕り、過去の栄光、中央官僚の天下り・権益優先経営、労働組合が複数乱立し機動力を失うなど、民間企業としての基礎からかけ離れた企業体質が招いた経営状況の悪化により2010年1月に、会社更生法の適用を申請し経営破綻。

再建に当たり京セラの創業者である稲盛和夫氏を迎え、不採算路線の見直しや部門別採算制の導入などを進める。 2012年3月期には、過去最高となる2049億円の営業利益を出し、2012年9月に再び東証一部に上場。 投入された公的資金を完済した。