pocket music

大分、間が空いてしまいました。

再びヴォーカルのケンジが書かせて頂きます。


今回は僕が大好きで大好きでしょうがない

山下達郎さんが1986年にリリースしたアルバム、

「ポケットミュージック」を紹介させて頂きます。


ご本人がメディアで散々発言されていますが、

このアルバムではデジタルレコーディングを導入されたのですが、

それまでの方法論が通用しなくて散々苦労されたようです。


それに加えて、今でこそ音楽製作にPCを使うことに抵抗を持つ人は少ないですが、

当時はまだデジタルミュージックに否定的な人も多く、

一部のファンからは「達郎も時代に流されてしまった。」と、

否定的な意見も多かったようです。


このアルバムでは、かなりの数の楽器を達郎さん自身が演奏し、

シンセサイザーの音作りも一からやり、プログラミングも全て自分で担当されたそうですが、

そのせいか出来上がった音楽は、間違いなくそれまでのどの作品と比べても「閉鎖的」です。

少し前に、あの開放的な「For You」を発表した人と同じとは少々信じがたいものがあります。

そんなこともあり、数ある名アルバムに埋もれて軽視されている感が否めないこのアルバムですが、

僕にとっては達郎さんの中で一番「魅力的」なアルバムです。


なぜ「魅力的」という言葉を使ったかと言うと、

このアルバムを聴いていると「山下達郎」という、

僕と同じく実際に生きている一人の人間の、

日常生活においては隠されるのがルールである「人間性」を、

むきだし、とは言わないまでもかなり近くに感じられる、と言う点が

僕がこのアルバムを好きな主な理由であり、

より普遍的な意味では、必ずしも他のアルバムより「良い」と思っているわけではないからです。


さて、ポップミュージックを聞く喜びというものは、

人それぞれ色々あり一言では言い切れないところだとは思いますが、

僕にとっては全く面識のない他人と

非常に深いレベルでのコミュニケーションが取れること、これこそが最大の喜びです。

普通に生きている上で人間同士は関係を円滑にする為、

「建前」を持ってコミュニケーションをとっているわけですが、

質の高いポップミュージックを聴く時、そこには建前のない「生身」の人間を感じることが出来ます。

(「音楽」ではなく「ポップミュージック」と書くのには理由がありますが、

それについてはまた別の機会に詳しく書きます)


このアルバムで感じられる達郎さんの「生身」、

それはとても孤独な姿に思えます。

一曲目の「土曜日の恋人」、三曲目の「Mermaid」、

この二曲は明るい雰囲気を持っていますが、

他の楽曲は程度の差はありますがどの曲も暗めで内省的なものです。

ミュージシャンとして、芸術家として

七転八倒しながらも輝かしいキャリアを送ってきた彼が、

30代半ばにして抱えていた孤独がどういう類のものかは

僕如きには想像も及ばないものですが、

何故かこのアルバムで歌われる「孤独」は僕に自然と無理なく入り込んできます。


人はみんな結局は「ひとり」で生きている、

だけどみんな「それぞれ」一人で生きてる。

そういう意味で、「ひとり」でいるのは自分一人ではない、

自分以外にも「ひとり」を抱えて生きてる人間がいる。

こう字面で見ると非常に陳腐に見えてしまいますが、

僕はこの事実に気づかされる時、とても救われています。

そして、このアルバム「ポケットミュージック」も聴いている時、

他ならぬ憧れの山下達郎さんと生きるうえで一番大切なことについて、

本音で語り合えているような気分がして、なんとも救われる思いがするのです。


山下達郎、という人自体に既に興味があるならば

聞いてみるべき作品だと思いますが、

入門としては特に薦められないアルバムです(笑)

達郎さんについて思いいれが深すぎるが故に選んでしまった、

超個人的な名盤です。ただ、このアルバムが好きな人とは仲良くなれる気がします。