君は耳が聞こえない
君は声を失った
言葉にしたいのに声にならない
君は顔の表情で会話する

君が苦しいと感じる事は
同情されるという事

君を分かりたくて僕は
手話をする
探り探りの手付きで
君はちょっと意地悪な表情で『下手くそ』と舌を出して笑う


桜が散り始めた4月
慌てて目覚まし時計を止める。
『やべぇ』思わず叫んでしまった。
今日は入社日。新入社員にとってとても大切な日。
着慣れないスーツに腕を通す。福島に住む田舎の母が贈ってくれたネクタイを結んで、部屋を飛び出す。
都会の満員電車に揺られ、品川にある高層ビルを目指す。
改札を抜け走り出す。
『バタ』何かが落ちる音。後ろを振り返る。女の子が階段下にうずくまっている。まわりにいた人々が覗きこみながら『大丈夫?』と声を掛ける。どうやら、忙しなく押し寄せる人の波にのまれ押されて倒れこんでしまったようだ。
その女の子は怯えた目で無言のまま立ち上がった。
誰も手を差し伸べない。
僕は駆け寄り彼女に手を差し出す。『歩ける?』
彼女は無言のまま僕の手を取る。彼女を駅の医務室まで連れて行く。
彼女は僕に少し安堵の笑みで会釈をした。僕も会釈をする。
時計を覗きこんだ。『やべぇ、間に合わない!!』
慌てて走り出す。

その日1日何故か彼女の顔が頭から離れなかった。