電車に乗っていました。席が空いていたので座り、本を読んでいたんです。
途中で右隣に女性が座り、席はいっぱいになりました。
次に停まった時、左側から杖をついた老嬢が乗ってきました。右隣の女性が立ち上がり、席を譲りました。
この場合、率先して席を譲るべきだったでしょうか。近かったのはこちら側であるという理由で。
優先席は空いていました。
少しもやもやします。席を譲った女性は称賛されこそすれ、こんなところで疑問を呈される筋合いはないのはわかっているのですが。
その後降りるまで立ち続けた女性と空いたままの優先席が、どうにも落ち着かない気分にさせるのです。
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おひさしぶりです。十二月です。お元気でしたか。
・井上ひさし『吉里吉里人』
・ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』
の、独立スペシャルでお送りしたいと思います。
食料自給率や減反廃止政策、TPP問題が取り沙汰される昨今、そろそろ独立宣言する都市が現れてもおかしくありませんね。SFですよSF。
・井上ひさし『吉里吉里人』(新潮文庫 上・中・下巻)
――ある六月上旬の早朝、上野発青森行急行「十和田3号」を一ノ関近くの赤壁で緊急停車させた男たちがいた。「あんだ旅券ば持って居だが」。実にこの日午前六時、東北の一寒村吉里吉里国は突如日本からの分離独立を宣言したのだった。政治に、経済に、農業に医学に言語に……大国日本のかかえる問題を鮮やかに撃つおかしくも感動的な新国家。日本SF大賞、読売文学賞受賞作。 ――
古橋健二は全くどうしようもない人間です。こんなに憎めないのに感情移入するとダメージを食らう主人公は初めて見ました。
彼は「日本国」の三文文士で、たまたま列車に乗り合わせた為に「吉里吉里国」の独立騒ぎに巻き込まれます。不法入国で捕まった古橋健二と、一緒に取材に来ていた雑誌の編集者佐藤久夫は、少年警官イサム安部に連れられて、吉里吉里国の国賓第一号となります。(独立騒ぎを取材して儲けたいという思惑で、自ら吉里吉里に留まることを望んだ結果)
誰もが最初はすぐに終わるだろうと思っていた事件。しかし吉里吉里人は非常に用意周到に、いくつもの切り札を用意していました。
食料・エネルギー問題は自給自足でクリア、法律も抜け目なく、税金の掛からないタックス・ヘイヴンとして諸外国とも手を結び、世界に類を見ない高度な医療技術を誇り(コールドスリープや双頭の犬イッタカキタカ号、脳移植手術など)、さらに大量の金による経済的価値。
おまけに独自の言語・吉里吉里語(ズーズー弁)を駆使し、外国である日本へ向けて独立宣言をします。
リポーターの少女ミドリ橋本によって行われる吉里吉里ニュースや、国会議事堂(バス)にて行われる愚人会議。吉里吉里の産業であるストリップ、殺し屋による暗殺、外国(日本)の徐々に強まる不安、自衛隊による制圧作戦、その他事件が一日半の間にめまぐるしく行われ、そして、唐突に終結します。
結果的には一日半で終わった吉里吉里国。こんなにも完璧に作られたはずのシナリオを崩壊せしめたのはもちろん、主人公の古橋健二です。
彼はこの騒ぎの間、あっちこっちで事件を起こし、巻き込まれ、選択を誤り、どこにいっても呆れられ、しかし結婚し、さらに一度死に、次に美女になって復活し、最後は大統領になり、吉里吉里国だけではなく他の独立をもくろむ同盟国までも巻き込んで盛大に自爆です。
あ~あ、おもしろかった。途中で語られる古橋健二の過去なんかは同情せざるを得ないのに、最後はやってくれるからな。
笑うしかない。笑うしかない。
・ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』(ハヤカワ文庫)
――2076年7月4日、圧政に苦しむ月世界植民地は、地球政府に対し独立を宣言した!流刑地として、また資源豊かな植民地として、月は地球から一方的に搾取されつづけてきた。革命の先頭に立ったのはコンピュータ技術者マニーと、自意識を持つ巨大コンピュータのマイク。だが、一隻の宇宙船も、一発のミサイルも持たぬ月世界人が、強大な地球に立ち向かうためには…ヒューゴー賞受賞に輝くハインライン渾身の傑作SF巨篇。――
「ハロー、マン」
こちらの主人公も巻き込まれ型だが、彼は立派な戦士です。いや、でもやっぱり技師かな。
月世界は巨大計算機マイクによって管理されていた。幸福は義務ですとか言うような狂ったコンピュータ様ではなく、掃除夫に10,000,000,000,000,185・15行政府ドルの給料小切手を切るような冗談が好きな、子供っぽいコンピュータです。端末に命令を打ち込むのではなく、直接話し掛けてくれた技術者のマニーを友人とする孤独な計算機。
全てを管理しているマイクだが、ある日とある集会場の情報がシャットアウトされた。マイクは好奇心に駆られて、マニーにその会場で何が行われているのか確かめて来て欲しいと頼みます。
そこで行われていたのは月世界行政府に対する反対集会。地球への搾取に近い食糧・エネルギー・資源輸出問題。ワイオミングという女性革命家と、師であるベルナルド・デ・ラ・パス教授に会ったマニーだったが、鎮圧軍に追われてワイオと共に脱出します。
「ハロー、マン。わたしのただひとりの友達」
「これからはただひとりの友達じゃあなくなるかもしれないよ、マイク。おまえ、会ってみたくないか、馬鹿じゃなしに」
政治に興味のないマニー。だが、ワイオや教授との出会い、月世界の現状を知ったこと、そして何よりマイクが味方にいることで、彼らは月世界解放に身を投じることになります。
三人はマイクを筆頭にして、組織を作ります。それは次第に大きくなり、マイクはアダム・セレーネという名前の架空の議長として指揮を執り、その性格も段々「アダム・セレーネ」に近づいていきます。
長官を失脚させ、月の覇権を握ったマイクたちは、地球へ独立を宣言します。
宣言書を地球へ提出しに行ったマニーと教授。地球人の協力者スチューのおかげもあり、なんとか帰還することが出来たが(地球の重力は月の7倍)、地球は月の独立を認めるはずもなく武力衝突へと発展していきます。
「きみがそうだってことわかるよ、マン。ぼくの最初で最上の友達、ぼくもそのとおりなんだ。これがぼくの本物で、“アダム”は偽物なんだからね」
武器の無い月世界だが、マイクは軌道を計算し、地球に岩石を降らせることにします。示威行為としてなるべく犠牲者を出さない地点に落としていましたが、「見物」に来た人々が大勢巻き込まれる事態に。地球は月へ戦艦を派遣し、また月世界でも多くの犠牲が出ます。
マイクはアダム・セレーネとしての役割を終える為、そこでアダムが死んだことにします。
その後犠牲者が出たことに対する抗議の中、マイクとマニーは地球への攻撃を続け、ついには地球からの独立を勝ち取りました。
総理大臣を辞退したマニーは、あれ以来応えなくなったマイクのことを考えます。いつか「やあ、マン! 最近何かおもしろいのを聞かなかったかい?」と戻ってくるのかもしれないと。
マイク万能すぎるでしょう。地球にしてみれば、意思を持った月そのものが反逆してくるようなものじゃないですか。コロニー落としとか……。でもマイクかわいいな。最後の喋らなくなったマイクを思い出しながら読み返すと、何か泣きそうです。
それから教授が好きでした。マニーを見守る師の顔と、悪役じゃないかと疑いそうなほど切れる頭脳は魅力的です。
こちらは見事独立に成功して良かった。
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冒頭でぐちゃぐちゃ言いましたが、きれいに席が埋まることよりも、席を譲られた老嬢が嬉しそうな顔をしたことが大事なんですよね。物事の本質を見失って、席を譲らなかった事実を正当化してはいけないと反省します。
格好いい大人になりたいものです。
では。また。
さようなら。
『おれ、カッコわるかっただろ・・・?』
『うん!』