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第7話 後編

1 omorrow  憶のカケラ  月25日  ⑦ 後編

 

 

 

もしものはなし


 

ドッペルゲンガーと呼ばれるような

“ぼくの分身”が本当にいるのならば

是非、ぼくの人生を堂々と歩んで欲しいと、思う。

 

ぼくは彼に、自分の名を与え

過去の記憶を与え

未来の希望を与えよう。

 

そして

ぼくは“ぼく”に別れを告げ、旅に出る。

ひとりぼっちの旅は

きっと寂しさに満ち溢れるだろうけれど

ぼくは、ひとりぼっちの、旅を生きよう。




ただ生きているだけで、悩み苦しむ夜がある。


 

ただ生きているだけで、羞恥溢れる夜がある。
 




ぼくは逃げたかった。

夢や希望も

すべて投げ出して

ぼくはただ、逃げたかった。

 

まわりの環境からも

自分の過去からも

ぼくの呪縛からも

逃げたかっただけ。

 

死にたくはないけれど、生きたくもない。



たしかに、むかし

逃げようとしたことはある。

けれど、逃がしてはくれなかった。


ぼくのなかにいる、もうひとりのぼくが

かならず、そこにいたからだ。


 

ぼくのからだに巻き付き

自由を奪う鎖を握るのは

ぼくの顔をした、悪魔。

 


「逃げるなよ、寂しいだろ」



 

鎖は、ぼくが暴れれば暴れるほど

からだに絡み、食い込むようだ。





いま

とろとろプリンを試食しているのは

“なっちゃん”という愛称で呼ばれている、お天気お姉さんだ。


 

「うわっ、とろとろ!クリーミーですね!

カラメルもほろ苦くて、甘さひかえめで、おいしい」


 

着替え途中に

視線を画面に戻せば

愛らしいなっちゃんの姿と、大量のとろとろプリン。

 

大きな瞳と、サラサラと揺れるショートヘアが、ぼくの好み。

甘さをひかえた、濃厚なプリンが、ぼくの好み、なのか

まんまと“食べてみたい”と思ってしまった。

 


ワイシャツに着替え、ネクタイを結んでいる

テレビに夢中なぼくは、まだ知らない。

 

もう脱ぎ捨てられた

パジャマ代わりとして使用している

このハーフパンツのポケットのなかに

記憶から消された世界の“忘れ物”が入っていることを

ぼくはまだ、知らない。



 

さらには

ぼくから自由を奪っていたはずの鎖が緩み

悪魔は英雄によって打ちのめされ

ぼくの呪縛が解かれたことも

ぼくはまだ、知らない。

 

そして

ぼくがいま、“名もなき旅”を、生きていることも

ぼくはまだ、知らない。

 

 

つづく



 

 



 

 

 

 







 

 


 

 



 

 



第7話 前編

1 omorrow  憶のカケラ  月25日  ⑦ 前編

 

 

 

 

きょう、ぼくが逃げ出しました。


ぼくを、ここに残したまま

突然、ぼくは逃げ出しました。

ぼくはひとり、ぼくもひとり

きっと

ひとりぼっちは寂しいと思うので

ぼくはぼくを探しに行きます。

心配しないで下さい。

かならず

ふたりで帰ります。





ゆっくりと映り始めたテレビ画面には

朝の情報番組が流れていた。

察するに

いま話題のグッズや

新商品を紹介するコーナーのようだった。


ぼくは画面から目を離し、着替えることにした。

それでも

意識はそのまま、スピーカーから流れる

くだらない情報に集中している。

 

ただ単に

物寂しい、という安易な理由から

テレビ番組を流しているわけではなく

本当のところ、“準備”という名が相応しいと思う。

 

くだらない情報をも、ぼくは知る必要がある。

社会を語るには、社会を知る必要がある。

大人たちの傾向、趣味、特質を知る必要が

ぼくには、あるのだ。

 

無駄な情報などない。

無駄な知識などない。 

“敵”を倒すには、まず“敵”を知ることから。

 

いま、ぼくがするべきことは、それだけ。



これが、ぼくだ。

昨日と、なにも変わらない。

きっとあしたも、なにも変わらない。

 


だから

いま、ぼくは

人並み以上に“集中”して生きればいい。

神経を研ぎ澄まし、生きることだけに集中すればいい。

それだけ。




きょうのオススメ商品は、

鈴堂製菓から新発売された

“とろとろプリン”と呼ばれるモノらしい。




 

 

つづく



 

 


 

 



 

 

 


 

第6話

1 omorrow  憶のカケラ  月25日 ⑥



鳴り響く音は、ぼくへの警鐘

救われたのは、ぼく、ただひとり

ただひとりだけ

 

 

 



不快な金属音は

ぼくの頭上から響いているのだと、勘違いしていた。

重い瞼は閉じたまま、枕元を手探りしてみても

音源である“それ”を見付けることは出来ず、

ぐわんぐわん、と

反響しているように聞こえ始めた鐘の音は

ぼくのなかの睡魔や倦怠感を

抑制していくようにも思えた。

 

 







ぼくがまだ、純粋な子どもだったころ

ぼくには、どうしても欲しいモノがあった。


泣きながら、喚きながら、モノをねだったのは、そのときだけ。


自分の感情を抑えることも、隠すこともせずに

常識や、ルールも

一切配慮しないまま

泣き叫び、地団駄を踏むことが出来たのは、あのころだけ。







 

 

 

生まれたときから

ぼくのまわりには、“大人たち”しかいなかった。



 

 

兄弟は欲しいと思ったが、ぼくは“ひとりっこ”のまま。

従兄弟はいるのだろうけど、名前すらよく知らない。

幼馴染は、いたような、いないような

記憶にも曖昧な存在になってしまった。



 

 

その“ひとりぼっち”のぼくが

どうしても欲しい、とねだったのは

仲良く兄弟で使用するような、二段ベッドだった。

ひとり用のベッドとは異なる魅力に、ぼくはたちまち惹かれた。



 

 

闇を創り出す、閉鎖的な空間


ぼくには、二段ベッドの一段目に価値があり

二段目などオマケに過ぎなかった。

その“空間”と“明暗”のバランスが

たまらなくぼくの心を魅了したのだ。




どうしてもほしい。




 

むかしから

ぼくはモノをねだるような子どもではなかったから

母さんは渋々ながらも、ぼくにそれを与えてくれた。

ぼくはそれが自分のモノになった喜びと同時に

小さな自己嫌悪を、初めて抱いた。

 










それからか、何事に関しても

“ひとめぼれ”ということはしないようにしている。



 

実際、魅力的なモノが目の前に現れたとしても

そのものがぼくに与えてくれる利益や

そのものがぼくの環境に与える影響など

利己的な思考をする自分が、非常に醜い人間

ぼくの嫌う“大人”のようだ、と気付いたときから

結局、それは自分には“いらないモノ”だと結論付けることにした。


 

だから、物欲から生まれる“後悔”など

ぼくはいちども、したことがない。



 

寂しい人だと、思われそうだが、ぼくも、そう思う。



それでも、ぼくはこのままでいい。

 

変わりたい、とは思うが

実際に変わろう、とは思わない。

 

いままでのぼくは、それなりに幸せだったし

これからのぼくも、変わる必要などない。



それこそ

変わってしまったら

ぼくの計画はすべて狂うのだ。






 

 

 

 

それから、今日まで

一段目は“ぼくの寝室”となり、“ぼくの空間”となった。

二段目は年々“物置場”としてカタチを変え

近年、洋服やら漫画、ゲーム機などは、そこが定位置となり

完全に“収納場”として変貌した。





  

 

 

 

 

ぼくの探していた“それ”は

二段目に置かれている漫画冊子の上にあった。

 

普段、そこにあるはずのない“それ”が

その場所にあるだけで、ぼくは気持ちの悪い印象を抱いた。

それは“几帳面”というような、性癖などではなく

ぼくがそれを、わざわざ二段目に置いた理由も

ぼくがそれを、わざわざ二段目に置いている姿も

ぼくの記憶にはない、というか思い出せなかったからだ。






だめだ

ぼくはまだ

ゆめのせかいから

かんぜんにぬけだしたわけじゃない




 

記憶には残されていないはずの

夢のトラウマから逃げるように

日々の習慣から、ぼくはテレビのスイッチを押した。




テレビに映るのはいつも

大人たちの創る、偽りの社会を美化した世界だけだ。 



つづく

 

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