彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、またまたメモをとっているな。
そのメモを見せろ」
「いやです。本当にいやです」

ボスは無理やり「ナイーブ」刑事のメモ帖を奪った。
そこにはこんなメモがあった。

~思い出~

僕の涙を集めたら、風呂に入れるかな。


と、書いてあった。

ボスはメモ帖を無言で返した。

彼の名前は「ナイーブ」刑事。


彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、好きなお酒は何だ?」
「ジンリッキー、です」


今日も「ナイーブ」刑事はいつものバーのいつもの席でのんでいる。
店はほどほどにこんでいる。
でも彼に話しかけるものもいなかったし、彼も話しかけない。
バーテンダーも違う客と話している。

そんな時、彼は自分の携帯を取り出し、
ふと
「自分の携帯番号に携帯で電話」してみる。
結果はやはり、「話し中」になった。

確かに今、電話をしているので話し中になるのは
わかるんだけど、ふと、誰かに繋がらないかな、
と思った。

ジンリッキーをもう一杯のみたいけど、
バーテンダーが違う客と話しているので、そのタイミグが難しいな。

もう一度、自分の携帯番号にかけてみようかな。

彼の名前は「ナイーブ」刑事。
彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、お前いつもメモをとっているな。
そのメモを見せろ」
「今度こそ絶対にいやです」
「そんな秘密にしておくようなこと書いてあるのか?」

ボスは無理やり「ナイーブ」刑事のメモ帖を奪った。
そこにはこんなメモがあった。

~自分へ~


「人生は螺旋階段。
何度も同じようなことでつまづき、同じようなことで悩む。
けれど前よりちゃんと上へのぼっているよ」


と、書いてあった。

ボスはメモ帖を返して言った。

「今日のはなかなか俺も好きだな」
「そうすかねー」

彼の名前は「ナイーブ」刑事。
彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、どうした? 顔が青いぞ。
インフルエンザにでもやられたか?」

「ナイーブ刑事」の顔の青さの原因はそんなことじゃなかった。
昨日の夜、パソコンのメールをチェックしていた。
そのなかに

「ごはんつくりすぎちゃった」

との件名でメールがあった。
ナイーブ刑事はもちろんウイルスメールかも、と思った。
でも、でも、でも、万が一のこともあるな、と思った。
胸がドキドキした。
「ごはんつくりすぎちゃった」という誘い方、は素敵すぎる。
もうキラキラしている。
胸がドキドキしすぎて破裂してしまうんじゃないか、と思った。
甘酸っぱい匂いまでメールから漂ってくる。

ごはんが逃げちゃう。
我慢できなくなってメールを開いた。

やっぱりそれはウイルスメールだった。
パソコンはウイルスに感染した。

そんなわけで彼の顔は青いのだ。


彼の名前は「ナイーブ」刑事。
彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、またメモとっているのか。
そのメモを見せろ」
「今度こそいやです」
「いいから、見せろ」

ボスは無理やり「ナイーブ」刑事のメモ帖を奪った。
そこにはこんなメモがあった。

~理想のプロポーズの言葉~

「お前の頭の上に巣をつくって卵うんでもいい?」

と、書いてあった。

ボスは無言でメモ張を返した。

彼の名前は「ナイーブ」刑事。
彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、何メモばっかりとっているんだ
そのメモを見せろ」
「いやです」
「いいから、見せろ」

ボスは無理やり「ナイーブ」刑事のメモ帖を奪った。

そこにはこんなメモがあった。

~キスの方法~

僕は近眼なのでメガネをかけていく。
いいな、と思っている女の子にふと
「君はメガネも似合うと思うよ」
「えー、わたし目は悪くないよ」
「僕のメガネをかけてみて」
女の子はメガネをかける。
と、僕は近眼なのでみえない。
「あれ、僕、近眼だから見えなくなったぞ」
といいつつ、顔を近づけて

キス。

と、書いてあった。

ボスは無言でメモ帖を返した。

彼の名前は「ナイーブ」刑事。
彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、ネクタイが曲がっているぞ。
ほんとに自分のことは何も気づかないやつだな」



「ナイーブ」刑事は友人の女性と下北沢で待ち合わせた。
女性は面白い提案をした。

「ね、今から不動産屋に行こうよ。それで部屋を探しているふりをするの。
あなたかが旦那の役をやって、私はその婚約者の役をやるから」
「どうしてそんな遊びをするの?」
「あら普通のデートってもう飽きたから」
「ふーん」

あの物件に友人は興味を示した。
とても豪華なマンションだ。
でもお互い協力すればなんとか家賃は払えるだろう。

「いい部屋ね、どう思う、あなた」
「そうだね」
「気に入った?」
「ふーむ」
同行した不動産屋に手前、演技をする友人。

でも、急に「ナイーブ」刑事の手を取って言った。
「ほんとに、ここに、住んじゃおうか」
「ナイーブ刑事」は鼻で笑った。

でも、友人は、半分本気だったってことに彼は気づかない。
「面白いデートだったでしょ?」
「そうだね」
「ネクタイまた曲がっているよ」
「ホントだ」
彼女はそう言うと去っていった。

一ヵ月後、彼女が結婚するということを風のウワサで聞いた。


彼の名前は「ナイーブ」刑事。
彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「ナイーブ、その顔のあざはどうした?
何か事件があったのか?」

「ナイーブ」刑事の子供ころのスターはなんといっても「松田優作」だった。 、
再放送で観た『太陽にほえろ』のジーパン刑事殉職シーンがあまりにもかっこよすぎた。
 犯人にピストルで撃たれた後、優作は血だらけになった自分の腹と手を見て、
「ナンジャコリャーッ!」と有名なセリフを吐くわけだけど、その直前の場面が
かっこよすぎる。
ピストルを向けられた優作が、「撃ってみろ!」と犯人をわざと挑発する。
 これに彼はヤラレた。
 だから街のケンカに割り込んで、やめさせようと思った。
でも騒ぎはおさまらない。
相手は中学生の4人組。
ここで「ナイーブ刑事」はあの「ジーパン刑事」のように言った。

「殴ってみろ」

心のなかはすっかり優作のつもり。
「ナイーブ刑事」はあっという間にコテンパンに殴られた。
夕暮れで鮮やかなオレンジ色の光線が裏通りを照らしていた。
風はちょっと冷たかった。
これでもかっていうくらいに殴られて、数分後には「ゴメン、ゴメン」と平謝りする。

子供の頃の憧れというものは現実とはやはり違うんだな。

彼の名前は「ナイーブ」刑事。
彼の名前は「ナイーブ刑事」。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、生きるってことに不器用な男って
それなりに味わいのあるもんだよな」


うん。確かにボスがそういうと説得力がある。
「ナイーブ刑事」はそう思いつつ、ふらりと「ブックオフ」に寄る。
中古のマンガや小説がずらりと置いてある。

ナナナンさんや岡崎京子もいいね。
大友カツヒロの「アキラ」か・・・しぶい。
おっと南Q太の「スクナヒコナ」が105円で売っている。
彼はそれを買って、スターバックスでコーヒーを飲みつつ、開けた。

3巻だ、これは。
しかし、こんなにち小さく「3巻」って書くのは卑怯だ。(画像、拡大してね)
また「ブックオフ」いって、1巻と2巻を探す。
ない。
仕方あるまい。
普通の本屋で1巻と2巻をあわせて、1800円で買う。

またスターバックスに行き、ようやくすっきりとした気持ちで読んだ。
3巻を読むとき、「ああ、やっと3巻。やっと3巻までたどりついた。
これですっきりと完結だ」と思った。
しかし3巻を読むと、「4巻につづく」とあった。

こんな小さな事件を解決できない僕は・・・・・
「刑事」にむいているのかなと思いつつ「本日のコーヒー」を飲む。
今日、何杯めなんだろう???


彼の名前は「ナイーブ」刑事。
捜査課のボスがそう呼び始めた。
「おい、ナイーブ、そのブラウンの皮のコートは
お前とよく似合っているよ」
「どうも」


そんなことをボスに言われた夜にゃ、バーにでも行こう。
カウンターの一番はしの席でぼんやりとビールを飲む。
店内にはジョン・コルトレーンの「バラード」が流れている。

煙草を吸おうとして、ポケットに手を入れた。
煙草は見つかったものの、困ったことにライターがない。
そのままじっと煙草に火をつけずに天井を眺めていた。

するとコートのポケットに入れた手が何か違和感を発見した。
コートの右ポケットに穴があいている。
その穴から底にまで手をつっこんでみる。

すると・・・でたね。ポケットのそのまた下の生地のところから。
ライターがどっさり。
7個。
ひとつひとつ思い出がある。
セブンイレブンのシールが貼ってあるものや、サッカーチームのマスコットがプリントされていたり、
そう、これはあの子からもらったものだ、なんて、思いにふける。

ポケットなかには過去がつまっていたんだな。

そのライターのひとつに火をつける。
ナイーブ刑事はなぜ自分がそんなことをつぶやいたのかはわからないけど、
言葉はため息とともに出た。

「でも、あの頃の僕より、今のほうがずっと若いさ」

さあ、もうビールをもう一杯。

彼の名前は「ナイーブ」刑事。