着物を着る人ならばおそらく
その存在を知らぬ者はいないであろうと思われるのが
「お直しおばさん」。
着付けの未熟な方に対して欠点を指摘し、
その場で直してくださる
とても奇特なありがたい方々の事です。
かく言う私も「お直しおばさん」遭遇デビューを果たしました。
とある着物の集いが終わり、羽織をはおっていた時の事です。
羽織を着ようと手に取った瞬間、
60代後半とおぼしき女性がなぜかツカツカ近寄ってきました。
そしてものすごい至近距離で、
鋭い目をしながら
私が羽織を着るのをじっと待っているのです。
「なんでこんな近くにいるんだろ」と思いながら
羽織に袖を通し、
その際袖の中の着物の振りがぐちゃぐちゃになったので
それを整えていた時、
その女性が「全く、こんな着方をして!」と言いながら
私に手を伸ばし、羽織の衿をグイとひっぱって直しました。
そのとき、羽織の衿が着物の衿を覆ってしまっていたのは
私もわかっていました。
私としては袖の振りを直した後で
そちらを処理しようと思っていたのですが、
オバサマにとっては
それを見とがめた瞬間がまさに好機。
「今だ!」と攻撃に出たものと思われます。
きっと常日頃、羽織やコートの衿が着物の衿に沿っていない
着方をしている若いモンを見て
苦々しく思っていたのでしょうね。
人前で大声で叱られた私は
「衿がおかしなままでウロウロ歩いているならともかく
まだ着てる最中に鬼の首を取ったようにダメ出しするなんて~」
とオバサマを恨みました。
これだから「お直しおばさん」は!と
嫌な気分になりましたが、
よくよく考えてみれば
「お直しおばさん」に目をつけられるほど、
私の着姿はまだ一人前ではなかったということでしょう。
羽織だって、
本当に着なれた人は羽織る仕草そのものが
流れるように美しいはず。
「あとで直すつもりだった」などという
見苦しい言い訳をしているうちは
私の着方はまだまだダメだなあ~~と
自らを反省したのでした。
「お直しおばさん」は確かにうっとおしい。
中には固定観念や古い価値観を押し付けてくる人もいるでしょう。
しかし、着物を通じて後輩とコミュニケーションをはかろうとする
人生の先輩方の気持ちの現れでもあります。
嫌ってばかりでなく上手に受け止め、
良い縁になるように努めたいものです。
私などは
自分が十分おばさん年齢であるにも関わらず
未だに着付けに自信がないので、
着物から半衿の後ろが大きく飛び出していたり
お太鼓がゆがんでいた時に
着物を着なれた見知らぬ年配女性が
そっと耳打ちして教えてくださり、
さりげなく手を入れてくれる。
そして恥ずかしさに顔を赤くしながら礼を述べる自分に
「大丈夫、私も最初はそうでしたよ」と
微笑んで去って行く・・・
そんなやりとりに非常に憧れます。
とはいえ、「直されおばさん」は一日も早く卒業したいですが。