※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください


[和名]セイヨウシロヤナギ
[英名]Goat Willow/Commom Willow/White Willow
[学名]Salix alba
ヤナギ科/落葉性の低木(or)小高木/耐寒性
25mまで
[樹皮]:深く亀裂の入った灰茶色/経年とともにザラザラしてくる
[枝]:傾状
[葉]:長さ10cm/互生/先細/披針形/両面ともに厚い毛で覆われる
[花期]:春
[花]:雌雄異株/新芽と一緒に尾状花序の花をつける/(雌花)緑色を帯びる/(雄花)黄色/この花序がいわゆる“ネコヤナギ”
[果実]:小さな種/白い毛の束あり


◎シダレヤナギ(Weeping Willow/S.Babylonica)
◇東部地中海地域原産/イギリスには17世紀に伝わる


【分布・育て方】
◆全ヨーロッパ/川辺などの岸辺・水辺の森に普通に見られる/標高1800mまで
◆日当たりがよい/湿り気がある(or)濡れている/目の詰まった土壌を好む
◆繁殖は(夏)半熟枝挿し/(冬)塾枝挿しを行う

【伝承など】
◆[古代地中海世界]:地母神デメテル(ローマではケレスになる)は彼女に捧げられた柳の木に現れた/死と復活の女神ペルセフォネも柳の幹の暗闇に浮かび上がった/オデュッセウスは冥界の入口アケロン川のほとりで柳を見た/バビロンの流れのほとりの柳に琴をかけて我らは涙を流した(『旧約聖書』)
◇樹皮を鎮痛・解熱剤に用いた(A.D.1世紀~)
◇“医学の父”偉大なギリシャの医師ヒポクラテスは樹皮を鎮痛・解熱に、葉を分娩の痛みの緩和に用いた
◆[キリスト教]:「キリストの言葉は異教の地でどんなに阻まれても、損なわれずに成長し続ける」という考えから、柳を福音のシンボルとした
◆[古代ケルト]:神聖な木の1つ/“冬の巨人”を燃やす儀式は(中に生贄を入れて燃やしたのではなく)藁・干草を詰めたヤナギで作った人形を、ヤナギの枝で編んだ籠とともに焼いた可能性がある
◇籠そのものは「イニシエーションの小屋(炉)」だった可能性もある
◇同様のものとして、スキタイ人のシャーマンがヤナギの骨組みに屋根を葺いたものを建ててシャーマン的儀式を行ったものがある
◇ケルトの豊穣の儀式では、ドルイドの木文字の5番目の木として、ヤナギの花が咲く頃に(自然の再生を祝う・畑の豊穣を促すために)枝を地面に差した

【花言葉】
 『見捨てられた恋人』

【民俗学的なこと】
◆[死・嘆きの象徴]:水辺・湿地に枝葉を長く大地に垂らす(葉に含む水滴が涙を思わせる)姿から/ユダが首をくくったと言われる木の1つ/魔女(地母神のなれの果て)とのもう1つの関連性
◆[生と死の境界に立つ]:陸地と水の境=「下界の門」に立っていることから/生命力に満ち溢れていることも影響している
◆[柳の下で眠ってはならない]:生死の境界に立つ木だから当然そういうことになる/人々は子供にそう教えた
◆[臆病者・倒錯者の処刑]:古代ゲルマンではヤナギの籠に入れて沼に沈めた(byタキトゥス)
◆[辱めの刑]:暑い盛夏に罪を犯した者にヤナギの鞭を持たせた/周りの人々と仲良く暮らせなかったことを告げ知らせていた(ゲルマン)
◆[月・月の女神に属する]:(一般に)柔らかく・腐りやすく・しなやか・水っぽいもの/涼しいもの/敏感なものが属する
◇春に咲くことからも“光の乙女ブリギットの満月”に属するとされた
◇ブリギット=ブリードはヒーラー・詩人・魔法使い・シャーマンの才能に長けた人々の守り神とされた
◆[薬草売りの女性]:セイヨウシロヤナギの樹液を煮て、その苦い煎じ湯を痛みを訴える人々に分け与えていた(中世)。しかし、籠を作るためにヤナギの木が緊急に必要とされるようになり、ヤナギを摘むことが罰せられるようになったため、この自然の特効薬は忘れ去られた
◆[魔女が出現]:柳の根にしゃがんで悪魔に魂を売る/それ以後は絶えず木陰に現れる/朝早くに魔女はヤナギの枝を触って霜・霧氷を生み出すという/ヤナギで作った笛で破壊的な風を巻き起こすとも/魔女と猫との繋がりは柳経由か?
◆[魔女の箒]:長い枝で作ると信じられた
◆[木女が住む](大昔の木の妖精の名残):①柳の木に夜な夜な忍んでいく妻が木女だったという話/②夫が木を伐って妻は死ぬ/③代わりにどんどん伸びる新しく枝で子供たちが笛を作る/④笛を吹くたびに柳の中に母の声を聞いた(ボヘミアの民話)
◆[棕櫚の日曜日](枝の主日):棕櫚はドイツには生えないのでバッコヤナギを奉献に使う/キリストは磔にされる前にヤナギの鞭でひどく打たれたという話しに由来する/家に持ち帰った柳の穂花を食べると、一年中無病息災になるといわれる
◆[復活祭の十字架]:枝を編む(イギリス)
◆[復活祭のウサギのために]:柳の枝とコケとでウサギの小庭を作る(シュヴァーベン)
◆[情欲の節制の象徴]:Vimen(柳のラテン語)に“しばるもの”という意味もある。そこでカシ〔常緑〕の大木に象徴される「頑固な情欲」を制御する徳に喩えられた
◆[制淫剤とされた]:ヤナギの尾状花序・葉を使った(中世)/ブリギットは処女神であることに関連する/魔女扱いされる木の筈だが「貞淑・純潔で汚れのないマリアの木」として修道院の庭に植えた
◆[病気を移し取る木]:痛風・リウマチ・子供の病気に有効とされた

【特徴と利用法】
◇葉・樹皮を利用/苦い
◇[葉]:春・生長期に摘み取る/生(or)乾燥させたものを成分浸出液にする
◇[樹皮]:春・夏の間に剥ぐ/乾燥させたものを成分抽出液・粉末・錠剤・チンキにする
◇(幹さえ傷つけなければ)新しく生えてきた枝をいくら伐っても枯れはしない/ただし抵抗力は弱く朽ちやすい/ヤナギの成長スピードを上回るのはポプラだけ(同じくヤナギ科)
◇『柳の植え付けについての規約』(スターブリッジ:1571年):どの参事会員も各々柳を120本ずつ植えた/都市民は80本ずつを地表・排水渠・溝の土手などに植えた/彼らは枝おろしをした・敷肥を施した・植えられている排水溝などを掃除した」
◆[土手を強化する]:川べりに生えるから
◆[漁船]:獣皮を張った柳編み細工で作るがかなりの耐久力があるという
◆[養蜂]:春に分泌する甘いネバネバした蜜が孵化したばかりの蜜蜂を誘う/春は蜂にとって柳は重要な蜜源となる/果樹の受粉のために果樹園主は好んで柳を果樹のそばに植える
◇巣箱にはコリヤナギのヨーロッパ種(Salix purpurea/Purple Willow)の枝を細工に使う
◆[羊・馬の放牧地に]:家畜に丸裸になるまで食い尽くされてもすぐに伸びるから
◆[木靴][クリケットのバット][製図版][マッチの軸]:柳は材としては柔らかい/害虫に喰われやすいので有用ではない
◆[笛]:ケルト人の死者の儀式/天候を操る術に用いられたらしい(死者・精霊に声を授けた)。骨・管・ヤナギの樹皮で子供たちが作った
◆[桶のたが][他の材木を縛る][葡萄の木を縛る]:切り枝を用いる
◆[祭式の箒]:シラカバの小枝を柄(トネリコかハシバミの材)にヤナギの樹皮で縛り付けた
◆[こね桶]:中が大きく空洞になった幹から作る
◆[籠を編む]:枝を使って(数千年来の歴史がある)/ところが古代ローマには籠が無かったらしい(イギリスからの輸入品だった)/イギリスにはどんなに貧しい家でも柳製の籠は必ず1つ2つはあった
◇パンを入れるのは今も昔も変わらない/パン屋では大型パンはちょうど同じ大きさの柳かごに麻布を敷いて入れた(中世)
◇石炭を地上へ運ぶのにも用いた(ウォーウィックシャー:中世)
◆[柳細工]:柳細工は農村の子供達の遊び道具作りの基本材料だった(中世)/様々な仮装・出し物を作るのにも柳をつかった/汚れたときにはソレル(スイバ:Rumex-acetosa)で除去する
◇ホビー・ホース(棒馬):柳の小枝や針金で作られた胴体の上に高価な刺繍を施した覆いを掛けていて、それが騎手も覆っている
◆[柳笛]:枝で作って子供の遊び道具になる
◆[葡萄酒の保存に]:細口大型ガラス瓶に柳で編んだ覆いをかぶせた(キプロス産:中世)
◆[建築用]:枝を編んで渡した上に漆喰を塗って壁にする/中世の農家の基本
◆[クッション・布張り家具の詰め物]:種を包む綿の用途だった
◆[染料]:葉の煎じ汁から木綿染料とする
◆[皮なめし]:樹皮を集める/(とりわけ)手袋用の革をなめすのに使う


【症状と薬効】
◇収斂・冷却性ハーブ
◇鎮痛・解熱・消炎・利尿・発汗・殺菌作用がある
◆医学の父と呼ばれる古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、ヤナギの樹皮を鎮痛・解熱に、葉を分娩の痛みの緩和に用いたと言われている
[軽い発熱性疾患][疝痛]:葉を内服する
[リウマチ][痛風][自己免疫疾患の炎症期][下痢][赤痢][胃腸]:樹皮を内服する/小さじ1杯の細かく切った樹皮を1晩1カップの冷水に漬けた後に翌朝ごく短時間煮る
◇リウマチ性関節炎にはスープセロリ(Apium-graveolens)などと合わせて使用
◇不健康な沼沢地に生える柳と熱病を結びつけたことから始まったらしい
[熱冷まし茶]:柳の樹皮3/リンドウの根1/ミツガシワ(Marsh trefoil/Menyanthes trifoliata)の根2/ヒヨドリバナ2/ローズマリー1,を調合する
[避妊薬]:冷たい水で葉を飲むと女性は妊娠しない(byディオスコリデス)/セックスの前に膣に葉を挿入して妊娠を防ぐ
[傷口・潰瘍の洗浄][包帯を浸す][歯肉の出血][扁桃腺の腫れ][炎症]:樹皮の煎じ薬を外用薬として
[皮膚表面の潰瘍][治りにくい傷]:傷口に粉薬を用いる(柳の樹皮・ボダイジュの炭をそれぞれ細かい粉末にして同量ずつ)
[足の異常発汗]:樹皮を煎じた汁で足浴をする
[足の強壮・リフレッシュ]:ヨモギ1掴み/柳の葉1掴み/ヨモギギク1掴みを5Lの水と煮る