【2014年6月中旬の事】
彼女とお別れをしなければという必要に駆られ、
僕は思い切って、彼女にLINEを送った。
別れたくないという未練もあるけれど、
この時点での気持ちは、離婚しないほうに分があった。
割合としては、7(妻):3(彼女)というところか。
別れ話も、LINEだけで、終わらせたい気持ちもあったけれど、
なんだか高次元からのお導きもあったことから、
直接会って話すことにした。
彼女に会う日程のオファーを打診しようとしたら、
『今日、会う時間取れないかな?』
指が勝手に、そう送っていた。
いやいや、都合良く当日いきなり会えるわけないじゃないか、とか、
彼女が俺に会ってくれるかどうかも微妙じゃないか、とか、
後から不安にかられつつ、返事を待っていると、
『え?今日?』
と返ってきたので、
『会って直接話がしたいから。』
と伝えると、
『・・・わかった。』
と、返ってきた。
これは、宇宙の流れに乗っているのかもしれない。
・・・そう感じた。
彼女は、明らかに、別れを予感しているのがわかった。
僕も、そのつもりだったけれども。
急いで身支度をして、家を飛び出した。
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待ち合わせしたカフェに到着した。
彼女は先に入って待っているのが見えた。
以前は、逢瀬の後、時間がある時に何度か寄ったことのあるカフェ。
おしゃべりをして、笑い合って、驚かせて、喜ばせて・・・
楽しい想い出の詰まったカフェ。
初めて二人きりで会った時も、このカフェだった。
(・・・あの時はまだ、好きになる前だったなぁ。)
この時ばかりは、中に入る足取りが、とても重かった。
「・・・お待たせ。」
「・・・うん。」
店員にオーダーした後、彼女のほうから、すかさず切り出してきた。
「実は、私も一つ、言わなければいけないことがあるの。」
「・・・うん、何?」
「旦那に、離婚を取りやめてもらったの。」
「・・・そっか。」
「私の心が、死んでしまいそうだから。」
「・・・そっか。」
「だから、私も、澄龍君のことは、責めることはできない。」
「それで当然だよ。君は悪くない。」
「生活のため、仕方なく。自分の身を守るために。」
「わかったから。悪いのは僕のほうだから。」
「・・・」
「・・・」
彼女は律儀な性格なので、
自分自身に都合の悪いことは、早く吐き出してしまう性質だ。
だから、自分自身の離婚撤回も、さっさと伝えたかったのだろう。
そして、彼女を見ていて、一つ、察知したことがあった。それは、
『彼女は僕に対して、好きという感情を、抱いていないかもしれない。』
ということだった。
「・・・私達は、もう、無理だよね。」
そう言われた時、心の中の、もう一人の自分が囁いた。
『そうとは限らんぞ。』
「いや、そうとは、限らないよ。」
(ん?)
「・・・え???」
彼女は驚いた。
なんだか、心の声につられて、口に出してしまったけれど、
僕は驚きを隠していた。
僕は、なんだかわからないけれど、
覆してやりたい衝動に駆られてきたのだ。
彼女の顔を見て、彼女の雰囲気を感じ取って、
僕の中の何かがどんどん変化し続けていた。
この衝動が何なのか。
お冷を口に入れ、心を落ち着けて、自分の心の中を観察してみた。
『お前は、どうしたいんだ?』
『気付いているはずだ。』
(あぁ・・・もう容赦がない。)
『怖がっているだけだ。』
(そうだ、怖がっているだけだ。)
『彼女の愛は、どんな愛だった?』
(無条件の愛。)
『彼女を選ぶと、何が学べるかと言うと?』
(無条件の愛。)
『お前に欠如しているものは?』
(無条件に愛すること。)
そう、これまでの僕は、愛される保証のある世界でしか、
愛を伝え表現することが出来なかった。
自分から愛して見返りがなかったら、バカを見ることになるし、
一人で調子に乗ってるのを、後ろ指指されるのが、怖かったのだ。
相手が愛してくれるから、自分も相手を愛すことしか、出来なかった。
『条件付きの愛』の価値は、どんなものかは、
既に身を持ってふんだんに体験済みだった。
みじめな想いをしたくなかった。
かっこ悪い想いをしたくなかった。
格好良くスマートに生きていきたかった。
注文した紅茶が届き、カップに注ぎ、口に運び入れた。
熱い紅茶の温度とは対称的に、気持ちが落ち着いていった。
(彼女を選択して、無条件の愛を、ここで学びたい。)
『諦めたら、それで終わりだ。』
(確かにそうだ。)
僕の進みたい方向性が転換した。
僕の望む方向はここだと感じた。
心の割合としては、6(彼女):4(妻)。
メーターも逆転していた。
そして僕は、決断して、彼女に告げた。