千秋は仕事を終えてから沢田邸に向かって車を走らせている。千春は一度帰ってから千夏を連れて来ると言っていた。上手く言い含めてつれて来てくれることを願っている。ともかく二人より先に着くようにしなければ・・・。
一条から三人揃って沢田邸へ来るようにと言うメールが送られてきたのは昨夜のことである。一条からの呼び出しに千春と千秋は、千夏を連れ出す口実をあれこれ二人で話し合った末、結局は一条に呼ばれているとだけ伝えることにした。それでも渋るなら、沢田会長の体調が思わしくないという口実で呼び出すしかない。そうなればいくら千夏でも行かざるを得なくなる。それが最も千夏には効果的だろうと言うのが二人の一致した考えだった。
千秋が先に待ち合わせ場所についた。その十分後に千春の車が到着する。千春は一人で千秋の車までやって来くる。
「思ったより早く来れたのね」窓を開けながら千秋は言った。
「ええ・・・」
「千夏姉さんは車の中で待っているの?」千秋はちらりと千春の車の助手席を見る。
「逃げられたわ・・・」
「逃げられたって、どういうこと?」
「いつものあれよ。取材旅行もどき。逃走してたわ」
「またなの?やってくれるじゃない」
やれやれ、何かあるといつも取材と称してどこかへふらりと出かけてしまう。だが、たいていそういう時は両親のところにいる。
「予想すべきだった」
「携帯にかけてみた?」
「かけても出ると思う?電源を切っていたわよ。ご丁寧に置手紙がしてあった・・・」
「よほど相場さんの事が堪えたんでしょうね」
「どうする?日を改めた方が良くないかしら・・・」
「行くと連絡してしまったし、お姉さん抜きで行くしかないわ」
「そうよね。夕食に招かれていまさら行けませんなんて言えないし・・・」
二人はそれぞれの車で沢田邸へと向かった。相変わらずセキュリティー・システムがしっかりしており、千秋たちの車を認識すると監視カメラが作動して扉が開かれる。 二人が車から出ると一人の男性が姿を見せた。その男性が誰か分かると千秋は微笑んだ。
がっちりした体格にはちょっと似つかわしくない人懐っこい笑顔と、長髪を束ねてた姿は前に会った時と同じだ。一見してまじめなサラリーマンには程遠く、一つ間違えればどこかのチンピラに見られてしまうかもしれない。男は千秋の前に立って頭を下げた。
「お久しぶりです」
「やっぱり、加藤さんだわ・・・」
千秋と加藤は再会を祝して握手を交わす。加藤に対してちょっと引き気味の千春は目を丸くしている。
「紹介するわね。こちらは一条さんの部下で加藤さんよ」
「初めまして、加藤です。お噂はよく伺っています。千秋さんの二人のお姉さんはとても有名ですから・・・」
「あら、私だけ違うと言いたいのね」千秋はすねたように言う。
「そういうわけでは・・・」加藤は困ったように頭に手をやる。
加藤に対して引き気味だった千春も、彼に対する印象に変化をもたらす。千秋にからかわれて加藤が困っている姿を見て思わず笑ってしまう。千秋は千春の態度が軟化したのを見て嬉しくなった。
「彼って、なかなかいけてるでしょう?」千秋は小声で言う。
「そうね。なかなか良い被写体と思う。カメラ持ってくるんだった」千春は本気でそう思った。
一条から三人揃って沢田邸へ来るようにと言うメールが送られてきたのは昨夜のことである。一条からの呼び出しに千春と千秋は、千夏を連れ出す口実をあれこれ二人で話し合った末、結局は一条に呼ばれているとだけ伝えることにした。それでも渋るなら、沢田会長の体調が思わしくないという口実で呼び出すしかない。そうなればいくら千夏でも行かざるを得なくなる。それが最も千夏には効果的だろうと言うのが二人の一致した考えだった。
千秋が先に待ち合わせ場所についた。その十分後に千春の車が到着する。千春は一人で千秋の車までやって来くる。
「思ったより早く来れたのね」窓を開けながら千秋は言った。
「ええ・・・」
「千夏姉さんは車の中で待っているの?」千秋はちらりと千春の車の助手席を見る。
「逃げられたわ・・・」
「逃げられたって、どういうこと?」
「いつものあれよ。取材旅行もどき。逃走してたわ」
「またなの?やってくれるじゃない」
やれやれ、何かあるといつも取材と称してどこかへふらりと出かけてしまう。だが、たいていそういう時は両親のところにいる。
「予想すべきだった」
「携帯にかけてみた?」
「かけても出ると思う?電源を切っていたわよ。ご丁寧に置手紙がしてあった・・・」
「よほど相場さんの事が堪えたんでしょうね」
「どうする?日を改めた方が良くないかしら・・・」
「行くと連絡してしまったし、お姉さん抜きで行くしかないわ」
「そうよね。夕食に招かれていまさら行けませんなんて言えないし・・・」
二人はそれぞれの車で沢田邸へと向かった。相変わらずセキュリティー・システムがしっかりしており、千秋たちの車を認識すると監視カメラが作動して扉が開かれる。 二人が車から出ると一人の男性が姿を見せた。その男性が誰か分かると千秋は微笑んだ。
がっちりした体格にはちょっと似つかわしくない人懐っこい笑顔と、長髪を束ねてた姿は前に会った時と同じだ。一見してまじめなサラリーマンには程遠く、一つ間違えればどこかのチンピラに見られてしまうかもしれない。男は千秋の前に立って頭を下げた。
「お久しぶりです」
「やっぱり、加藤さんだわ・・・」
千秋と加藤は再会を祝して握手を交わす。加藤に対してちょっと引き気味の千春は目を丸くしている。
「紹介するわね。こちらは一条さんの部下で加藤さんよ」
「初めまして、加藤です。お噂はよく伺っています。千秋さんの二人のお姉さんはとても有名ですから・・・」
「あら、私だけ違うと言いたいのね」千秋はすねたように言う。
「そういうわけでは・・・」加藤は困ったように頭に手をやる。
加藤に対して引き気味だった千春も、彼に対する印象に変化をもたらす。千秋にからかわれて加藤が困っている姿を見て思わず笑ってしまう。千秋は千春の態度が軟化したのを見て嬉しくなった。
「彼って、なかなかいけてるでしょう?」千秋は小声で言う。
「そうね。なかなか良い被写体と思う。カメラ持ってくるんだった」千春は本気でそう思った。
加藤は慣れた様子で二人を案内していく。加藤は数週間前から沢田邸に泊り込んでいるという。千秋がその理由を聞いても、笑みを浮かべるだけで加藤は答えなかった。
加藤は客間と思われる部屋へ二人を連れて行った。
「しばらくここでお待ちください。私はここで失礼します」
「もう行くの?久しぶりに話がしたかったのに・・・」
「お会いできて嬉しかったです。一条さんの部下ですから、またお会いできる機会があると思います。その時までの楽しみに取っておきます」
加藤は礼儀正しく二人に頭を下げて出て行く。千春は礼儀正しい好青年だと思った。長髪の加藤を見て最初は面食らったけれど、外見だけでどういう人間かを決め付けるのは良くない。わずかな時間だったけれど彼と接してみて好感を持った。
仕事柄いろいろな人間と接する機会がある。彼のように長髪の男性も珍しいわけでもない。それなのに外見だけでその人間を判断しようとした。自分にもそういう偏見があることに驚き、そんな自分が恥ずかしくなった。
「加藤さんは元警察官だから柔道・剣道・空手の上級者で武道派、一条さんによると射撃の腕も確からしいわ・・・。二人が知り合うきっかけは、加藤さんがまだ巡査だった頃」
「どこかで見た事があるような気がするんだけど・・・」千春は呟く。
「地下駐車場で一条さんが襲われそうになった時じゃない?」
「あ!そうよ。思い出したわ・・・」
二人が地下駐車場の出来事を話していると、失礼しますという女性の声が聞こえた。入ってきたその女性を見て二人は驚いた。
「いらしてくださったのね。お茶も出さずにお待たせしてごめんなさいね」
「あなたが何故?」
千春は自分でもおかしな質問をしていると分かっていたが・・・。それに対して千秋は心配そうに声を掛けた。
「本当だったのね。大丈夫ですか?何かあったわけではないですよね」
「ええ。会長の体調がよろしくないようなのでお世話をと思って・・・」
「千秋、どういうこと?あなたは舞子さんがここにいるって知っていたの?」
「千夏姉さんの原稿を預かった時に聞いていたの」
いったい千秋は何を心配しているのだろう。舞子に対してあまり良い印象を持っていないはずなのに、千秋の彼女に対する態度が腑に落ちなかった。
「何が大丈夫なの?何が本当だったの?何かあったわけではないってどういうこと?何か良くないことでも起きるって意味なの?千秋答えなさい」
舞子は息子の身の安全を守る為にここにいるのだ。それを千春に説明するとややこしいことになる。会長が体調を崩しているとわざわざ舞子が自分の話しに合わせてくれたのだから、ここを上手く切り抜けなければ・・・。
「何も起こっていないから心配しないでいいのよ。舞子さんから会長が体調を崩しているって聞いて心配していたのよ。私たちをこうして呼び出すぐらいだからたいしたことないって事でしょう」
「この二三日調子がいいようですよ。会長がお待ちになっていると思いますのでご案内しますね」
「なんだか軽くかわされた気がするけど、あの人を待たせるわけに行かないわね」
「そういえば、千夏さんはいらっしゃらないの?」
「それが今日から取材旅行に出かけたみたいで・・・」
千春たちは自分たちが嘘を言ってごまかしているような気がして後ろめたいが、取材に出かけたという口実は本当だ。しかし、舞子が千春の話を疑っている様子はない。会長もそれを信じてくれることを祈るしかない。
加藤は客間と思われる部屋へ二人を連れて行った。
「しばらくここでお待ちください。私はここで失礼します」
「もう行くの?久しぶりに話がしたかったのに・・・」
「お会いできて嬉しかったです。一条さんの部下ですから、またお会いできる機会があると思います。その時までの楽しみに取っておきます」
加藤は礼儀正しく二人に頭を下げて出て行く。千春は礼儀正しい好青年だと思った。長髪の加藤を見て最初は面食らったけれど、外見だけでどういう人間かを決め付けるのは良くない。わずかな時間だったけれど彼と接してみて好感を持った。
仕事柄いろいろな人間と接する機会がある。彼のように長髪の男性も珍しいわけでもない。それなのに外見だけでその人間を判断しようとした。自分にもそういう偏見があることに驚き、そんな自分が恥ずかしくなった。
「加藤さんは元警察官だから柔道・剣道・空手の上級者で武道派、一条さんによると射撃の腕も確からしいわ・・・。二人が知り合うきっかけは、加藤さんがまだ巡査だった頃」
「どこかで見た事があるような気がするんだけど・・・」千春は呟く。
「地下駐車場で一条さんが襲われそうになった時じゃない?」
「あ!そうよ。思い出したわ・・・」
二人が地下駐車場の出来事を話していると、失礼しますという女性の声が聞こえた。入ってきたその女性を見て二人は驚いた。
「いらしてくださったのね。お茶も出さずにお待たせしてごめんなさいね」
「あなたが何故?」
千春は自分でもおかしな質問をしていると分かっていたが・・・。それに対して千秋は心配そうに声を掛けた。
「本当だったのね。大丈夫ですか?何かあったわけではないですよね」
「ええ。会長の体調がよろしくないようなのでお世話をと思って・・・」
「千秋、どういうこと?あなたは舞子さんがここにいるって知っていたの?」
「千夏姉さんの原稿を預かった時に聞いていたの」
いったい千秋は何を心配しているのだろう。舞子に対してあまり良い印象を持っていないはずなのに、千秋の彼女に対する態度が腑に落ちなかった。
「何が大丈夫なの?何が本当だったの?何かあったわけではないってどういうこと?何か良くないことでも起きるって意味なの?千秋答えなさい」
舞子は息子の身の安全を守る為にここにいるのだ。それを千春に説明するとややこしいことになる。会長が体調を崩しているとわざわざ舞子が自分の話しに合わせてくれたのだから、ここを上手く切り抜けなければ・・・。
「何も起こっていないから心配しないでいいのよ。舞子さんから会長が体調を崩しているって聞いて心配していたのよ。私たちをこうして呼び出すぐらいだからたいしたことないって事でしょう」
「この二三日調子がいいようですよ。会長がお待ちになっていると思いますのでご案内しますね」
「なんだか軽くかわされた気がするけど、あの人を待たせるわけに行かないわね」
「そういえば、千夏さんはいらっしゃらないの?」
「それが今日から取材旅行に出かけたみたいで・・・」
千春たちは自分たちが嘘を言ってごまかしているような気がして後ろめたいが、取材に出かけたという口実は本当だ。しかし、舞子が千春の話を疑っている様子はない。会長もそれを信じてくれることを祈るしかない。
