千春は車を止めて千夏の仕事部屋を見上げる。明かりがついているところを見ると、今は執筆に専念しているのだろう。
友美から電話があり、事の顛末を聞かされた。
相場の計画についての話から、フラワーショップの前で千夏が相場を思いっきり引叩いたところまで、友美は動揺を抑えきれない様子で語った。
相場が浅井由香里と店に戻って来たというくだりに、最初はそれほど騒ぎ立てることでもないと思っていた。しかし、だんだん話がこじれ複雑な様相を見せ始める。これはそう簡単な問題ではなさそうだと気付く。
相場は今のフラワーショップの経営に満足せず、規模を広げていこうと考えているようだ。今の店を共同経営者である友実に任せ、自分は二号店と自ら農園経営に乗り出すつもりなのだ。
果たして、それは間違ったことなのか・・・。否。
現状に満足せず、将来に目を据えて、さらに上を目指すことが悪いというわけではない。男なら尚更のことそう考えるのは当たり前ではないか・・・。
これはあくまでも千春の想像に過ぎないが、規模を広げることの良し悪しはともかく、そのやり方が問題なのではないか・・・ということだ。
相場の計画に浅井由香里と沢田グループがスポンサーとして関わることになると聞き、正直言って千春も少し呆れてしまった。千夏と沢田グループとの因縁を考えれば、相場が沢田グループをスポンサーにするとは信じがたいことだ。
友美によると、二人はここしばらく会っていないようだ。どうやらまたもや編集者である浅井のことが関係ある様子。兄妹揃って千夏にとって悩みの種らしい。
編集者の浅井が福山家を訪れた時に、相場とちょうど鉢合わせになったことがあった。その時は千秋が二人を心配して、相場を強引に連れてきたのだ。まさか浅井が来ているとは千秋も思わなかっただろう。まったく間の悪いことに・・・。
結局のところすれ違いや誤解によって二人の間に溝が生まれ、徐々に二人の間に距離ができてしまった。相場を責める気持ちも分かるが、二人の問題に口を出すもの考えものだ。もちろん、妹として心配ではあるが・・・。今は、感情的になっているから何を言っても聞こうとしないだろう。落ち着いて冷静になれば、どうするべきか分かってくるはず。
やれやれ、相場さんにも困ったものだ。女心がまるで分かっていない。千夏姉さんが、どうしてああいう行動に出たのか考えてみてほしい。少し頭を冷やして、男らしいところを見せてほしいものだ。
「うん、ちょっと友美と話していたの」
「食事は?」
「まだよ」
二人が話していると二階から緑が降りてきた。千春にお帰りなさいと言いながら、テーブルの上のせんべいを取り口に頬張る。
「ネエ、緑ちゃん?」
「何でひか?」緑は口をもごもごさせながら答える。
「千夏姉さんの様子はどうだった?」
「様子・・・でふぃか」せんべいを飲み込みながら咳き込む。
「いつもと何か変わったことなかった?」緑の背中を叩きながら千春は言った。
せんべいが喉をようやく通り過ぎてお腹に治まると緑は言った。「う~んと・・・。そういえばいつもより静か・・・だったかな?」
「そう。それならいいの」
「千春姉さん、何よ。へんなこと聞くのね」千秋は眉を顰めて千春を見た。
「緑ちゃん。勉強の方はどう?順調?」
「ええ、まあまあです。せんべいもう一枚食べたら戻ります」
千春が何を言わんとしているのか、どうしろというのか緑はなんとなく察して立ち上がる。千秋は階段を駆け上がる緑の足音を聞きながら千春に言った。
「ねえ、千夏姉さんに何かあったの?」
「姉さんのことはしばらくそっとしておいた方がいいのよ」
「どういう意味なの、それって・・・」
千春の話を聞きながら千秋は眉を顰める。相場の計画そのものが悪いことではないし、沢田グループがスポンサーなら資金面で不安はなくなる。むしろ喜んでもいいはず・・・。一つ気になるといえば、浅井由香里の存在だけだ。お姉さんが嫉妬するのは仕方ないと思うけど・・・。
「何が問題なの?」
「相場さんが沢田グループと関わる事になったのは、沢田グループの息子である正次さんとお姉さんが恋人だったからでしょう。もし、そのことがなかったら相場さんが沢田グループと関わることも、融資を受けることはなかったわけじゃない。お姉さんとしては自分が利用されたと思うと腹が立つんじゃない?」
「それはお姉さんの言い分でしょう。相場さんのような人なら、自力で沢田グループに取引する度量はあるわ。コネで手に入れるような、小賢しいことを相場さんが使うと思う?」
「千秋からそんな言葉が出るとは驚きだわ・・・。あなた、相場さんの味方する気?」
「どっちの味方とかいう問題じゃないでしょう。亡くなった人にずっと嫉妬していろというの?過去のことにいつまでもこだわって、せっかくのチャンスを見逃せというの?」
「分かったわよ。そう興奮しないで・・・」千春は笑いながら降参するように手を振る。
「何よ、お姉さん・・・。もしかして。私をからかったの?」呆れた!
さて、困ったことになった。どうするべきか、ふざけている場合ではないと千秋は溜息をつく。
「何よ。その溜息は・・・」
「間が悪いというか、グットタイミングというべきか・・・」
「何?また問題発生?」
「お姉さんに見せたいものがあるの、とってくるから待ってて・・・」
こういう時は決まってよろしくないことが起こるのよね・・・。沢田グループが絡んでいると必ずとんでもないおまけが付いてくる。相場さん、慎重に行動してよ。沢田グループというだけでも、お姉さんが敏感に反応するって分かってるのかしらね。うん?それは千秋か・・・。もしかして感染した?千春はそんなことを考えながら千秋が戻ってくるのを待つ。
千秋は原稿の入った封筒を千春に手渡す。
「これは、お姉さんの原稿でしょう。これがどうかしたの?」
「舞子さんから預かってきたものよ。生前に正次さんから自分に何か起きたら、これを千夏姉さんに渡すよう頼まれたそうよ」
「え?何、舞子さんに渡した?正次さんが何で舞子さんに預けたりするのよ。彼が直接お姉さんに渡せばいいのに。それに、自分が頼まれたのなら舞子さんが直接お姉さんに渡すのが筋でしょう。どういうことなの、さらにあなたからお姉さんに渡すよう頼むなんて・・・。ああ、ややこしいわね」
「それよりも、正次さんが自分の身に危険が迫っていたことを、予期していたってことの方が問題でしょう」
「何よ、それ・・・。彼は自分が殺されるかもしれないと思っていたってこと?でも、おかしいわよ。この原稿はお姉さんが書いた小説でしょう。もしかして、この原稿に何か意味があるってこと?彼からのお姉さんへのダイイング・メッセージ・・・」
「考えすぎかもしれないけど、私はなんだかそんな気がするの。千春姉さんがこれを読んだらショック受けるかもしれない・・・」
「これを私に読めというの?」
友美から電話があり、事の顛末を聞かされた。
相場の計画についての話から、フラワーショップの前で千夏が相場を思いっきり引叩いたところまで、友美は動揺を抑えきれない様子で語った。
相場が浅井由香里と店に戻って来たというくだりに、最初はそれほど騒ぎ立てることでもないと思っていた。しかし、だんだん話がこじれ複雑な様相を見せ始める。これはそう簡単な問題ではなさそうだと気付く。
相場は今のフラワーショップの経営に満足せず、規模を広げていこうと考えているようだ。今の店を共同経営者である友実に任せ、自分は二号店と自ら農園経営に乗り出すつもりなのだ。
果たして、それは間違ったことなのか・・・。否。
現状に満足せず、将来に目を据えて、さらに上を目指すことが悪いというわけではない。男なら尚更のことそう考えるのは当たり前ではないか・・・。
これはあくまでも千春の想像に過ぎないが、規模を広げることの良し悪しはともかく、そのやり方が問題なのではないか・・・ということだ。
相場の計画に浅井由香里と沢田グループがスポンサーとして関わることになると聞き、正直言って千春も少し呆れてしまった。千夏と沢田グループとの因縁を考えれば、相場が沢田グループをスポンサーにするとは信じがたいことだ。
友美によると、二人はここしばらく会っていないようだ。どうやらまたもや編集者である浅井のことが関係ある様子。兄妹揃って千夏にとって悩みの種らしい。
編集者の浅井が福山家を訪れた時に、相場とちょうど鉢合わせになったことがあった。その時は千秋が二人を心配して、相場を強引に連れてきたのだ。まさか浅井が来ているとは千秋も思わなかっただろう。まったく間の悪いことに・・・。
結局のところすれ違いや誤解によって二人の間に溝が生まれ、徐々に二人の間に距離ができてしまった。相場を責める気持ちも分かるが、二人の問題に口を出すもの考えものだ。もちろん、妹として心配ではあるが・・・。今は、感情的になっているから何を言っても聞こうとしないだろう。落ち着いて冷静になれば、どうするべきか分かってくるはず。
やれやれ、相場さんにも困ったものだ。女心がまるで分かっていない。千夏姉さんが、どうしてああいう行動に出たのか考えてみてほしい。少し頭を冷やして、男らしいところを見せてほしいものだ。
千春が帰ってみると千秋が居間でテレビを見ていた。
「千春姉さんお帰り。遅かったのね」「うん、ちょっと友美と話していたの」
「食事は?」
「まだよ」
二人が話していると二階から緑が降りてきた。千春にお帰りなさいと言いながら、テーブルの上のせんべいを取り口に頬張る。
「ネエ、緑ちゃん?」
「何でひか?」緑は口をもごもごさせながら答える。
「千夏姉さんの様子はどうだった?」
「様子・・・でふぃか」せんべいを飲み込みながら咳き込む。
「いつもと何か変わったことなかった?」緑の背中を叩きながら千春は言った。
せんべいが喉をようやく通り過ぎてお腹に治まると緑は言った。「う~んと・・・。そういえばいつもより静か・・・だったかな?」
「そう。それならいいの」
「千春姉さん、何よ。へんなこと聞くのね」千秋は眉を顰めて千春を見た。
「緑ちゃん。勉強の方はどう?順調?」
「ええ、まあまあです。せんべいもう一枚食べたら戻ります」
千春が何を言わんとしているのか、どうしろというのか緑はなんとなく察して立ち上がる。千秋は階段を駆け上がる緑の足音を聞きながら千春に言った。
「ねえ、千夏姉さんに何かあったの?」
「姉さんのことはしばらくそっとしておいた方がいいのよ」
「どういう意味なの、それって・・・」
千春の話を聞きながら千秋は眉を顰める。相場の計画そのものが悪いことではないし、沢田グループがスポンサーなら資金面で不安はなくなる。むしろ喜んでもいいはず・・・。一つ気になるといえば、浅井由香里の存在だけだ。お姉さんが嫉妬するのは仕方ないと思うけど・・・。
「何が問題なの?」
「相場さんが沢田グループと関わる事になったのは、沢田グループの息子である正次さんとお姉さんが恋人だったからでしょう。もし、そのことがなかったら相場さんが沢田グループと関わることも、融資を受けることはなかったわけじゃない。お姉さんとしては自分が利用されたと思うと腹が立つんじゃない?」
「それはお姉さんの言い分でしょう。相場さんのような人なら、自力で沢田グループに取引する度量はあるわ。コネで手に入れるような、小賢しいことを相場さんが使うと思う?」
「千秋からそんな言葉が出るとは驚きだわ・・・。あなた、相場さんの味方する気?」
「どっちの味方とかいう問題じゃないでしょう。亡くなった人にずっと嫉妬していろというの?過去のことにいつまでもこだわって、せっかくのチャンスを見逃せというの?」
「分かったわよ。そう興奮しないで・・・」千春は笑いながら降参するように手を振る。
「何よ、お姉さん・・・。もしかして。私をからかったの?」呆れた!
さて、困ったことになった。どうするべきか、ふざけている場合ではないと千秋は溜息をつく。
「何よ。その溜息は・・・」
「間が悪いというか、グットタイミングというべきか・・・」
「何?また問題発生?」
「お姉さんに見せたいものがあるの、とってくるから待ってて・・・」
こういう時は決まってよろしくないことが起こるのよね・・・。沢田グループが絡んでいると必ずとんでもないおまけが付いてくる。相場さん、慎重に行動してよ。沢田グループというだけでも、お姉さんが敏感に反応するって分かってるのかしらね。うん?それは千秋か・・・。もしかして感染した?千春はそんなことを考えながら千秋が戻ってくるのを待つ。
千秋は原稿の入った封筒を千春に手渡す。
「これは、お姉さんの原稿でしょう。これがどうかしたの?」
「舞子さんから預かってきたものよ。生前に正次さんから自分に何か起きたら、これを千夏姉さんに渡すよう頼まれたそうよ」
「え?何、舞子さんに渡した?正次さんが何で舞子さんに預けたりするのよ。彼が直接お姉さんに渡せばいいのに。それに、自分が頼まれたのなら舞子さんが直接お姉さんに渡すのが筋でしょう。どういうことなの、さらにあなたからお姉さんに渡すよう頼むなんて・・・。ああ、ややこしいわね」
「それよりも、正次さんが自分の身に危険が迫っていたことを、予期していたってことの方が問題でしょう」
「何よ、それ・・・。彼は自分が殺されるかもしれないと思っていたってこと?でも、おかしいわよ。この原稿はお姉さんが書いた小説でしょう。もしかして、この原稿に何か意味があるってこと?彼からのお姉さんへのダイイング・メッセージ・・・」
「考えすぎかもしれないけど、私はなんだかそんな気がするの。千春姉さんがこれを読んだらショック受けるかもしれない・・・」
「これを私に読めというの?」
突然千秋の携帯が鳴る。一条からのメールだった。もうこれ以上問題を増やしてほしくないのに、その願いは虚しくさらなる悩みの種を増やしただけだった。
“明日の夜7時に沢田邸で食事会を行います。大事なお話がありますので、三人揃ってお越し下さいますように・・・ ”
「多分、お姉さんは絶対的拒否を敢行するわよ」千秋は首を竦めて携帯を閉じた。
「何で、皆こんなに鈍感なの?このタイミングで、お姉さんが沢田邸に行くわけないでしょうが~~~~~~」
千春の声に驚いた我が家の番犬バンちゃんは、マイ・ハウスから飛び出した。何が起きたのかバンちゃんにはわかるはずもなく、ただ首を傾げてからあくびをする。そして再びマイ・ハウスに戻って行ったのでありました。
“明日の夜7時に沢田邸で食事会を行います。大事なお話がありますので、三人揃ってお越し下さいますように・・・ ”
「多分、お姉さんは絶対的拒否を敢行するわよ」千秋は首を竦めて携帯を閉じた。
「何で、皆こんなに鈍感なの?このタイミングで、お姉さんが沢田邸に行くわけないでしょうが~~~~~~」
千春の声に驚いた我が家の番犬バンちゃんは、マイ・ハウスから飛び出した。何が起きたのかバンちゃんにはわかるはずもなく、ただ首を傾げてからあくびをする。そして再びマイ・ハウスに戻って行ったのでありました。
