彼女が空を飛んだわけ 16-2 | 紫苑の扉

紫苑の扉

主にストーリーと詩を書いています。
あるがままに、そのままに・・・。
徒然に気ままに

 次の日、今度は高藤から電話がかかってきた。美紗子は断らなかった。なぜならこちらから電話をかけるつもりでいたからだ。しかし、それをおくびにも出さないようにしなければならない。
「驚いたな、断られる覚悟で電話をかけたのに、すんなりOKもらえるとは予想外だったよ」
「昨夜は槙野さんと一緒に食事をしました。二日続けて美味しい食事ができるのに断るわけありませんわ」
「槙野に先を越されたか・・・。奴には負けられん」
「なんです、それ・・・」
 美紗子のような安月給ではとても入れない高級レストランへ高藤は連れて行った。どんなにがんばっても生まれや育ちでは高藤には勝てないと、ちょっと拗ねたように美紗子は心の中で呟く。
 窓際の席に二人は案内された。窓からは綺麗な夜景が見えた。
「一人では絶対ここへは来れないわ。それに、私の友達はこんな高級レストランで食事できるリッチな人はいないもの・・・」
「ちょっと大げさだな・・・」
「あなたはこれが普通でしょうよ。なんたって高藤デパートの御曹司ですものね」
「嫌味だな」
「それはこっちのセリフです」
 美紗子は妙な気分だった。槙野といる時より、高藤といる方がリラックスできることが不思議だった。最初から高藤は人の心をリラックスさせる何かがあった。槙野とはどこかで身構えてしまうのに、高藤といると安心できると言っていいかもしれない。それども、時々冗談だか本気だか分からないこともあるが・・・。そう多分に・・・。
「一つ聞いてもいいですか?」
「何でも聞いてくれ」茶目っ気タップリの笑顔で高藤は言った。
「河内幸子とは何処でどう出会ったのか聞きたくて・・・」美紗子は高藤に会ったら真っ先に聞きたかった。
 高藤は隙を突かれたように、一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。そして、目を伏せてから窓の方を見つめた。美紗子は窓に写る高藤の表情に、暗い影差すのをじっと見守る。美紗子は沈黙に耐えられなくなって言った。
「同期入社で一時は仲が良かったけれど、本当のところ彼女のことはよく知らなくて・・・」
「私はわかっているつもりだった。だが、彼女のことを本当の意味で分かっていなかったかもしれない」高藤の声は低く沈んでいた。
「まだ、話すには時間が必要ですか?」美紗子はいたわるように言った。
「いや、十分時間をかけたと思う。誰かに聞いてもらいたかった。槙野もできるだけ私の前では、彼女の話題を触れないようにしていた。奴からすれば思いやりのつもりだろうが、その気遣いが余計に息苦しかった」
「だからわざと平気な振りしていたと?」
「ただの強がりだ」自嘲気味に答える。
「分かる気がします」
「彼女と出会って五年になるかな・・・。むこうで会社を設立し、どうにか基盤ができた頃だ。ホテルのクラブでひとり飲んでいた。その時、彼女がラウンジの隅で一人カクテルを飲んでいるのが目に入った。すぐに日本から来た観光客だと分かった。同じ日本人と他国で出会うのは嬉しいものだ。私から声を掛けて一緒に飲んだのが縁だった。楽しかったよ。次の日も仕事だと分かっていながら、彼女に観光案内をすると約束までした。それからは仕事が終わってから一緒に食事をするようになった。一週間はアッという間に過ぎたよ。別れはあっけなくやって来た。彼女とはそれだけで終わらせたくない私は、気付いたら日本へ帰ったら君に会いに行くと約束までしていた」
「時々日本へ戻ってこられていたのですか?」
「ああ、彼女会いたさにね・・・」
「彼女はあなたが高藤デパート会長の孫だと知っていたのですか?」
「彼女が高藤に勤めていると聞いていたからしばらくは黙っていた。それを知ったらどうなるか分かっていた。でも、隠しきれるものじゃなかった。間の悪いことに、二人で食事をしていた時、倉田さんと里中さんと鉢合わせになった。里中は私の母の友人の娘で幼馴染みでもある。彼女も私の苗字と二人のことを結び合わせたなら、簡単に私が高藤デパート会長の孫だと分かっただろう」
なんとまあ・・・。ただ驚くことばかりだわ。それにしても、なんだか頭が混乱してきた。美紗子は手を額に触れて目を閉じる。これで謎がひとつ解けたような気がする。だが、まだ完全に解けたわけではない。バラバラになったパズルのピースを一つ一つ填めていけばいい・・・。しかし、まだ探さなければならないピースがいくつも残っている。
 二人はコーヒーを飲みレストランを後にした。昨日の雪は跡形もなく消えていた。夜風が冷たくて美紗子は身を縮める。
 高藤は両手を頭の後ろに組み運転席のシートに寄りかかる。目を閉じて微笑を浮かべた。美紗子にはとても穏やかな表情に見えた。
「少しは気持ちが楽になりましたか?」
「ああ、少しだが・・・」高藤はいつもの茶目っ気たっぷりな表情を浮かべている。
「何ですか、その表情は・・・。まるで何か企んでいるみたいに見えますけど・・・。」
「君がまたデートしてくれればさらに言うことはないよ」
「高藤さん、図に乗らない!」まったく、ちょっと優しくしたらこれだもの・・・。









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