第50話 | 紫苑の扉

紫苑の扉

主にストーリーと詩を書いています。
あるがままに、そのままに・・・。
徒然に気ままに

 神尾は一条の回復を待って退院直後に事情聴取を行い、友人から受け取った書類の内容について聞いた。外部の者に盗まれたとしても他では何の役にも立たない内容で、犯人の目的が盗難とは考えにくいと一条は答えるが、友人の名前は明かせないと言う一条に対して神尾は疑いを持つ。そうなると神尾の疑問はさらに大きくなる。なぜなれば、どうして彼が命を狙われたかということだ。ホテルの地下駐車場での出来事にしろ、今回の事件にしても彼を狙った犯行と考えるのが妥当ではないかと・・・。
 再び犯人が一条を狙う可能性があると考えて、入院中は一条の病室の前に警護がつけられた。退院後もしばらく彼の自宅マンション周囲のパトロールも行われるが、沢田グループの重要人物である彼を守る為に何人もの部下が入れ替わって付いていた。ホテルの駐車場の時のように、彼の側を離れない僕が付いているのだ。ここまで徹底しているのであれば警察の出番は皆無だと神尾は苦笑いを浮かべた。
 神尾は一条からあるものを渡したいと呼び出された。神尾はあるものが何であるのかすぐに察した。事件当時に福山千秋と一条の二人が一緒だったのは、おそらく例のものが関係しているのだ。そのことについて上に報告すべきかどうか神尾は迷っていた。しかし、今回のことですっかりその問題が棚上げになってしまった。今は単独で調べるべきではないかという気持ちに傾いていた。いずれは報告しなければならないことだが、確たる証拠が見つからない限り、今の状態では下手すれば三年前のように上で捻り潰される恐れがある。慎重にしなければ・・・。
 神尾は一条から渡された物証を元に独自に調べ始めた。信頼できる同僚がいないわけではなかったが、何かの形で漏れるようなことがあれば全ては水の泡となる可能性がある。そこで奥の手を使うことにした。
 この仕事をしていると神尾にもそれなりの情報を齎してくれる、いわゆる情報屋が何人かいる。あんがい情報屋の方が思わぬ収穫を齎してくれることもある。情報屋といっても過去に事件を起こした人間というわけではない。この仕事をしていると様々な人間と関わり、繋がりを持つことで持ちつ持たれつの関係が出来上がることもあるのだ。
 それにしても、犯人がなぜ一条を標的にしているのか、犯人の目的とは一体なんだ?まったくわからないことだらけだ。一条にしても何度も狙われているというのにあの落ち着きようときたら・・・。いずれにしても一条は何かを隠している。命を狙われるほどの重要な何かだ。それも沢田グループに関係しているに違いない。
 神尾は沢田グループで何かが起きているという疑いを深めていった。沢田グループの後継者を巡って色々な噂が飛び交っている。一人息子である正次が亡くなった以上は、沢田の血を引く者が後継者になるのが筋だろうが、沢田会長はその問題を保留にしたと聞く。会長が決定を渋るのにはそれなりの理由があるはず・・・。それについては一条なら知っているだろうが、口の堅い彼に聞いたところで答えるとは思えないしな・・・。
 一条は退院して一週間後には仕事復帰した。死の淵をさまよったとは思えないほどの回復をみせ仕事を精力的にこなしている。
 福山千秋の身に何事もなく済んだことが何よりだった。今回の犯人は一条が狙いで、彼女はたまたま一緒にいたというだけだが、彼女を巻き込んだことに対して責任の一端は自分にもある。神尾は今回のことは重く受け止めている。

 福山家の敷地で起きた三つの殺人事件は何かの形で結びついているに違いない。池で起きた二つの事件と、沢田正次が殺された事件を結びつける決定的な何かが欠けている。
 三年前の最初の事件で亡くなった男性は、ある企業の収賄事件の関係者だった。事故と殺人の両面から捜査が行われたが、結局は事故として処理された。しかし、神尾は事故として処理されたことに納得できなかった。
 三年後に再び同じ池で白骨化した親子の遺体が発見される。遺体は川久保弁護士の妻子と判明し、さらに川久保弁護士が収賄事件を担当していたことから、神尾は三年前の事件が事故ではなく、他殺であるという疑いを強くする。池で起きた二つの事件の背景には、ある企業の収賄事件が絡んでいるのだ。
 一条が地下駐車場で襲われたその後に沢田正次が殺された。ここからは沢田グループに関わってくるわけだ。それまでの事件の第一発見者である福山千夏と沢田正次は恋人だった。
 沢田グループ会長の沢田隆之は、まだ無名の作家であった福山千夏を沢田グループ後継者である息子の相手としてはふさわしくないという理由で、二人の仲を引き裂いたである。以前から沢田親子の確執は続いていたが、このことでさらに親子の溝は深まった。沢田正次は父親の反発から出版社の社長令嬢と結婚したが、子供をもうけた後離婚し、古巣の出版社に編集者として戻ることになる。それは福山千夏とやり直す為だった。
 その頃、沢田グループの顧問弁護士である一条直也は沢田正次に沢田グループに戻るように説得を試みていた。沢田正次は一条の粘り強い説得にようやく心を開く。長年続いていた不仲は一条の尽力で修復されたのである。しかし、沢田グループの後継者として彼が戻ってくることはなかった。福山千夏の仕事場であるシャンサインハウスで無残にも何者かによって殺されてしまったのである。
 二件の池での事件と、その後の事件とは結びつく接点がないと思われた。しかし、川久保弁護士と一条がかつて同じ弁護事務所に所属していたこと、二人が収賄事件と関わっていたことが判明する。
 まるでパズルのように一片一片をはめていく地道な作業を繰り返している。最後の一片をはめるまでは真実には辿り着けない。神尾は焦りを感じていた。突破口となるものが見つからない限り事件解決は難しい。気が遠くなるような時間と労力が必要とされる。それでも諦めるわけにはいかない。神尾は必ず事件を解決へと導く真実を見つけ出すと強い決意を固めていた。






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