神尾は車を飛ばして福山家に向かっていた。遅れたのは署を出る前に署長から呼び出されたからだが、その理由は神尾にとって青天の霹靂とも言える内容だった。驚くことに自分が昇進の対象になっていると言うのだ。
神尾は昇進などほとんど眼中になかった。しかし、昇進という文字を目の前にすると正直なところ心が揺れた。川久保の事件や沢田正次が殺された事件を追っていると強く思うことがある。今の立場では思うような行動ができないということだ。三年前の事件の時も圧力がかかり納得がいかないまま終わった。その後悔もあるかもしれない。
署内はこの三年の間に半分は異動になって、三年前の事件の捜査に関わった者たちも数人しか残っていない。考えれば三年前より仲間との関係もうまくいっている。中にはまったく気が合わないものもいるが・・・。
昇進すればそれなりの責任が自分の肩にかかってくる。自分の下になる者たちの責任も持つということでもある。なんとも気が重くなる話だ。まあ、昇進すればだが・・・。
福山千秋と会ったのは昨夜のことだ。向こうから会いたいと言って来たのもいいタイミングだったと言えるかもしれない。
正直なところ捜査は進展していない。所轄内が無法地帯というほどではないにしろ、年々凶悪な事件が増えているのは事実。それを言い訳にするわけではないけれど、ひとつの事件にばかり手をとるわけにはいかない。
行き詰っている時は少し距離を置き、見方を変えれば違った角度で何か見えてくることもあるかもしれない。そう思っているところに彼女がタイミングよく現れた。彼女と会ってみて、少しつつけば何か出てくるという気がした。
彼女が一条を警戒しているのは一目瞭然。一条の何がそこまで彼女に不信感を抱かせるのか、二人の間で何があったのかは謎である。
神尾は鋭い洞察力をもつ三姉妹が、事件の核心へと導く鍵を握っていると確信している。彼女たちは好き好んで巻き込まれたわけではなく、避けがたい運命と言うより三人の宿命ではないだろうか・・・。
福山姉妹は強い絆で結ばれている。それぞれに個性的で魅力的でもある。長女はのんびりしているようで、ズバッと痛いところをつく魔女(私が最も怖い存在でもある)。次女はバリバリのカリスマ・カメラウーマン(三人の中で一番美人かも・・・)。末っ子はおとなしそうで三人の中で最も意志の強い理性派である(しかし、とらえ難い謎多き・・・かな?)。
神尾が到着するや否や、千夏の開口一言が待ち受けていた。
「ずいぶんと御早い到着ですこと」
ほとんど口を開かず押し殺し様な言葉が飛び出す。そらきた。顔は笑っているように見えるが、そこがまた怖い・・・。彼女が発するオーラはあまりにも強烈だ。この私でさえ腰が引ける。仁王様か、はたまた今にも杖を振り回して、私を蛙にでも変えようとしている魔女のようだ。
「これでも車をぶっ飛ばしてきたんだぞ」
「あのポンコツ車でかい・・・」千夏はフンと鼻を鳴らす。
ポ・・・ポンコツ・・・。神尾は口をパクパクさせている。千春と千秋は思わず噴出しそうになる。しかし、千夏は神尾にさらに追い討ちをかけることを忘れなかった。
「まあ、仕方ないわね。今度は性能のいい新車を買いなさいよ」
「畜生!絶対昇進してやる」神尾は小さく呟く。
「なんか言った?」
― さすがの神尾も千夏には敵わないようだ。しかし、口では色々言っても神尾は千夏にとって大切な友人で心許せる間柄なのだ。多分・・・。―
「で、私たちに話って?」
この切り替えの早さには負ける・・・。神尾は大きく息を吸い込み思いっきり吐き出す。
「捜査の進展はほとんどない。どの事件もだ」
「何よ。それ・・・」
神尾は何か言おうとする千夏を遮るように言った。
「進展はなくても、君たちが知らないことはまだある。そして、私が知らないことを君たちは知っている。違うかい?」
千夏は二人の妹をちらりと見てから神尾に向き直る。
「どっちから話すべきかしら?刑事さん・・・」千夏は眉をわずかに上げる神尾をじっと見つめる。
「素直に君が情報を提供するとは思っていないさ。こっちが折れるしかないだろう?」神尾は勝敗がどちらにあるかはすでに悟っている。
「あら、話があるって来たのは誰だったかしら?」
神尾は白旗を揚げて話し始める。
神尾は昇進などほとんど眼中になかった。しかし、昇進という文字を目の前にすると正直なところ心が揺れた。川久保の事件や沢田正次が殺された事件を追っていると強く思うことがある。今の立場では思うような行動ができないということだ。三年前の事件の時も圧力がかかり納得がいかないまま終わった。その後悔もあるかもしれない。
署内はこの三年の間に半分は異動になって、三年前の事件の捜査に関わった者たちも数人しか残っていない。考えれば三年前より仲間との関係もうまくいっている。中にはまったく気が合わないものもいるが・・・。
昇進すればそれなりの責任が自分の肩にかかってくる。自分の下になる者たちの責任も持つということでもある。なんとも気が重くなる話だ。まあ、昇進すればだが・・・。
福山千秋と会ったのは昨夜のことだ。向こうから会いたいと言って来たのもいいタイミングだったと言えるかもしれない。
正直なところ捜査は進展していない。所轄内が無法地帯というほどではないにしろ、年々凶悪な事件が増えているのは事実。それを言い訳にするわけではないけれど、ひとつの事件にばかり手をとるわけにはいかない。
行き詰っている時は少し距離を置き、見方を変えれば違った角度で何か見えてくることもあるかもしれない。そう思っているところに彼女がタイミングよく現れた。彼女と会ってみて、少しつつけば何か出てくるという気がした。
彼女が一条を警戒しているのは一目瞭然。一条の何がそこまで彼女に不信感を抱かせるのか、二人の間で何があったのかは謎である。
神尾は鋭い洞察力をもつ三姉妹が、事件の核心へと導く鍵を握っていると確信している。彼女たちは好き好んで巻き込まれたわけではなく、避けがたい運命と言うより三人の宿命ではないだろうか・・・。
福山姉妹は強い絆で結ばれている。それぞれに個性的で魅力的でもある。長女はのんびりしているようで、ズバッと痛いところをつく魔女(私が最も怖い存在でもある)。次女はバリバリのカリスマ・カメラウーマン(三人の中で一番美人かも・・・)。末っ子はおとなしそうで三人の中で最も意志の強い理性派である(しかし、とらえ難い謎多き・・・かな?)。
神尾が到着するや否や、千夏の開口一言が待ち受けていた。
「ずいぶんと御早い到着ですこと」
ほとんど口を開かず押し殺し様な言葉が飛び出す。そらきた。顔は笑っているように見えるが、そこがまた怖い・・・。彼女が発するオーラはあまりにも強烈だ。この私でさえ腰が引ける。仁王様か、はたまた今にも杖を振り回して、私を蛙にでも変えようとしている魔女のようだ。
「これでも車をぶっ飛ばしてきたんだぞ」
「あのポンコツ車でかい・・・」千夏はフンと鼻を鳴らす。
ポ・・・ポンコツ・・・。神尾は口をパクパクさせている。千春と千秋は思わず噴出しそうになる。しかし、千夏は神尾にさらに追い討ちをかけることを忘れなかった。
「まあ、仕方ないわね。今度は性能のいい新車を買いなさいよ」
「畜生!絶対昇進してやる」神尾は小さく呟く。
「なんか言った?」
― さすがの神尾も千夏には敵わないようだ。しかし、口では色々言っても神尾は千夏にとって大切な友人で心許せる間柄なのだ。多分・・・。―
「で、私たちに話って?」
この切り替えの早さには負ける・・・。神尾は大きく息を吸い込み思いっきり吐き出す。
「捜査の進展はほとんどない。どの事件もだ」
「何よ。それ・・・」
神尾は何か言おうとする千夏を遮るように言った。
「進展はなくても、君たちが知らないことはまだある。そして、私が知らないことを君たちは知っている。違うかい?」
千夏は二人の妹をちらりと見てから神尾に向き直る。
「どっちから話すべきかしら?刑事さん・・・」千夏は眉をわずかに上げる神尾をじっと見つめる。
「素直に君が情報を提供するとは思っていないさ。こっちが折れるしかないだろう?」神尾は勝敗がどちらにあるかはすでに悟っている。
「あら、話があるって来たのは誰だったかしら?」
神尾は白旗を揚げて話し始める。
